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他の暗殺者が潜入している訳がない

襲撃が起きた日の深夜――ノアは中庭で昼間に投げたナイフを探していた。


暗闇の中で月に照らされたナイフはすぐに見つけることができた。ナイフには血痕がついている。昼食会でナイフを投げたときにきちんと暗殺者の手の甲に命中したのであろう。


これで、暗殺者の正体を絞ることができる。


暗殺者は手の甲に傷を負っている。ならば、その傷を隠す為に手袋をしていたり、手を気にしている人間がいたら怪しいということである。


早速明日の朝から使用人たちの手の甲をチェックするとしよう。


使用人たちの手の甲を覗いてみたところ、手の甲に傷がある人間なんて一人もいなかった。でも、あの時確実に手応えはあったはず。


一体暗殺者は何処にいるのやら…。


「おい、ルート。その手、どうしたんだ?」


料理人たちの会話が聞こえてきた。


「昨日、手の甲を切っちゃってね…」


「おいおい気をつけてくれよ。お前は期待の新人料理人なんだからよ!」


遠目でみたところ、ルートと呼ばれる料理の手の甲には傷があった。手の甲…俺が昨日狙ったのと同じ場所。今のところ、ルートが怪しいことには間違いはないが、それを裏付ける証拠はない。もしも、人違いだったら大騒ぎだろう。


ではどうすればいいのか。とりあえず俺は、ルートに鎌をかけてみることにした。


ルートの部屋の扉に呼び出しの手紙を入れる。手紙にはこう書いておいた。


『私は貴様が王族の命を狙う暗殺者であることを知っている。正体をバラされたくなければ、今日の夜、執務室まで来い』


もし、ルートが本当に暗殺者ならばこの手紙を間に受けて執務室まで来るはずだ。違ったとしても、イタズラだと思い大事になる可能性は低い。どちらの結果になっても、俺に損はないのである。



執事の業務も終わり、俺は執務室へ向かって歩き出した。すると、執務室に近づくたびに鉄のような独特な匂いが鼻中を支配する。これは裏社会で日常的にに嗅いでいた匂い――血の匂いだ。


そのことに気づいた瞬間、俺は執務室まで歩き出した。まさか、暗殺者に誰か殺されたのか…!?マリアンヌの部屋からそう遠くない部屋のはずなのに、いつもよりも遠く感じる。


執務室の扉の前で中の様子を伺う。中からは物音ひとつもしない。中には誰も居ないのだろうか…。


「ねえ、そこにいるの執事だっけ?入ってきていいよ」


中から意外な人物の声が響く。

あの声は――アルフォンス第一王子殿下のものだった。


扉を開ける。


「わあ、当たりだね」


呑気にそんなことを言うアルフォンス。彼の足元には昼間に見た料理人のルークだったものが転がっていた。


「これは全て…第一王子殿下がやったのですか?」


少し取り乱してしまったが、アルフォンスにずっとしたかった質問をする。すると、表情一つ変えずにこう言った。




「そう、全部僕がやったんだよ」

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