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第9話① vsマンドラゴラ 代役

「いってきまーす」

白石イズミはそう言って、家を出た。


目的地は図書館で、勉強をするためである。

自室での勉強は、部屋の片づけを始めたくなってしまい集中が乱れてしまうためである。


駐輪場に自転車を停め、入り口に向かおうとしたその時、そこに立っている少女を見て驚いた。

その少女は神様だった。


前に会った時は恥ずかしい格好をさせられたことを思い出し、イズミはなるべく関わりたくなかった。

だが、そんな思いもむなしく、

「あ、白石さーん」

と声をかけられてしまう。


イズミは一瞬、目をそらしたがもう遅く、神様は歩み寄ってきた。

「お願いがあるのですが…」

神様の言いたいことを既に察知しているイズミは

「悪魔退治なら、お断りよ」

と即答した。


もちろん悪魔のせいで困っている人を見捨てては置けない。

だが、それ以上にこの神様は胡散臭く、どうにも信用ならない。

それが、彼女の拒否をする理由だ。


「おー、さすがは白石さん。鋭い」

次の手を打って来ると身構えていたイズミにとって、褒められたことに拍子抜けした。


「褒めたって何も出ないわよ」

釘を刺しつつも、このまま拒否するのも何だか罪悪感を感じ、

「神崎君にお願いしたら?」

と代案を示した。


「チヒロ君は旅行中みたいで、いないのですう」

「そう。それなら仕方ないわね。後はあなたが何とかするしかないわね」

急いで図書館へと向かうと、

「ちょっと待ってください」

と神様は呼び止める。


「もう、何なの?」

早くこの場を立ち去りたいイズミは苛立たし気だった。


「最後に一度、私の話を聞いていただけないでしょうか?これでダメならあきらめますので」

普段と違ってへりくだった態度が気になりつつも、

「わかったわ。本当に最後よ」

と念押しした。


「はい」

神様は嬉しそうに返事をするが、どことなく不敵な笑みが含まれているのをイズミは感じた。


「暑い中の立ち話も何ですから、あちらのベンチに行きましょう」

神様はイズミを木陰のベンチに誘導した。


二人でベンチに腰掛けると、開口一番に神様が

「これを見てほしいのですが」

と手鏡を渡す。


その鏡を見た瞬間、

「何なのっ!これっ!」

イズミは絶叫した。


あまりにも大きな声にイズミ自身が驚いたことで、逆に我に返った。

辺りを見回すと、自分が注目の的になっていて恥ずかしさを感じた。


絶叫の原因、それは衣服を何も身に付けていないイズミが鏡に写っていたのだった。

背景から学校帰りに撮られたと思われるが、街中を裸で歩くことなど考えられない。


「本当にタチの悪い合成写真ね」

真っ先に思い浮かんだ可能性を口にした。

表情こそ平静を装っていたが、語気の強さからかなり怒っているようだった。


「残念ながら違います。これは悪魔の仕業です」

そう神様は否定すると、

「だいたい、こんな貧相な体を合成の素材に使っても面白くないでしょう」

と付け加えた。


その余計な一言は、火に油を注いだようで、

「うるっさいっ」

とイズミは一喝した。


だが、怒り心頭のイズミをよそに、神様は落ち着いていた。

「そこで、私だったらこの画像を無かったことにできますが」

神様は含みのある笑みを浮かべた。


ここで何が言いたいかをイズミは理解した。

「はいはい。で、この悪魔を退治すればいいんでしょ」

その口調は、半ば自棄気味だった。


「良かったあ。でも、ちょっと違うんですよお」

神様はほっとしつつも、イズミへの任務は否定した。


「その悪魔は既にチヒロ君が退治しています。今回は違う悪魔をお願いします。そうしたら画像を全て消しましょう」

結局は、あれほど嫌がっていた悪魔退治をイズミは引き受けざるを得なかった。


そして、最悪な交換条件を提示した神様に対してイズミは、

「あなたって本ッ当に悪魔よりも恐ろしいわ」

と皮肉を言うしかなかったのである。





「友達とご飯食べることになって遅くなるから…」

イズミは自宅に電話でそう告げた。

だが、実際にイズミがいるのは神社で、そばにいるのも神様である。

これから悪魔退治で遅くなるため、ウソを付いたのだ。


電話をかけ終わったのを見計らって、神様が

「では、よろしいでしょうか?」

と問いかける。

それに対して、イズミは黙ってうなずくと辺りは光に包まれた。


光が収束すると、イズミはピンクのスカートの短いワンピースに金髪ウィッグという姿に変身した。

サキュバス退治の時と同じ格好になったことに、

「また、この格好なの?本当あなたのセンスってひどいわね」

と文句をつけた。


「何を言っているんですか?この格好にはちゃーんと意味があるんですよ」

イズミの非難に神様は反論する。


「へー、じゃあ聞きたかったんだけど、何で神崎君は女装なの?」

イズミは前々から、悪魔退治になぜ女装させる必要があるのかを知りたかった。

実際、サキュバス退治後に聞こうとしたが、その時は逃げられてしまった。


「最初は成り行きでした。ですが、女性相手だと思った方が退治には有利だと気付いたのです」

「それじゃあ、私の場合は?」

「白石さんは色っぽさが足りないと思ったから。それ以外の理由はありません」

そう言われ、頭の中が一瞬真っ白くなった。


要は自分に魅力が足りないと言われたことに気付き、顔をしかめて怒りの言葉を口にしようとしたその時、

「さて、今回退治してほしい悪魔ですが…」

神様は本題に入って、話題を逸らした。


「今回は人間ではなく、マンドラゴラという植物の悪魔です」

「植物?」

初仕事のサキュバスは人型だっただけに、植物の悪魔はイメージがわかない。


「植物好きな人間が、自分だけの植物が欲しくて契約をしてしまいました」

「でも、植物なら退治する必要はないんじゃない?」

植物が害を人間に与えるということが想像できなかった。


「マンドラゴラは土に含まれる養分を吸い尽くしてしまうのです。放っておくと全ての植物が枯れてしまいます」

マンドラゴラの危険性を聞いて思わず息を飲む。


「恐ろしい悪魔ね…」

たしかに、この悪魔は人間に対して直接的な被害を与えない。

だが、下手をすると人類が滅亡してしまうかもしれない危険な存在だと悟った。


「ええ。放っておくのは危険なので、退治しなければいけません」

「それで、マンドラゴラはどこに?」

「契約者と一緒に植物園に向かっています」

「植物園ね」

アリスはそう言うと、神社を後にしてマンドラゴラ退治へと向かった。




神社から屋根伝いに上空を移動して、植物園に着いたアリスは2つの異変に気付いた。

まず、全ての植物が枯れているのである。

「こ、これは!」

あまりの異様な光景に、思わず驚いた。


もう1つは何やら強大な気配を感じること。

これも神様が授けてくれた力と推測した。

「あっちにいるということね。とにかく急がないと」

マンドラゴラの想像以上の力に戦慄を覚えつつも、気配の感じる方へ進んだ。


そして、奥の方に歩を進めると、目の前にドームが見える。

気配はその中から感じる。

ドアが開いていたので、中に入ると男性が立っていた。

「さあ、どんどん食べて大きくなりなさい」

男は興奮していた。


そのそばには2mくらいの樹があり、気配が感じられる。

男の独り言と樹の気配から、この樹がマンドラゴラで、この男が契約者であろう。


周囲を見回すと、一面の熱帯植物は徐々に緑から薄茶になり、まさに枯化が進行中だった。

何としても止めなくてはいけない。

その一心からアリスは

「そこまでよっ!」

と呼びかける。


その呼びかけに男が振り向く。

「何だあ?コスプレか?」

男はアリスのこの場には不似合いな格好を見て、率直な感想を漏らす。


だが、すぐに男は

「まあ、いい。私のマンドラゴラの成長は誰にも止めさせない」

とアリスに敵意をむき出しにする。


「さあ、マンドラゴラよ。あの女をやってしまえ」

男が号令をかけたその時、異変が起きた。


地中から出てきた根が、男に向かって一直線に伸びる。

その根が男の口の中に入り、

「うぐおっ!」

むせたような声を出す。


すると、男の体が徐々にしぼんでいく。

マンドラゴラが男から養分を吸い取っているのだった。


「そ、そんな…」

ここまで育ててきたマンドラゴラの裏切りに、男はそう言うのが精いっぱいだった。

ついに、男は全ての養分を吸い取られ、完全なミイラとなった。


その光景を目の当たりにして、アリスは

「人間もターゲットだなんて、聞いていないわよ」

と焦りの色を隠せないのだった。



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