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二話 白く染まりゆく者達 2-1


 暗闇の中で自分の姿だけがはっきりと見える。暗闇と言うよりは黒い世界にいるようなそんな感覚。その黒い世界で私はボロボロの体を無事な右腕で抑える。



 痛い。体全部が・・・。痛い。痛い。


 左腕は動かない。きっと折れているんだろう。


 吐血が止まらない。きっと内臓もやられてしまったのだろう。


 右目が開かない。きっとつぶれて・・・・・


 痛い。痛い。痛い。痛い。痛すぎて、死ぬことも出来ない。だれか、だれか助けて。





 落ち着きなさい。アキ。

 倒れこむ私に声をかけたのは昔よく見慣れた紺のYシャツと灰色のチェックのズボンそして黒1灰色5白4の割合の色の髪の毛と片眼鏡をつけた老人。老人は私を支え上半身を起こす。

 だれ?・・・もしかして・・・お・・・・おじいちゃん!?


 ああそうだ。よし。怪我は治しておいた。しかし休息は十分とるようにしなさい。


 気づくと体が軽くなり痛みが無くなったと同時に祖父は私をおろしその場からゆっくり歩きだす。左腕が動くようになり右目もしっかり開くようになった。しかし、祖父の姿が片目で見ていたときよりも見えづらくなり、腕が使えるようになったのに手は届かない。

 どこに行くの?まって!

 祖父は一度振り返るが足を止めることなくどこかへ去っていく。


 それじゃあ私はいくから。


 待って!待て!・・・・っちょ・・・・待てって、

「言ってんのよ!このクソジジイ!・・・・・・・・?」



 アキは大声を上げて起きた。クソジジイ、なんてはじめて言ったが少しだけすっきりしていた。よく弟のハルも祖父の事を悪く言うような言葉を使うが、もしかするとモヤモヤを愚痴に変換することで晴らしていたのかもしれないと変に納得した。眠気はまだ私を夢の世界にいざなおうとするが、それを振り払いとにかくもうそろそろ起きる時間ではないだろうか?と不安になり、枕元においてあるデジタル時計を掴み自分の目の前に持ってくる。

「五時十一分・・・・」

 安心しデジタル時計を持ったまま腕を時計のあった場所に下ろす。アキは寝ぼけていたが少しづつ頭が冴えてくる。朝5時で外がこんなにも明るいはずが無い。逆!時刻は逆だ!デジタル時計のロゴが上下逆。AM、PM表示が上下逆。もう一度時計を目の前まで引き寄せ上下さかさまに持っていたそのデジタル時計を恐る恐る半周させる。本当の時刻は十一時二十分。



「ち、遅刻だ!」



 今日は木曜日。間違いなく学校はある。そうアキは登校時間を完全に寝過ごしていた。ベッドから文字通り飛び起きて部屋を飛び出した。洗面所へ向かい焦りながら顔を洗い、そして歯磨き粉をたっぷりつけた歯ブラシを咥えながら着替えをおこなうため上の服を脱ぎ洗濯機に入れようとしたその時、洗濯機の中に昨日着ていた青いクマの刺繍のある淡いオレンジのパーカーが血だらけになって入っているのに気が付いた。


 一瞬ホラーを連想し叫びそうになるが、歯ブラシを咥えていたためか悲鳴は不発に終わり、すぐに冷静になる。夢ではなかった。しかし傷は治っている。歯ブラシを数回動かしながら今まで忘れていた昨日の出来事が鮮明に思い起こされるがすこし右側を振り返ると自分のいつも通りの綺麗な顔と右目が見え安心する。左腕を右手でなで、その後自分の顔を鏡でよく確認する。十分から二十分くらい自分の顔を見続けた。きっと、事情を知らぬ者が自分のそんな姿を見ればきっとナルシストだと思うことは間違いない。

 自分の今の姿を客観的に見て寒気がし、歯磨きを済ませ学校へ行く支度を整えるため洗面所をそそくさと出た。が、再びその場所に戻り洗濯機の中に入っていた血だらけのパーカーを袋で包んでゴミ箱にすてた。


 部屋に戻ると遅刻の焦りは完全に吹っ切れ、ベッドに寝転ぶくらいの余裕が生まれてしまっていた。そしてアキは腕組みをし、しばらくぼんやりとする。そしてしばらく時間が経ったことに気づき、学校へ行く支度の続きを開始する。鞄の中身を木曜の用意に変えて、制服に着替える。しかし、その冬服用の制服を暑く感じたアキはブレザーを脱ぎ白のカーディガンに着なおす。アキの動きはいつもよりゆっくりだった。今日は時間がある。完全になくなってしまったからこそ生まれる余裕がアキを不良の世界のよさに気づかせたのかもしれない。時間はとっくのとうに過ぎているにも関わらず準備を整えたあとリビングのソファーでゆっくりとくつろいでいた。再び腕組みをして目をつむり何かを待つように時の流れに身を投じる。そしてそこからさらに数十分経ち、アキは何か思い立ったようにソファーから立ち上がり駆け足で地下室へと向かった。地下室にたどり着いたアキの第一声は、「教えて!」だった。



「たった一匹じゃ足らん!」

「どうしてよ!約束とは違うじゃない!」

 アキは例の約束である悪魔の救出成功の報酬としてアリスが祖父の行方と絵の治し方を教えに来るものだと思い、わざわざ学校の支度に時間をかけるようにしていたようだ。しかしながら、アリスはまったく反応を見せないのでわざわざ地下室に赴いたのだった。


「お前の言っているのはあれだぞ。それぞれおいしいものを持ち寄ってパーティをしようというときに私は多種多様の外国のお菓子を持っていっているのに対して、アキはコンビニのお菓子をひとつだけ私の前に差し、私のお菓子をむさぼり食っているようなものだ!」

「何よ!コンビニのだっておいしいじゃない! たけのこの里とか!」

「アホか!こっちはマカロン、チーズケーキ、チョコレートフォンデュを用意しているのと同じ。たかがマカロンひとつでたけのこの里一箱が買えるんだよ! 知っているか?」

「なにを~!調子に乗るな金持ち!」

 アキとアリスの取っ組み合いで三つのティーカップが置かれた新たな豪華家具のガラスのテーブルが無造作にゆれる。そのテーブルの上でテーブルを波のように乗りこなしさらにジャンプまでする小さな生き物にアキは目が向く。


「落ち着いてくださいお二方。少しずつ話がずれていっています。」

 青いシルクハット、青いコート、青い杖を持った十センチ程の大きさの英国紳士のような姿をした人型の何かが言葉を話している。驚きはあったものの別段飛び上がるほどではなかった。しかしその謎の生物の存在を明らかにするべきだと思ったアキはその青い紳士に尋ねる。

「あなたは?」

「申し遅れました。私、昨夜あなた様に救われたナイトメアでございます。」

 帽子をとり胸にあて優しい一礼をこちらに向けてくれたその青い紳士は自分が昨日ペインティングし救ったナイトメアだったのだ。あの巨大な饅頭の生物がここまで礼儀正しいとも、小さいとも思わなかったアキはすこし感心する。

「あなたが?えらく可愛いサイズになったものね。」

「これは仮の姿です。本当の姿はもう少し大きいのです。あなた様の着色に使われた青が私に新たなる姿を与えてくれました。動きやすく生活には困らない姿を頂き、感謝しています。」

「そんないいよ感謝だなんて。えらく紳士的なのね。かっこいい格好を上げられて良かったよ。」

「もったいないお言葉ですアキ様。」

「とにかくそいつだけじゃ情報を渡す条件として足らないということだ。あと・・・そうだな9体くらい救出することが出来たらすべてを話すことにしよう。」


 アキと青の紳士が盛り上がりアキの呪縛から解き放たれたアリスは机のティーカップを取り、クィーンチェアに足を組んで腰を下ろす。


「9って。私昨日死にかけたんだよ?一回目でこうならきっともう次には・・」

「ああ。確かに死にかけた。しかし、死んではいない。」

 妙に強い口調でアリスはアキの言葉をさえぎる。そしてこう続ける。


「それに一回目よりも二回目のほうがヴェノムパレットをより使いこなすことも出来るだろう。人間の成長の伸び幅は一回目から二回目の間が一番大きく、広い。どんなことでもな。それに、別にやめたっていい。このまま半永久的に真実を葬りたければ葬ればいい。私は・・・・どちらでもいいんだ。」

 勝手にしろ。あくまでも自分で決めろ、と言うアリスに少しばかり大人の雰囲気を感じたアキは無性に悔しくなる。自分より小さい小娘のくせに。



「・・・・・・。やればいいんでしょ?あと9体ね。絶対に忘れないこと!」

「ふむ。善処しよう。」

「でもあと9体だなんて、一週間でやっと一体なのに9って9週間以上、2ヶ月ってことでしょ?下手したらそれ以上かかるじゃないの。私は今すぐ知りたいのに・・・」

ガラスの机に身を預けだらりと体を歪める。アキがティーカップのソーサーを引き寄せるのが見えたアリスは魔法でティーポット浮かばせカップの中に紅茶を注いで見せた。それをアキはうつろな目で確認し、適当に礼を言ってカップを口元に寄せる。アリスがティーポットを机に置くとアリスとアキは静かに優雅なティータイムをはじめる。


 その優美な空間に青い紳士は切れ込みを入れる。


「アリス様。」

「どうした?」

「ここの場所から南西の方角に新たなるナイトメアがいます。」

「そうか、優美な時間はこれで終りだ早速行くんだアキ。」

「へ?」



 ソーサーの模様を観察しなぞっていたアキに仕事の時間がやってくる。



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