月曜日・四
Q
諦めなければ
解決の糸口はみつかります
A
問題の解決に一番いい方法は
諦めることです
これで全て解決できます
◇◇◇
「法が無ければ人を縛るものが無くて社会は破綻する、というのは解るよ。力の無い正義は無力。だからリヴァイアサンに頼る法が社会に必要になるんでしょ?」
「ホッブスのリヴァイアサンな。ただ、法自体は正義を目指して作られても、できた法はただのシステム紹介のテキストだ。一度システムとして機能し始めたら、今度はそれを使って楽をしようとか、儲けようって奴に利用される」
「それで法と正義が解離していくのか」
「暴力団の地上げが違法でも国の地上げは合法だ。成田空港作るのに機動隊が盾で邪魔な年寄りのじいさん一人殴り殺しても違法にはならなかったしな」
夜の廃神社で佳介さんと話をする。毛布が一枚増えてて膝掛けに一枚借りているので暖かい。コーヒーを飲みながら思い付くことを聞いてみたりしてる。
「宏佑くんは法律に興味あるのか? 裁判官か弁護士にでもなるつもり?」
「んー。将来に目指す職業とかは思い付かないけど、これから生きていくためには法律の事を知っておかないと不味いかなって気がする」
「知らないより知ってた方がいいか。自称先進国の中で冤罪事件の件数がトップクラスの国だからなぁ。容疑者イコール犯人て考え方が当たり前の国民性だし」
「そのおかげで治安がいいっていうのもあるよね」
「これで死刑廃止にならないんだから、みんな濡れ衣で死刑になるのも仕方ないって思ってんのかね」
「見せしめとして罰を受けるのが真犯人じゃなくても、犯罪の抑制にはなるってことなのかな」
「この前おまわりさんが面白いことしてたぞ。駅前に自転車を持ってきてた」
「なんのために?」
「最近は自転車の盗難チェックで、おまわりさんが自転車の所持者証明の確認とかしてるだろ?」
「たまに見かけるね。おまわりさんが自転車に乗ってる人を止めて話してるとこ」
「おまわりさんもめんどくさいんだろうな。ボロくて鍵の壊れた自転車を、駅から出たところに持ってきてた。自転車を一台盗みやすく見えるように演出してそこから離れてカモがかかるのを待ってた」
「なるほど。いちいち一人ずつ止めて確認するよりは確実に捕まえられる、か」
「おまわりさんがやってるのはあくまで盗みやすい演出。盗む奴が悪いってことなんだろうけどな」
「警察が盗人を増やすように演出してるんじゃ、犯罪の抑制にはならないんじゃ無いの?」
「やってる奴等にとって、警察の仕事は犯人を捕まえることであって、犯罪の抑制は警察の仕事では無いってことなんだろ」
見も蓋も無い会話。虚飾の無い言葉。なんでこんなに話しやすいんだろう?
何一つ気を遣うこともなく、思うままに言葉を口にしてそれに応えが帰ってくる。
僕にとって初めての経験。ここまで偽らず飾らずに話をしたことなんて無い。
「そりゃまぁ、俺が宏佑くんの家族でも親戚でも無くて学校の関係者でも無いし、宏佑くんの社会生活に影響は無いからじゃないんかな?」
「建前とか必要な相手では無いからってこと? まぁ、子供らしく無いとか言われないように、家族とか親戚相手には気をつける必要があるからね」
「そうそう本音で語れる相手なんて、なかなか会えないもんだ。相手が社会的にも心理的にも自分を脅かさないなら、話は違うけどな」
「佳介さんが社会からはみ出ているから、いろいろと話せるってことか」
「おかげで俺に愚痴を溢す奴は多い。俺もつい聞いちゃうけどさ」
社会の中で生きていくためにはいろいろと隠さないといけないことがある。隠した本音を打ち明けられるのは、人間の社会とは離れたもの。社会の外にある存在。
理想と利益を求めて形作られた社会は歪で、そこは人が本音で生きていけない世界なのかもしれない。少子高齢化も本当の原因は、人類の人の社会そのものへのアレルギーかもしれない。
三杯目のコーヒーを飲み終わる。スマホで時刻を見ると23時50分。ずいぶんと長居したものだ。
「そろそろ帰るね」
「おー、気をつけてな」
手袋をつけて廃神社を出てポケットからペンライトを取り出す。暗い夜の中、ペンライトの灯りを便りに鳥居をくぐって石段を下りる。
今日はやたらと寒いと思ってたら、チラチラと雪が降っていた。明日には少し積もるかもしれない。
ペンライトの小さな灯りで林の中の石段をてくてく歩く。
視点が変われば見えるものが変わる。佳介さんの視点から見える世界は、僕が知らないことばかりでおもしろい。
いろんな人がいて、いろいろな物の見方がある。多様な意見や異想な主義がある。現代はさまざまな情報が溢れてその真偽の判別が難しい。
教科書や参考書を出版する会社は左翼との関係が根強く、その思想は左寄り。テレビのニュースもスポンサーの意向に添うもので無ければならない。
日本と中国の関係のために、中国の軍隊がしていることは日本では報道されない。
アメリカから輸入する薬品に何が入っているかも、誰も知らないまま子供に使われる。
新しいワクチンがその副反応の実態を隠されたまま、学校で学生に使われる。
1980年代後半から増えた自閉症。原因不明とされる病気だけど、ワクチンに水銀系保存料が添加される以前は珍しい病気で、ワクチンの薬害の可能性が高い。
多くのワクチンには、乳児にとって許容量の400倍を超える水銀が保存料として使われる。水銀が人体、特に脳に残留して重大な損傷を起こす。解りやすい例としては水俣病。
アメリカではワクチンが原因の小児麻痺が事件にもなっている。
1920 年に発行、チャズ・ M ・ヒギンズ著の『ワクチンの恐怖』-大統領に宛てた陸軍・海軍内の強制ワクチン接種の廃止嘆願書-の中で、ニューヨーク市民の死亡診断書の調査では、天然痘の死亡者数よりも、天然痘ワクチン接種による死亡者数の方が毎年桁違いに多い。
だけどワクチンの効果を信仰する人達が多く、ワクチンは商品として優秀。健康な人達にも売れる薬として人気がある。
利益のために効果と安全性のどこまでが本当でどこからが捏造かは解りにくい。
専門家がその利益を得る立場にある以上、その発言をどこまで信用できるのか。
そんな世界でこれからどうやって生き抜くか。何を知り何を疑うか、何を信じるか。情報の発信源、その裏にある金の流れと思想的な立ち位置には注意しないといけない。
知識を蓄えて危ないものを判別して、目立たないようにやり過ごす。
表面は従順な市民という建前の仮面を被り、疑われることの無いように気をつけて、危険には近寄らないようにする。
自分の生活を守るように、あやしいものは遠ざける。
平穏無事に生きるには。
佳介さんの生き方が羨ましくも思える。
僕は僕なりに僕のできることをしよう。
ちーちゃんのために、先輩のために。
そして僕のために。
石段を下りきってもうひとつ鳥居をくぐる。雪がチラチラと降る中で寒さに震える。
首の回りが寒い。あ、マフラーを忘れた、神社の中に。
振り返って下りてきた石段をまた上る。忘れたマフラーを取りに行こう。ポケットからペンライトを取り出してスイッチを入れる。
忘れたマフラーを取りに戻るのだから、不自然では無いだろう。
石段を上って再び廃神社に、いつものように、
「開いてるよー」
と佳介さんの声を聞いてから扉を開ける。
中に入ると佳介さんが右手に畳んだ赤いマフラーを持って座っていた。
「マフラー忘れちゃってた」
「これだろ? 毛布の中に入ってた」
「そう、それ。毛布の中だったのか」
佳介さんからマフラーを受けとる。佳介さんは確かめるように僕の顔をじろじろと見て、
「なるほど。それが宏佑くんの才能か。なんというか、変わってんなー。これは先行きに怖いものがある」
「そうかな? 佳介さんほど便利では無いみたいなんだけど」
そのまま歩いて奥の屏風の裏を覗きこむ。そこには僕を驚いた顔で見上げる女の子がいた。
「久しぶり、ちーちゃん」




