【準決勝】第二試合
「まずは1勝か」
案外早く勝負が付いたな。
だが一歩間違えば、即死していたのは俺の方だっただろう。
俺はあのサーフボードが万事屋の下に向かう刹那、万事屋が付与されている色と同じ極性の雷弾を撃ち込んでおいた。
結果、万事屋はサーフボードを掴めずに復帰を阻止出来た訳だ。
万事屋の敗因としては、俺の挑発に乗らず堅実に攻め続けなかった事だ。
勝負を急ぎ過ぎるが余り、余計な隙を晒してしまった。
彼が空中に移動した時点で、俺の方に勝利の女神が微笑んでいたのだ。
「これで祐介からの依頼は終わった訳だが……」
前の俺なら、依頼が終わったからとイベントが終われば別ゲーに行っていただろう。
だが、想像以上に『Relics Online』が楽しいと思う自分が居る。
それを無下にする事は出来ない。
「今思えば、俺このゲームにハマってるんだな」
ちゃんと俺はゲームを楽しめている。
累計何時間プレイしているのか分からないが、こんなにハマったのは久しぶりだ。
それを無視して別ゲー?
――――無いね。
この際だ、とことん『Relics Online』を楽しもうじゃないか。
「第二試合――――BAN対ヒーロー」
思考を第二試合の方に切り替える。
正直、あの戦いを見る前は決勝戦でBANと戦うものだと思っていた。
だが、想像以上にヒーローが強すぎる。
……どう対処するつもりだ、BAN。
[第二試合 開始準備]
『トーナメント 無人の街』
戦場は中世ヨーロッパの街並みだった。
周囲は既にもぬけの殻となっており、殺風景な雰囲気が漂う。
この街には誰も居ない――――彼ら以外は。
「ファンタジーに相応しい景色やねぇ。この街並みに、その鎧――――良く映えていますよ」
プレイヤーネーム"BAN"。
彼はその柔らかくも独特な口調と裏腹に、数多くのプレイヤーを知恵で屠ったプレイヤーであった。
まさしく智将、盤面をコントロールし相手に詰みを強制する戦い方を好む。
「蛇者は正直な人だと思っていたけど、お前は正直な人ではなさそうだな」
プレイヤーネーム"ヒーロー"。
彼は実直で誠実、それに加え爽やかな青年であるが、その実力はこのゲーム随一のPSを誇る剣士だ。
人は彼を"勇者"と呼び、多くの者に慕われている。
「おや失敬、お世辞は好みませんでしたか。せやけど、人の事言えないんちゃいます?」
「……というと?」
「君、準々決勝の時「温存して勝とう」って思うてはりませんでした?」
沈黙が流れる。
それは肯定の流れだった。
BANはそれを見てニヤリと笑みを浮かべる。
「えぇ、別に温存も1つの戦術やと思いますよ。それでも、そんな面持ちでトーナメントをを優勝出来る程甘くないのも事実――――」
BANは囁く。
どうせなら、最初から本気を出せと。
「先、言うときますけど、それ封じた状態で私や赤月を倒せるなどと思わない事やね。舐めプしてると痛い目見るで?」
――――その上で、正面から潰すとBANは宣う。
「それとも――――負けた時の言い訳にするおつもりで?」
「……なる程、俺の本気を見たいのか」
ヒーローは決意する。
BANを全力で屠る。
望み通り、全霊を持って叩き潰す。
「……良いだろう、そこまで言うのなら見せてやる!」
[プレイヤー ヒーローは準備完了しました]
「つべこべ言わずにかかって来い。望み通り、この『神霊聖剣』でお前の策略ごと叩き斬ってやる!」
「それは楽しみやねぇ。私の策略、切れるか試してみましょか」
[プレイヤー BANは準備完了しました]
[第二試合 開始まで]
[3]
両者、武器遺物を構える。
[2]
BANは一見すれば、刀身の無い剣のような武器遺物を持っていた。
とても楽しそうに、狙いを定めたような仕草をする。
[1]
一方ヒーローは直剣を構える。
それは『神霊聖剣』と呼ばれた遺物であり、悪を撃ち滅ぼすべく作られた剣である。
そして今は、BANとおう名の悪逆非道なる者を成敗すべく力を貸す。
[0]
[第二試合 開始]
開始と同時に、ヒーローは力を溜める仕草をする。
『神霊聖剣』に秘められたヒーローの奥義【神霊顕現】には2種類の顕現方法が存在する。
即座に顕現させるか、カウンターで顕現させるか。
かつて蛇者には使用を試みるも、寸前で後退したお陰でカウンターには至らなかった。
だが今回の状況では、これが最適解だ。
BANは前の試合にて、初手で【光刃】を出していた。
それは実質不可避の斬撃であり、どこに居ようと攻撃が届く。
その仕様を利用した初見殺し、それを逆に活用してカウンターを狙う。
――――だが、BANが持っていたのは杖であった。
「【遅延行為】」
BANが『刻遅の魔杖』の先を地面に叩く。
すると次の瞬間、自身を中心とした時計のようなエフェクトが出てきたと思えば、ヒーローの身体は遅く鈍化した。
「……やられた!」
それに加え、攻撃が当たった事による【神霊顕現】のカウンター条件の成立。
神霊は攻撃を行ったBANを捉え攻撃しようとするも。
「おっと」
――――簡単に避けられてしまう。
BANは準々決勝の第四試合をよく観察していた。
あの試合にて、ヒーローにはカウンターの手段がある事はバレていた。
自身が【神霊顕現】に拘っていると相手に誤認させ、開始直後にカウンターをしてくるよう誘導する。
その上で、初手の攻撃を【光刃】ではなく【遅延行為】にする事で、カウンターの速度ごと遅くする魂胆であった。
――――BANの狙いは正しかった。
ただ1つ読みが外れた点としては――――
「【光刃】ッ!」
ジリジリジリッ!
【遅延行為】を使用したとしても、攻撃が速い事には変わりないという事。
例え飛行機の速度を遅くした所で、列車並みの速度が出ていれば致命傷に成り得るのだ。
「……なんちゅう速度してるんや、本当に遅くなっとるんやろなぁ……?」
「【飛来天斬】ッ!」
ヒーローは飛ぶ斬撃をBANに向けて飛ばす。
BANは大きく身を翻して躱すと、背後の建物が真っ二つに割れていた。
間違いなく、準々決勝より大分速度は落ちている。
それでも、攻撃の1つ1つが致命傷である事には変わりない。
「【遅延行為】【光刃】ッ!」
ジリジリジリッ!
ガキンッ!
【遅延行為】の延長をした後、【光刃】を振るうも刃で受け止められ弾き返される。
動きが遅くなっているのも関わらず、自分自身と戦えているという事実が身体を伝う。
――――いや、【遅延行為】が無ければ、そもそも戦いの土台にすら上がれていなかったのだ。
「……久々やなぁ、この感覚」
忘れかけていた、死の感覚。
それは、かつて赤月と対峙した時に感じた理不尽の塊。
例えどのような策略を練ろうと、その上からねじ伏せる圧倒的な力。
自分を押し通す我――――
強引で理不尽な彼に酷似している。
「――――ヒーロー、最後に私から忠告を一つ」
それは悔しくも爽やかな笑顔だった。
「あいつのペースに飲み込まれるんやないで」
「……っ!」
次の瞬間、【遅延行為】の効果が解けた刹那――――
BANの身体は両断されていた。
[プレイヤーネーム ヒーローが第二試合に勝利しました]
[プレイヤーネーム ヒーローは決勝に進出しました]




