第一王女の私が暗殺者に恋をする訳がない
マリアンヌは自室のソファに腰掛けながら考え事をしていた。
つい二ヶ月ほど前に私の専属執事となったノアはどうやら暗殺者らしい。信頼できる情報屋から得たものだから間違いはないだろう。
だから私はノアに色々仕掛けてみたのである。
しかしどれも結果は惨敗。流石は優秀な暗殺者といったところか。
私が勉強を教えてとせがんでみても、夜に寝れないから隣にいてと言っても、難なく躱されてしまう。何をやってもボロを全く出さないのだ。
というか、暗殺者にしても執事にしても私に優しすぎる。
そういう作戦を行なっているのかどうかは知らないが、私が甘えても応えてくれる人は私の周りあまり居なかったのでドギマギしてしまう。私が彼に心を乱される必要なんてないはずなのに。彼は貴族ですらないし、暗殺者なのだ。私と彼が結ばれることなんて天地がひっくり返ったとしてもあり得ないだろう。
思わずテーブルに頬杖をついてしまう。ここにノアがいたら、
「お行儀が悪いですよ」
と、言ってくれるのだろうか。
最近の私は調子がおかしい。気を抜いてしまったらすぐノアのことを考えてしまう。
これじゃあまるで――
(恋をしているみたい)
恋愛なんて、馬鹿馬鹿しい。王家に生まれた私にとって恋愛なんてできっこないのだ。この先、私を待ち受けるのは政略結婚。
できることならば、ノアと―――。
何を馬鹿なことを考えているんだ私は…。それよりももっと大事な…やるべきことがある。
昼食会でお父上から次期女王に任命された。なぜお兄様ではなく私なのかよくわからないが、任された以上、やるしかない。
それに加えて、先程の襲撃。護衛から犯人は逃走したと聞いたけれど、一体誰を狙った襲撃だったのかしら…。
コンコン
自室に軽やかなノックの音が響く。このノックの仕方はノアだろう。
「マリアンヌ様、お紅茶をお持ちいたしました」
「いただくわ。入ってきて」
このような気遣いを見る限り、彼が暗殺者だということは全く疑えない。むしろ、優秀な執事として最大限の信頼を置くだろう。しかし、私は暗殺者である彼に信頼を置いていると見せつけている。いつ、ノアが正体を見せてしまうのか楽しみである。
そんなことを考えているマリアンヌのことなど知る由もないノアの頭の中は暗殺者のことでいっぱいなのであった――。




