臆病者②
「うるさい。黙れ馬鹿」
ぎゃあぎゃあと喚く女に対して、まずはキツめの口調で怯んでいない事をアピール。
弱気なところを見せればもっと騒ぎ出すのがこの手の馬鹿だ。強気の態度を見せないといけない。
個人的には殴ってやりたいところだが、こっちが先に殴り掛かれば俺が悪者になってしまうので、そこは我慢する。せめて言葉でぶん殴ってやる。
「馬鹿!? 馬鹿ですって! 言うに事欠いて人を悪く言うなんて最低ね!!」
「ならお前は最低に最低を重ねたゴミムシだな」
一応、取り巻き連中の様子も確認する。
数は三人。怪我をしているが、比較的マシな方だけ連れてきたか。
やっている事が正しいかどうか考えてもおらず、自分たちの方が数は多いのだからとこいつらも強気の顔をしている。
数を頼まないと言葉の喧嘩もできない“臆病者”どもが。
しかし、こう、口汚く罵り合いをしているだけなら周囲からしてみれば俺も同類、馬鹿の仲間に見えるな。
騒ぐ馬鹿女と正面を向き合う必要もない。視線を先に逸らしたら負けだとも思わない。これの優先順位は、俺の中ではかなり低い。この場で処分したい、縁を切っておきたいとは思うけど。
だから俺はさっさとやるべきことを済ませるため、受付で応募の確認をしようとするが。
「ちょっと! だからさっさとこっちの仲間に怪我をさせた責任を取りなさいよ!
私は優しいから、銀貨三十枚で許してあげるわ!」
「お前らが勝手にダンジョンに入って、俺の知らないところで小鬼と戦って怪我をしただけだろ? 俺に責任は無い。
と言うか、誰だよお前。馬鹿子か? ああ、ただの馬鹿でいいか」
女は俺の行く手を遮り、邪魔をする。
ああ、本当にウザい。
せめて盛大に名乗りを上げて、自爆してくれと本気で願う。
心底見下げ果てた、そんな顔になってしまうがしょうがない。
目の前の女は本当にそういう手合いだ。
「何が責任は無い、よ! アンタが小鬼の群れを嗾けたんじゃない! こっちは休憩中で疲れていたっていうのに! だから私の仲間が怪我をしたの! 責任取りなさいよ!!」
「馬鹿だけじゃなくて、嘘吐きも追加だな。自分で呼んだんだろう。その大声で。
ああ、ダンジョンでもそんな大声を出すような馬鹿には分からないだけか。残念だな。お前、冒険者には向いてないよ。さっさと廃業しておけ。死ぬぞ」
あまりにもアホらしい。
俺があそこに行くまでに、既に怪我をしていただろうが。
それに、小鬼相手で怪我とか。一人ならともかく、七人もの集団でいたのにありえないだろ。
その後も騒ぐ女だったが、ギルドの警備員が女の方だけ拘束し、連れて行った。
俺にも苦情が来たが、言い返していたので、それはしょうがない。
ただ、あっちは拘束されて、俺は苦情を言われただけ。
苦情のついでにこちらの事情を大きめの声で説明したから、風評被害は少ないはず。
そう考えれば俺の勝利であるし、得る物はほぼ無いし小さな負債が残ったけど、悪縁を断ち切ったのだからそれでいい。




