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「シオン! 私と一緒に来るんだ! 私がいなくなれば、この小娘にいいようにされるぞ!」


 護衛二人に両脇から抱えられ扉のほうに引きずられながら往生際悪く叫ぶアーテル公爵にシオンは醒めた眼差しを向けた。


「別に構いませんが」


「……何?」


「タリアが私をどうしようと構いませんよ。私の全ては、()()()()()タリアに捧げているので」


「……タリア? この娘の事か?」


 アーテル公爵が怪訝そうに訊くのも無理はない。シオンしか口にしなかったわたくしの愛称であり、さらには人前で初めて言ったのだから。いや、そもそも自分の家族に関心がない男だ。自分の娘(わたくし)の名すら憶えていないに違いない。


「タリアが父親(あなた)を『排除』したいというのなら私は従うだけですよ」


 シオンはアーテル公爵の疑問に答えず決定事項を口にしただけだった。彼にとって、それは当然の流れだと言いたげに。


「お、お前はっ! あれだけお前を可愛がっていた私を裏切るのか!」


「ふざけるな!」


 顔を真っ赤にして訳の分からない事を言い始めたアーテル公爵に、わたくしの中で何かが切れた。


 わたくしもシオンと同じで冷静で感情が表情に出にくい(たち)だ。だが、この時だけは昂る感情を制御できなかった。


 ソファから立ち上がると護衛に両脇を抱えられたアーテル公爵の前に行き怒鳴りつけた。


「何が可愛がっていただ! ずっとシオンを苦しめていたくせに!」


 シオンの尊厳を踏みにじっていたくせに!


「あれがお前の愛情だとしても、わたくしは認めない!」


 アーテル公爵はシオンに執着している。彼を手に入れるために、彼の父親の不正を暴き実家を潰すほどに。


 幼いシオンを苦しめていた彼の実父を絞首刑にし、彼を引き取ったのはいい。アーテル公爵は自分を虐げていた父親から引き離してくれた恩人だとシオンも語っていたのだから。


 だが、その後、アーテル公爵がシオンにしたのは、結局、彼の父親と同じ事なのだ。


「……『排除』するだけに(とど)めてやろうと思っていたけど、やめるわ」


 言葉の上だけとはいえシオンを貶めるなら、わたくしも容赦しない。


 わたくしの気遣いを、最後の肉親の情を、台無しにしてくれたのは、アーテル公爵自身なのだから。


「貴女が手を汚す必要はない。あの女と一緒にいるだけで、この男には相当なストレスのようですから」


 シオンが言う「あの女」は(アーテル公爵夫人)だろう。


 確かに、アーテル公爵は妻を毛嫌いしているが、彼女と暮らす事でもたらされる彼の嫌悪感やストレスだけでは、きっとわたくしの気はおさまならない。


 わたくしの不満な様子に気づいたのか、シオンは苦笑した。


「私のために怒ってくださったのは嬉しいですが、貴女以外の人間の言動に心動かされる事はありませんから傷ついたりはしませんよ」


 シオンはそう言うが、前世の人格となったエレクトラ相手には動揺していた。あれは前世で因縁のある相手だからだろう。


「それに、どれだけ憤っても貴女は殺人とか尊厳を踏みにじるとかは絶対にできないと思いますよ」


「そんな事ないわ」


 シオンの幸せのためなら、わたくしは何だってできる。


「この男を生涯苦しめてやりたいなら私がします。()()()()()()()()()私以上に熟知している人間はいませんから、貴女がとても思いつかないような地獄の苦しみを与えてあげられますよ」


 怒りのあまり、わたくしがしゃしゃり出てしまったが、誰よりもアーテル公爵に復讐する権利があるのはシオンだ。


「……分かったわ。この男は、あなたが好きにすればいい」


「ありがとうございます」


 シオンは頭を下げて謝意を示した。






 






 











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