臆病者①
死んだらそれで終わり。
死ぬかもしれない状況に身を置くことは、死んででも成し遂げたい事があるならともかく、ただ生きるためなら無駄な行動だと思う。
小鬼でしばらく稼いで、ちょっと装備を整えて。それからでもいいじゃないかと思う訳だ。
もちろん、自分の力がどの程度かっていう見極めは難しいし、出会ってない敵と自分は比較のしようがない。俺のように親に聞ける環境にいるとは限らない。
だから、軽く一当てしてみて、実力差を図るというのは悪くない。
でも明らかに準備不足というなら、一度退く方が賢いと思うんだよね。
ここは踏みとどまらなきゃいけない場面なのかな、って事だ。
他所は他所、ウチはウチ。
もしかしたらあちらには何らかの事情があって、数日後までにいくらか稼がなきゃいけないのかもしれない。
ただ、それって仲間を犠牲にしてまでやる事なのかな?
思ったよりも鬼角犬と戦うのは疲れる。
準備はしてきたけど、疲れてミスをしたら厄介だ。
俺はまだ一回しか鬼角犬と戦っていないけど、さっさと帰る事に決めた。
もしかしたら途中で出くわすかもしれないけど、その時はその時。二回は厳しいけどもう一回ぐらいなら余裕が残る、はず。
ついでに、あの厄介な連中と顔を合わせたくないので、ちょっと大回りをして帰ろう。アレの顔を見るのは、小鬼と戦うよりも疲れそうだ。
そんなふうに考えていたけど、帰り道では小鬼の集団と三回だけ戦えばトランスポートまで戻ることが出来た。
早めに切り上げたので、まだ日は沈み切っていない。
換金を終えてもまだ時間に余裕がある。
精神的に疲れていたけど、それでもメンバーの応募が無いか期待していつもの場所へと向かうと、そこで嫌な顔を見付けた。
ダンジョンで出くわした、さっきの女だ。
仲間を引き連れて、なぜか入り口、俺の方を睨んでいる。
「ちょっとアンタ! アンタのせいで酷い目に遭ったじゃない! 責任取りなさいよ!!」
女がいきなり叫び出した。
周囲の視線が俺と女に集まった。
……こいつ、常時これなのか?
「頭がおかしいんじゃないだろうか?」、ではないな。こいつは「頭がおかしい」んだ。
自分が正しいと信じて疑わず、常識や社会の規範を無視する種類の人間だ。
ごく稀にいる、「とにかく大声で不平不満を周囲にブチ撒け、自分の意見をゴリ押ししようとする屑」だろう。
前にそんな客に絡まれる青果店の店員がいるのを見かけたけど、その時は店長が奥から現れてそいつの意見を撥ね退けていた。
けど、自分の意見が通らないとなると、そいつは店の前に置いてあった棚を蹴り壊し、そこから果物を「迷惑料がわりに貰っていく」とか言って衛兵に捕まっていた。
この女からは、その時に捕まった客と同じ臭いがする。
絶対に関わるべきではないと思うけど、ここは逃げるよりも迎え撃った方が良いな。
こんなバカの言動だ、周囲も味方につけられるだろう。あまり大事にはならないはず。
そう判断した俺は、このヒス女に立ち向かうことにしたのだった。




