1話-1
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
頭が割るくらい痛い。なんでこんなに痛いんだ。自分の頭に手を当ててみるとそこには夥しい量の血がついていた。素人目で見てもわかる。これは助かる量の出血量を超えている。足もピクリとも動かない。
なんでこんなことになってしまったんだろう。学校で最後に聞いた幼なじみの声、生まれた時からずっと一緒に育ってきた双子の兄。次々と色々な思い出が沸き上がってくる。
――これが走馬灯か。
俺は双子の兄を持つごく普通の高校生であった。聡明な兄、和也とは違い運動が他人より少しできるだけであった。
和也はどこか達観していて大人びていた。一卵性双生児であるため見た目は周りの人から区別がつかないと言われるほど似ていたが、纏っている雰囲気で違いを判別できると言われていた。
和也は基本誰とも話さず常に本を読んでいるようなやつだった。話しかけられればきちんと応じるが自分から関わっていこうとはしなかった。そんな和也も俺には唯一心を開いてくれていたと思う。
そんな日常は唐突に終わりを告げた。
「和也、そろそろ帰ろうぜ」
帰りのホームルームが終わってすぐ和也に声をかけた。和也はホームルームが終わったのにも気づかないほど集中して本を読んでいた。本にはブックカバーがかかっており、タイトルはわからない。この前試しに聞いてみたがうまくはぐらかされた。
和也は俺の声にぴくんと体を揺らしこちらに目を向け、周りをきょろきょろと見回していた。ここで初めて帰りのホームルームが終わったことに気づいたようであった。
「○○か。弥生は一緒じゃないのか?」
「弥生は日直だから居残りだと〜。空手の稽古あるし先帰りましょうや」
和也は俺の言葉に納得したらしく、机の横にかけてあったバックを持ち、おれの後に続いて教室を出た。
「そーれっ!!しっかりーー」
階段を下り下駄箱にたどり着いた俺らの耳にはどこかの部活動の掛け声が聞こえてきた。今は4月の下旬。新入生が部活を決め、先輩に色々教わり慣れていってる季節であろう。
俺と和也は2年生であるがどこの部活にも所属していなかった。和也は運動はできるがもともと動くことがそんなに好きじゃなかったし、俺は物心ついた時から入っていた空手の練習が週に何回かあったからだ。
そんなことを考えながらぼーっと校庭で行われている部活を眺めながら校門を出て学校を後にした。
そこで俺の記憶が途切れた。
次に俺の記憶にあったのは道路の真ん中で動けなくなっている少年にトラックが突っ込んでいっているシーンであった。
運転手も突然のことで対処が遅れていた。ブレーキを踏むがスピードが全く落ない。俺は突然の事態に気が動転し体が硬直してしまっていた。心の奥底で助けろという声が聞こえるが体は全く動かなかった。
その時、自分の横を何かが通り過ぎる感じがした。視線を道路に向けるとそこには和也がトラックに引かれそうな少年の方へ全力で走っていた。和也の足は早かった。引かれる直前には少年の元へたどり着いていた。
しかしそこから動く時間は残されていなかった。俺はあまりの事態に目を背けてしまった。それがいけなかったことに気付けなかった。記憶が一瞬飛ぶ。
その瞬間、時間は止まった。
次に俺の記憶が再開されたのはとてつもない衝撃が俺の体を襲った時であった。あまりの事態に吹き飛ばされている様子がスローモーションのように感じた。
「な……なにが……」
俺の体はボールのように5回ほどバウンドしてやっと動きを止めた。それが冒頭の場面につながるのだ。だんだん麻痺してきたのか、痛みを感じなくなっていく。ただ体は全く言うことを聞かない。どうすることもできない状況だからであろうか、思考が明瞭になっていく。
なぜ歩道にいたおれが引かれたのか。そして一瞬記憶が飛んでいるのである。気づいたらはねられていた。その一瞬、俺が感知できなかった一瞬になにかが起こったのだ。
--コツン、コツン。
誰かの足音がこっちに近づいてくる。だか俺はその方向を向くことができない。そしてその足音は俺の体を回り込み、俺の目の前に移動した。
視界に入った靴に見覚えがあった。いや、おそらくほかの誰よりも知っている。その靴は高校生が履くようなローファーであった。そして見慣れた位置にある汚れ、傷。目を上に向けてそこにいたのは--冷酷な目をした和也であった。
「」
和也が何かを言ったのだろう、口の動きはわかるが声が伝わってこない。
あぁ、俺はここで死ぬんだ。何もわからない状況で……。死にきれない。
俺は一種の怒りのようなものを心に燃やしながら力尽きた。




