10.『あからさまに』
読む自己で。
「三隅さん待って!」
幸いわたしのぽんこつ能力でも出てからすぐに追いつくことができた。
そして、三隅さんも足を止めて振り向いてくれたのだが、
「やっぱり追ってきて良かった」
一瞬見えたそれは間違えではなかったようで一安心。
ただまあ、追ってきて良かったと思えただけでそれ以外では安心できないが。
「如月、ちょっと付き合ってくれる?」
「いいよ」
そうして連れて行かれた場所は近くのファミリーレストランだった。
ごはんを食べるわけではないらしくドリンクバーだけを注文した彼女は、飲んでは注いでを繰り返している。
どうせならわたしもと頑張って飲んでいたのだが、余裕さがないこちらはすぐにギブアップ――すぐにお手上げ状態となった。
「で、どうだったの?」
「それが……うまく話せなくて」
告白して玉砕した、なんてことじゃなくて良かったと思う。
でもなあ、これだけ可愛らしい服を着ているうえに、あのときだって可愛らしい顔を見せてたのにな……。
「もう不器用さんっ」
「……あんただって好きな子ができたら同じになるよ」
「そうかなあ? わたしが好きになるとしたら女の子だし、全然普通でいられると思うけどね。というかさ」
「ん?」
この様子だと本当に告白して失敗なんて流れではないだろうし、わたしには言いたいことがあった。
「うまく話せなくて泣いちゃうとか立派な乙女じゃん、それだけ好きになれてるって羨ましいな」
「吉武くんは渡さないわよ?」
「そういうことじゃないよ」
あははと苦笑しジュースを飲む。
ふむ、ところで吉武くんもなんで急に三隅さんとふたりきりで行動するとか言ったんだろうか。まあ灯莉ちゃんが来れなくても出かけること自体はするって言っていたからおかしくはないんだけど、まさかアイスの味について話し合っているのを邪魔したくなかったとかではないだろうし……。
「三隅さんって吉武くんの連絡先知ってるの?」
「教えない」
「だからいいってば! 今日のお礼を言っておかないとさ、逃げてきちゃったんでしょ?」
「そっか……だよね、言っておかないと」
ポチポチある程度打っているところを確認してから画面を見せてもらった。
「え、もしかして初めてなの?」
いま打ったばかりのメッセージしかない。
吉武くんのほうからも特に送られてはいなかった。
普通確認のために『よろしく』くらいは送りそうなものだけど……最近の子はそうなのかな?
「だ、だって今日交換したばかりなんだから当たり前でしょうが」
「ちょっと貸して」
「はい」
悪いとは思いつつも電話マークをタップしプルプルさせ――吉武くんが出たらすぐに彼女へ返した。
「わっ、ば、ばか!」
「えぇ~、吉武くんに聞こえてるけど大丈夫なの~?」
やっぱり吉武くんが絡むと途端に女の子っぽくなって可愛い。
これであとはもう少しくらい柔らかい態度になれば、吉武くんも揺れたとか言っていたことから良好な関係を築けることだろう。
「後で絶対ぶっ潰すから覚悟しろ! あ、吉武くん? さ、さっきは勝手に帰ってごめんなさ……え? 如月? うん、いるよここに……え……」
なんだ? また吉武くんが面倒くさいことでも言い出したのか?
「うん、近くのファミリーレストランにいるから、じゃあね」
彼女がスマホを置いてから話しかけた。
通話中だったりすると迷惑をかけるしなんとなく良くない気がしたから。
「吉武くんが来るの?」
「あんたとふたりで話したいんだってさ。言っておくけど、仮に告白されても断りなさいよ? それじゃあね」
告白されるわけないじゃんか。
もし告白してきたらせっかくのイケメン度が台無しになるし。
となると、灯莉ちゃん関連のことか、三隅さんのことかどちらかということになる。
わたしはそのふたりとも一応友達でいるつもりなので利用しようとした、というところだろう。
「え、いればいいのに」
「うるさいばか。あ、……今日はありがとね」
「あははっ、服とか仕草とか可愛かったよ」
「うるさいばか!」
そうして三隅さんが出ていった後、割とすぐに彼がやってきた。
「すみません、ドリンクバーひとつお願いします」
現れたと同時に注文を済ますか、効率的だな。
「ふぅ、悪いな如月」
「ううん。で、どうだったの? なんか三隅さんは走り去っちゃってたけど」
あれは何度も言うが玉砕したようにしか思えなかったけどな。
ただ、わざわざわたしと話したいということは、吉武くんにとって三隅さんのことはあくまでおまけくらいでしかないのかな……。
「……それがさ、告白、されたんだよな」
「うっそ!?」
「こ、声でかいぞお前!」
ということはやっぱり振られてしまったということか?
……そう考えたら三隅さんって強いなあ。
「……でさ、俺、揺れちまったんだよ」
「うん、それでも友達として――え?」
「だけどまさか逃げられるとは思ってなくて……」
「え、は、え、あなたいまなにを言ったの?」
「だ、だから……告白されて……いいなって」
告白できたのになんで逃げたんだよ三隅さんよ。
あー、多分吉武くんが変な反応を見せたんだろうな……。
「あ、灯莉ちゃんのことは?」
「あー、友達になりたかったんだよ。如月や渡辺と違って優しそうだったからな」
「しっっつれいな人だねぇ、わたしだって優しいよ!」
「でもさ、恋愛経験ないだろ? 相談したかったんだよな」
「ぐっはぁ!? べ、べつに恋できなくても生きていけるしっ、生きてるし!」
どいつもこいつも恋、恋っ、恋!
いいんだよっ、やりたい人たちだけがやっておけば!
べつに非モテだからって死ぬわけじゃないし?
「と、というか、灯莉ちゃんだって非モテ――」
「いや、村瀬はモテるぞ? 大体、俺の友達と付き合ってたしな、以前まで」
ストローですすろうとしたのにうまくできなかった。
……いやまあ考えてみなくても当たり前か。
美ボディで童顔で、初対面でも気さくにいける女の子がモテないわけがない。
わたしだってあの偶然がなければ関われないままで終わったことだろう。
そしてそれがなければ宵姉とも仲違いしたままだったかもしれないと考えたら、本当に恐ろしいこと、だけど……。
「お、男の子?」
「いや、女子だな」
ある意味、男の子であってくれたほうが良かった。
それならどうしてわたしなんかといてくれるんだろう。
「お、おい、顔が青いぞ?」
「……ごめん、お金はここに置いておくから帰ってもいいかな?」
「いや、駄目だ」
「ど、どうして?」
「そんな調子悪そうな顔をしているお前をひとりで帰らせられるわけないだろ」
ああもう……三隅さんにしてやれよ、性格イケメンかよ。
わたしが変なことを言ったせいで、彼はまだ1杯も飲んでないのに退店する形となった。……申し訳なくて仕方がなかった。
「如月、お前、村瀬のことが好きなのか?」
途中、変なことを聞いてきた吉武くんに「違うよ」と答えた。
友達としては好きだけど、そういう意味で好きなんかじゃない。
光ちゃんも灯莉ちゃんも花音ちゃんも、みんなが恋愛体験者でわたしだけが非モテ未体験女。
ただそれだけだというのに、後に恋をしたら未体験なんてほぼいないのに、わたしとは立場が違うんだなって、ピュアじゃないんだなって勝手に考えてしまった。
恋愛未経験者じゃないというだけで勝手に差別する性格の悪さがあるからこそ、わたしは非モテなんだろう、わたしは結論づける。
「ちなみにその女子は宵月先生みたいな人だぞ?」
あの子が可愛い系だから毅然としている子を求めたということか。
なんで別れちゃったんだろう。
「……別れた理由とかってわかる?」
「引っ越したんだよ、中学卒業してからすぐにな」
いまは技術だって進化しているんだから遠距離恋愛でもいい気がするけど。
「相談されたとき、俺はべつに遠距離恋愛でもいいじゃねえかって言ったんだけどな、会いたくなるから嫌だって言ってたんだあいつ」
「あ、でも待って、灯莉ちゃんとは友達じゃなかったんでしょ?」
「ああ、あいつの友達だったから友達の友達だな」
「教えてくれてありがと」
「どういたしまして……って言うべきか?」
恐らく別れ道に着いたのでもう1度お礼を言ってから彼と別れた。
それからすぐのこと、
「やっほー」
「灯莉ちゃん……」
玄関前で体操座りをしていた彼女が立ち上がる。
制服のスカートについた汚れを手で払いなながら「遅かったね」なんて言って呑気に笑ってた。こっちは――うまく笑えなかった。
「ん? 三隅さんと会えなかった?」
「いや……会えたよ、すぐに」
「じゃあなんでそんな暗いの?」
「今日はちょっと体調が悪くて。悪いけど、帰ってくれる?」
「えー看病するよー」
「ごめんっ、今日は帰って!」
だっさ、灯莉ちゃんが誰と付き合ったって自由なのに。
しかも現彼女ならともかくとして、ただの友達――もしくはそれ以下なのに。
――わたしは鍵を開けて中に入ったら鍵をしめる。
扉の向こうから何度も「陽ちゃん!」と自分を呼ぶ声が聞こえてきていたけど、全て無視してリビングに移動した。
「おかえりなさい」
「あ、ただいま」
こうして宵姉とふたりきりになるのも久しぶりな気がする。
比較的早めの時間からお酒を飲んでいる姉に抱きついて、癒やしを求めた。
「喧嘩でもしたの?」
「……ううん、わたしが自分勝手なだけ」
とりあえず全てを説明して宵姉からのアドバイスを求める。
「過去に誰かと付き合うくらい普通じゃない」
が、まあ普通はこういう返答になるよねって感じで。
「ま、私は誰とも付き合ったことないけどね~」
「お姉ちゃん酔ってるの?」
「ちょっと仕事で嫌なことがあってね……」
うるさい学年主任の先生とかいるしな、ストレスも溜まるんだろう。
前だって宵姉にばかりきつく当たる先生がいて、わたしの手でやっつけたいくらいだった。
「それくらいで避けてたらこの先大変だよ~?」
「……お姉ちゃんがいてくれればいい。そういえば男の人とはどうなってるの?」
「探してなんかないよ……だって知らない人って怖いし、それにべつに結婚できなくてもいいしね。遺伝子とか残さない方がいいんだよ」
それを言うならわたしのほうだ。
ただまあ、わたしが付き合うとしても女の子とだから、そもそも遺伝子云々は考える事自体が意味ないんだけど。
「お姉ちゃんは優秀じゃん。あ、だったらわたしがもらってあげるよ」
「本気?」
雄黄色の瞳がこちらを捉える。
表情はさっきまでの暗かったり明るかったりの曖昧なものではなく。
ただただ至って素面のような、真面目な感じだった。
「陽、本気でそう思ってくれてる?」
「え、ちょ」
「冗談なの?」
「……えと、べつに嫌じゃないけど」
お姉ちゃん大好き症候群をわずらってるし特別な意味でも全然――。
「ぷっ、あははははっ、私の方が冗談に決まってるじゃーん!」
「え……」
「ちょっ、な、なんで泣いて……」
「え……? あ、ほんとだ……」
慌てて目を擦ると手に水滴がついた。
冗談を言われて泣くとかメンタルは乙女らしい。
「ごめん、お姉ちゃん」
「……いや、私もごめん」
こういう柔らかな態度の宵姉も好きだけど、先生をやっているときの宵姉も好きだ。格好よくて、綺麗で、わたしにはできないことをできているから。
「ねえ陽」
「ん?」
「キス、する?」
「へ?」
わたしが困惑していると「本番のときのために練習しておきたくて。姉妹なら問題ないでしょ?」なんて言ってくれた宵姉だが、果たしてそういう問題だろうか。
「……酔ってるの?」
「そうかも、しれないわね」
「あっ、酔ってないでしょっ?」
「いいじゃない」
でもあれだ、知らない男の人や女の人にファーストを奪われるくらいならわたしが奪っていたほうがいいのでは? ――というか、わたしって独占欲があるんだなって最近よく思う。
光ちゃんや灯莉ちゃん、そして花音ちゃんもそう、みんながみんなこちらを向いていてほしいのだ。
「……お姉ちゃんからしてくれれば」
目を閉じて待つこと数秒――唇に柔らかい感触が伝わってきてビクリと体が固まった。少しだけ目を開けてみると、お酒を飲んでいたからというわけではない真っ赤になった宵姉の顔が見えた。
「やばいかも……」
「……やばい?」
「うん、もっとしたくなる」
「もっとって――」
そこから1時間くらいはされたままだった。
こっちはいろいろな感情と戦いつつだったので、落ち着かなかった。
「はぁ……はぁ……やりすぎだよ……」
「陽が悪いのよ。でも、……ちょっとお風呂に行ってくるわ」
「うん……行ってらっしゃい」
リビングから宵姉が消えた後、どっちの涎で濡れているのかわからない唇を指でなぞってからジタバタしていた、背徳感がやばかった。
なのに許可したことを後悔していないのが、1番の問題と言えるだろう。
わたしは宵姉――お姉ちゃんとそういう関係になりたいのかな?
光ちゃんや灯莉ちゃん、花音ちゃんとはそうなりたくないのかな?
いろいろ考えたところでもやもやするだけで解決なんかしやしない。
「あ、そうだ灯莉ちゃんに謝らないと」
電話をかけてみた瞬間にスマホの着信音が鳴る。
確認してみると『灯莉』という名前が表示されており――。
「もしもし灯莉ちゃん? さっきはごめんね!」
「開けて」
「え?」
「外にいるから、開けてよ」
わたしは通話をしながら玄関に行って扉を開ける。
「こんばんは」
「え、なんで……?」
「ずっとここにいたんだよ」
「……とにかく入って」
入ってもらったら飲み物の用意をして彼女に手渡す。
わたしは彼女が飲んでいる間に、口の周りをタオルで拭いておいた。
「陽ちゃん、いまなにをしてたの?」
「お姉ちゃんとスキンシップ、かな」
さすがにキスしていましたなんて口にはできない。
「スキンシップ、か」
「うん」
「ねえ、なんでさっき唇だけじゃなくて周りも拭いたの?」
「飲み物を飲んでいるときにふざけたら口の周りをびしょ濡れにしちゃってさ、なんかベタベタしてるなって思って拭いたんだけど……」
宵姉はお風呂で後悔している可能性がある。
だから姉から出してくるまではキスの件、封印しておこう。
「うーん、ちゅーとかではないかー……って、すごい汗かいてるよ?」
「お、お姉ちゃんがお風呂に入ってるから行ってこようかな~」
「だめだよ、待って」
「あぅ……」
三隅さんのこと全然言えないな。
あからさますぎる、なにもなければこんな露骨な反応にはならないのに。
「へえ、ふーん、姉妹でそういうことしちゃうんだ~」
「お、お試しだからっ」
「ふーん、陽ちゃんはえっちな子だね」
「う、うるさい! 違う女の子と付き合っていたこと隠していたくせに!」
って、これじゃあまるで嫉妬してるみたいじゃんか。
さて、どう言い訳をしようか。




