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闇ギルドVS爆炎の騎士 ④

 闇ギルドの本拠地を見つめながら、ラウルが青ざめている。足を震わせている。

 人と対峙しなければならない事実におびえている。

 (人と戦わなきゃならないなんて。人を……殺さなければならないなんて。そんなの、嫌だ。でも……俺が動かなければナキエルが、死ぬかもしれない)

 震えながら、ラウルは思考する。

 ラウルとナキエルの仲は正直言って浅いといえる。出会ってそこまで時間は経っていない。だけど、ラウルはナキエルに惹かれていたのは確かだ。

 それは吊り橋効果といえるものだったのかもしれない。

 突然異世界なんて場所にやってきた。VRMMOをしていたからこそ、この異世界の事を知っていた。でもVRMMOとして知っていたとしても、現実としてこの世界を知っているわけではなかった。

 知らない事は多い。学ばなければならない事は多い。リア・アルナスという昔の友人がこの世界には居たとはいえ、ほとんど会う事もなく、自分で動いていかなければならない。そんな中でリアにあずけられた少女。自分を慕ってくれる少女。レベルと力はあっても、実際に戦う事に慣れていなくて、張りぼてなラウルの事を心の底から慕ってくれた少女。

 だから惹かれていた。少女との暮らしは、ラウルにとって心地よいものだった。

 そんな少女がさらわれた。

 (ナキエルが死ぬのは嫌なら殺せばいいって……そう、リアはいった。リアは、この世界で人を殺してきたって。確かに強ければ生きて、弱ければ死ぬだけだって、ギルドマスターも言っていた。自分で解決しなきゃ意味がない……って、本当にそうなんだろう。此処は、現実)

 震えている。だけど、目の前の現実から目をそらしてはいけないってことぐらいラウルも分かっている。

 (VRMMOの世界に来てしまったって、リアもいたし、俺は呑気に考えてしまっていた部分があったんだと思う。漫画とか小説とかだとこういう時なんだかんだで上手くいって、ハッピーエンドを迎える。でも、此処は現実だ。現実だから、助けなんてこない。自分でどうにかしなきゃならない……ナキエルが、死ぬ。俺が助けなきゃ)

 足を震わせながらだけど、ラウルはそう決意して足を踏み出した。



 さて、闇ギルドへと向かっていくラウルの事をリア・アルナスは見ていた。



 《空中歩行》で宙を歩き、《何人もその存在を知りえない》で姿を隠しながらただ見ている。

 (一応逃げ出さなかったのか。もしかしたら逃げ出すかなって思ったんだけど。あの闇ギルドは正直レベル百オーバーからすれば楽な相手といえば楽な相手だから殺す覚悟さえあればどうにでもできる。逆に殺さなかったらこれからも狙われ続けるってわけだから、殺せるかどうかなんだよね、本当。というか、このレベルの闇ギルドなら多分ソラトでもなんとかなるぐらいだと思うし、レベル150のラウルからしてみれば実力的には余裕なはず。それにしてもラウルが戦う覚悟を持ったら私より強い存在がまた一人増えてしまうし、私はもっと精進してレベル上げなきゃ。怖いし)

 リアは相変わらず心の声が多い。友人が闇ギルドに特攻したというのに悲壮感はなく、ただ闇ギルドの建物を見ている。

 (うーん、どんがしゃやっているなぁ。ラウルはちゃんとやれてるのかな。闇ギルドからラウルが出てこなかったら闇ギルド潰そう。出てきたら帰って寝よう。明日も学校だし)

 リア、建物の方で戦闘音がするのをただ聞いている。翌日学校があるのに、闇ギルドとギルドメンバーの戦闘を呑気に傍観している学生なんてリアぐらいだろう。

 (それにしてもラウルが闇ギルドに特攻出来たのってやっぱナキエルが死ぬかもって思ったからかな。愛の力は偉大? というか異世界来てすぐ恋愛出来るってラウルの順応力凄い。私が転生じゃなくてトリップだったら多分、怖がり過ぎて色々大変だったと思う。ラウルは、ある意味能天気で凄い。私はそんな能天気無理)

 リアは自分が異世界転生ではなく、異世界トリップだったらどうなっていただろうかと考えて身震いした。

 異世界転生でこの世界に十数年生きてきても色々なことにおびえながら暮らしている《臆病者》のリアである。異世界トリップで、この世界にきて少ししか経っていない状況でラウルのように恋愛をしたり出来るかというと無理だとリアは思う。

 (んー、音収まったけどどうなのかな? 火柱が上がってるように見えるからラウル吹っ切れた?)

 《爆炎の騎士》という通り名がついているように、ラウルは《火属性》魔法の使い手である。剣技と火の魔法を使って戦う正統派の戦い方をする存在だった。

 (ソラトも《炎剣》なんて呼ばれているし、ラウルと割と似てるかな。まぁ、戦い方も違うし、ユニークスキルも違うけど。ラウルの奴は、一撃必殺って感じのスキルだし)

 リア、呑気に考え事をする。

 ラウルの安否の心配はしていない。死んだら死んだで、生きていたらまた友人になる。ただそれだけなのだ。リアの感覚では。

 地球に帰れるかは正直微妙で、帰れない確率の方が高い。ならば、この世界で生きていく覚悟をもっとしてもらう必要がある。

 リアは、入り口を見据えている。



 しばらくしてラウルは出てきた。ナキエルに支えられながら、怪我をした状態で。




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