11.『思いを馳せる』
読む自己で。
「違う女の子と付き合ってたって、あ――」
「そんなに大きな声を出してどうした――なんで灯莉さんがいるの?」
雄黄色の瞳と金色色の瞳がこちらを見ているのはいいのだが、どこか冷たさを感じて身を縮ませた。
「ふぅん、陽は灯莉さんのことが好きなのね」
「いやいや、陽ちゃんは宵月先生のことが好きですよ」
「あら、家では先生って呼ぶのやめなさいって言ったわよね?」
む、このふたりもなんだかんだで仲良くなっていて気になる。
「灯莉ちゃん」
「なに?」
「例え相手が灯莉ちゃんでもお姉ちゃんはあげないんだから!!」
姉をもらうとしたらわたしだ。
男の人、女の人、男の子、女の子――とにかく他の子には絶対にあげない!
「むぅ……」
「唸ってもむだー、灯莉ちゃんのものにはなりませーん」
「で、どうして灯莉さんがいるのよ?」
「それはわたしにもわかりません」
わたしの態度が悪かったのはわかるけど、だからって外でずっと待っているとかおかしい。というか、べつに約束だってしていないのになんで家の前にいたんだろうか。
「陽ちゃん、ちょっと外で話さない?」
「あーまあ、今日は雨が降ってないからいいよ?」
「というわけで宵月さん、妹さん借りていきます」
「ええ、でもあまり遠くに行っては駄目よ?」
「はいっ」
わたしたちは外に出て玄関前の段差に座った。
目の前はただの道ではあるが、なんとなくわくわくするのはなんでだろう。
「陽ちゃん、その話どこで聞いたの?」
「うん、吉武くんが教えてくれたの」
「あー吉武くんは月陽ちゃんの友達だったからね」
「……その子が彼女さんだったんでしょ? なんで遠距離恋愛を続けなかったの」
彼女に聞くと「そういう説明をされたかー」と少し困ったかのような声音。
「まあ月陽ちゃんが隠していたんだろうけど、ぼくたちは単純に仲が悪くなって別れただけだよ。そこに転校が重なったというだけ」
「付き合うくらいだったのに悪くなっちゃったの?」
「うん。ぼくたちは確かにお互いを好きになって付き合ったのにね」
せっかく誰かを好きになって付き合うことができても別れるリスクがある、と。
そう考えると、もっと関係が深いお父さんとお母さんが続いているのはすごいと思った。
「陽ちゃん、もしかしてだけどさ」
「うん」
「ぼくが過去に付き合ってるって聞いて、さっきあんな青い顔をしてたの?」
「ばっ――ち、違うから……」
吉武くんにも同じようなことを指摘されたな。
べつに特別な意味で好きとかそういうのはないんだけども。
……というか、お姉ちゃんとキスしちゃったし、それも長く。
これで嫉妬してた~なんて言えるわけがないだろう。
「過去に付き合ったことがある人とわたしは違うって思っただけ」
「でもさ、そんなことを言ったらこの先、ずっとその思いを味わうことになるよ」
「そうなんだよねえ……」
周りは過去のことなんて気にせずにいまだけを見ている。
だから素直に動ける、だから良好な関係を築き付き合ったりする。
でもわたしは? ……多分、この考え方をしている限りはこのままだろう。
「ね、宵月さんが好きなの?」
「お姉ちゃんは大好きだよ? だけどさっきのはお酒で酔ってただけだから」
「その割には普通そうだったけど?」
「あんまり酔うタイプじゃないし、仮に酔っても暴れたりすることなくわたしみたいになるだけだからね。おまけに、お風呂に入ると一瞬で回復するんだ」
「陽ちゃんみたいになる?」
「喋り方がね」
あれが本来の喋り方と言っても過言ではないだろう。
だけど見た目と役職的に恥ずかしいからという理由で姉は新たな自分を作った。
唐突だけど恋愛とかってのもそうなのかなって考えている。
終わったら次へと動く――新しい自分を作るのが普通なのかなって。
「おぉ、宵月さん陽ちゃんバージョンも見てみたいな」
「だめだよ、あれを見られるのは妹であるわたしだけなんだから」
「じゃあちゅーで陽ちゃんが蕩けているところを見られるのは、宵月さんの特権なのかな?」
「……べつにこの先はどうかわからないし」
お姉ちゃんは冗談って言ってたし多分、付き合うことはない。
知らない男の人が怖いとか言っていたけど、どうして本番のときのためにキスの練習とか言い出したのだろうか。情に流されたのかな、直前にわたしが泣いたし。
「さっきさ、お姉ちゃんのこともらってあげるよって言ったの。それでお姉ちゃんも『本気?』ってちょっと真剣な顔だったんだけど、『冗談』って言われて泣いちゃった後にキス、したんだ」
「泣いちゃったんだ? それってさ、宵月さんと特別な関係になれなかったからじゃないの」
「どうだろう……気づいたら涙が出ていたからね」
向こうだって真剣に言ったわけじゃないのに、馬鹿みたいにひとりで盛り上がって泣くなんてださいだろう。
「ちょっと聞いてくるね」
「うん……え? ちょっ」
わたしの反射神経でも彼女の腕を掴むことができた。
が、勢いがありすぎたせいでこちらに引っ張ってしまい、
「さ、陽ちゃん……顔、近い」
顔と顔とが急接近。
相手が宵姉というわけではないのに、さっきのを思い出してドクンと心臓がはねた。
「ご、ごめんっ」
「待って」
今度はわたしが掴まれる番だった。
後頭部に手を回されたわたしは離れること叶わず。
だから依然としてわたしたちの距離は近いまま時間だけが経過していく。
「ちゅー、しちゃおっか」
「え? で、できるわけないじゃん」
「なんで? 実の姉にするよりかは健全だと思うけど」
「だ、だって灯莉ちゃんは過去に付き合ってたわけだし……」
「それなら僕と光ちゃん、どっちとする?」
「ど、どっちもしな――」
……急に切なくなった。
なんだろう、この変化は。
わたしにはよくわからなくて、固まっているしかできなかった。
「ふぅ……ぼく、初めてしたな」
「え」
「月陽ちゃんとしていると思った?」
「うん……」
少なくとも卒業までは関わりがあったって聞いて――いや、それも嘘だとわかったのか。だけどキスくらいしているものだと思ってたけど……。
「ぼくたちはプラトニックな恋をしていたからね」
「それじゃあ……わたしたちのは不純ってこと?」
「あれ? もう付き合ってるのかなぼくたちは」
「ち、ちがっ、……もし付き合ったらってこと」
わたし、惚れ性なのかな。
キスされたらもう彼女面、もしそうなら現時点で浮気ということになるじゃないか。
「光ちゃんたちにちゃんと言えるなら付き合おっか」
「いやだからべつにそんなじゃ……」
「いいの?」
「灯莉ちゃんと付き合うくらいならお姉ちゃんと付き合う」
「……ひどい」
「あ、灯莉ちゃんが勝手に――」
……ひどいのはどっちだよ。
だけどあれだな、悲しそうな顔をしているのは嫌だな。
灯莉ちゃんの笑顔が好きなんだ。
もしここで応えたら、笑ってくれるのかな。
「……言って」
「……あなたが笑ってくれるなら」
「陽ちゃんがひどいことをしなければ笑うよ」
「ちょっと電話するから待ってて」
こういうやり方はちょっと卑怯な気がするけど……。
「もしもし?」
「あ、光ちゃん? あのね、わたし灯莉ちゃんと……」
「うん、わかった」
「え? まだ言ってないのに……」
「わかるよ。そっか、おめでと」
「あ、うん……」
って、これじゃあまるで光ちゃんが自分のことを好いてた――って思ってる痛い女じゃんかって気づいたときにはもう遅かった。
「……こっちもごめん、悪口を言ったり変なことを言ったりして」
「い、いや、嬉しかったから」
「あとは……花音ちゃんが仲良くしたいって言ってきたんだよね」
「え、本当に? もしかして……」
「うーん、それはどうなのかわからないけど」
「じ、自分勝手だけどさ、また似たような関係に戻れるといいね」
「あははっ、そうだね。あ、ちょ……か、花音ちゃん!」
今回はどうやら逆の立場になっているようだった。
というか、花音ちゃんがそこにいたのね、わたしはひとり苦笑をする。
「サナー」
「あ、花音ちゃん!」
「良かったっ、光がサナに取られなくて!」
「あはは!」
これまた勝手なあれだけど、光ちゃんが幸せになれそうで良かった。
花音ちゃんもだったら別れなければ良かったのにね。
「お互いに幸せになろうねー」
「うん」
「それじゃあね!」
「ばいばーい!」
電話を切って一旦家の中に入って宵姉に説明。
「陽、なにを心配しているのかわからないけれど、私は別に本気で言っていたわけではないわよ? キスは……してしまったけれど」
「うん、だよね」
「それで灯莉さんと付き合うの?」
「うん、多分ね」
「多分じゃないよ~だって陽ちゃんは言ってくれたじゃん、ちゃんとね」
「ということみたい」
にしても、灯莉ちゃんがわたしを好きになってくれたのってなんでだろ。
あ、実はまだ好きじゃないとかかな? それでこれから仲を深めていきましょう的なやーつ? うん、それでもいっか。
「おめでと。んー私も誰か女の人でも探そうかしら」
「いい人がいると思うよ。あ、ファーストキスを奪っちゃってごめん」
「それは私からしたことじゃない。それこそ灯莉さんに謝らなければいけなくなるわ、それだと」
「謝ってください宵月さん!」
「ふふ、ごめんなさい」
「許してあげます!」
……なんかこのふたりのほうが親密な感じもするけど……。
「ちょっと出かけてくるわ」
「気をつけてね」
姉が出ていき家にはふたりきりになる。
その瞬間に抱きついてきて彼女が言った。
「陽ちゃん、好きだよ」
「どこが好きなの?」
「不器用なとこ!」
「えぇ……」
まあ極端な思考をするところはあるけど、そこを好きになられても困る。
「わたしは明るいところが好きだな」
「ファミレスとかでもガン見してきてたしね」
「だって笑った顔が好きだったんだもん」
「……そういうところだよ」
「あははっ、顔が赤いよ? あのときもそうだったよね」
わたしを三隅さんから守ろうとしてくれて「愛してる」なんて言ってくれて。
あんなこと初めて言われたからかなり嬉しかった。ま、かなり困惑もしたけど。
好きになった理由を聞けてもこの子がわたしを好いた理由がわからないけど、こっちだってなんかいろいろごちゃごちゃしてたしと、そう割り切った。
「なんか疲れた……今日は討論したからね」
「びっくりしたよ、バニラもチョコレートも美味しいでいいじゃん」
「えー戦争だよ」
「わたしともするの?」
「んー、するかもね」
「まじか……」
どうせするなら『どっちのほうが好きか』という言い争いをしたい。
「だけど今日はいいや」
「わたしも」
「寝よ?」
「うん」
電気を消し手を繋いだまま寝転ぶ。
彼女の手から伝わる温もりがこそばゆくて、ドキドキしはじめて。
向こうはどうかと確認してみたら、既に寝ていた。
のび○くんかよって言いたくなるくらいの早さだったから、軽く口づけをしてわたしも目を閉じて、そしてそのまま彼女の温もりに包まれたまま寝たのだった。
1時間経っても寝られなくてぼくは体を起こす。
「もう、陽ちゃんがあんなことをするから」
だから仕返しとして自分からもして、ジタバタ暴れたくなって、暴れて、息が乱れて。
「これからずっと続いていくといいなあ」
暗い部屋の中でひとり呟き、これからのことに思いを馳せるぼくなのだった。
読んでくれてありがとう。
……最近ゲームのやりすぎで全然小説を書けてない。
しっかりと切り替えて書いていこう。




