第5話 vsマンモン② 神様のチカラを身に付けた悪魔
「うう、ひどい」
ユーリアは泣きそうになりながら、マンモンを捜索していた。
マンモン自体は元いた場所からそれほど離れていない場所ですぐに見つかった。
だが問題は剣が一本無い状態で、この後どう攻撃するかである。
正攻法にするか、不意打ちにするか。
マンモンは気付いていないので不意打ちが得策と考えたが、万が一かわされた場合は一転してピンチになる。
むしろ先ほどの闘いからマンモンはそれほど強くないと分析をし、正攻法の方が確率が高いと判断した。
意を決してユーリアはマンモンの前に現れると、
「あれ?また会ったねー」
先にマンモンに話しかけられたユーリアは、
「ねえ。そのグローブ返してくれない?」
と呼びかけた。
「あー、これ?」
とマンモンは左手を見せると、そこにはユーリアから盗んだ純白のグローブがはめられていた。
「これ良さげで付けてみたけど凄いじゃん。何か力があふれるっていうかー」
マンモンは視線を左手からユーリアへと向けて続けた。
「もしかしてー、その服装に秘密があったりしてー。欲しくなっちゃったー」
(この服を盗むなんて、冗談じゃないぞ!)
マンモンが衣装自体に興味を示したことに対して、事態は最悪の方向に進んでしまったとユーリアは認識した。
もしも、この街中で衣装を盗まれたらと思うとゾッとする。
そんな事を考えている内に、マンモンは距離を詰めて左手を振りかざす。
グローブ装着によりパワーアップしたマンモンの攻撃はスピードを増していた。
だが、避けられない速さではない。
ユーリアは後退して、攻撃を難なく避ける。
それを二、三回繰り返したところで、
「なんか、ウザい」
とマンモンは苛立たしげにつぶやいた。
一方のユーリアも中途半端な反撃は命取りになるため、慎重に攻撃の機会をうかがっていた。
そうしてマンモンの攻撃をユーリアが後ろに下がるということを数度繰り返して、T字路に出ると背後に壁を感じた。
「ざーんねーん、行き止まりーっ」
マンモンは勝ち誇った顔で左手を振り上げる。
だが、ユーリアはマンモンのその左手首を掴むと、素早く右手首も掴んで体を反転させる。
そして両手首を壁に押し付けて、マンモンを磔状態にする。
ユーリアは最初から壁を背にした時を狙っていた。
「くそっ!放せっ!」
マンモンは抵抗して暴れるが、びくともしない。
「そう言われて、放すバカはいません」
ユーリアはマンモンの動きを封じることに成功した。
(さて、ここからどうする?)
左手の力は奪われているので、右手でしかマンモンを倒せない。
マンモンの身体能力は高くないので、本来なら左手一本でマンモンの両手を封じるところだ。
だが、左手のグローブは相手の手の内にあるため、生身の人間男子の力で神様の力をつけた手を封じることは不可能だ。
そうなると右手を放して攻撃をしなければならない。
問題はマンモンの触れただけで物を奪う能力である。
確実に仕留めるために、右手を放す数秒間だけマンモンの動きを封じる必要がある。
(と、なると・・・。あれしかないか。だけど・・・)
ユーリアはあるやり方を思いついたが、あまり乗り気ではなかった。
悪魔とは言え、姿は同年代の女の子なので、手荒なことはしたくはない。
(だけど、やるしかない)
意は決した。
だが、心のどこかでは申し訳ない気持ちもあって、
「ごめん」
と言って右膝でマンモンの腹部を蹴った。
「ごふっ」
ユーリアの蹴りにマンモンは呼吸が止まり、体をくの字に折り曲げる。
「今だっ」
ユーリアは右手を放し、素早くマンモンの左胸めがけて剣を突き刺そうとする。
だが、その時ユーリアは左手を何かに掴まれたような感覚を受けた。
「ごほっ、ごほっ、やってくれるじゃん」
マンモンは呼吸を整えながら言うと、その左手にはユーリアの右手が握られていた。
(しまった)
ユーリアは右手を掴まれたことで、血の気が引いたのを感じた。
「でも、もう終わりですけどー」
攻撃を失敗したショックで全身が硬直しているユーリアに対して、マンモンは続けて左手で胸を突き飛ばす。
マンモンに押されたことで、ユーリアは二・三歩後退してしまうと同時に掴んでいたマンモンの右手も放してしまう。
「あ、ああ」
右手のグローブだけでなく、服まで触られてしまったことにユーリアは思わず絶句した。
その声は絶望交じりで消え入りそうだった。
このことが何を意味するのか。
それに気付いたユーリアは思わず両手を胸の所で交差させる。
ユーリアは裸にされ、秘密が暴かれる恐怖にただおびえるしかなかったが、
「あれ?」
ユーリアは異変に気付いた。
数十秒経ったが何も起こらないのである。
さすがにマンモンも異変に気付き、
「なーんで、なーんにも起こらないのー!」
といらだたしげに声を上げた。
(もしかしたらチャンス?)
ユーリアはいち早く混乱から立ち直ると、再び右手の剣でマンモンの左胸を刺すと、
「う、うう・・・」
というマンモンは苦悶の声を漏らしながら、消滅した。
「それにしても、あれはいったい何だったんだ?」
その場に残ったグローブを拾い上げると、ユーリアはマンモンの能力が発動しなかったことを不思議に思った。
「その手袋のおかげですよ」
ユーリアは声がした後ろを振り返ると、そこには神様が立っていた。
先ほどの巫女衣装とはうって変わって、セーターにスカートそしてコートという洋風の格好だった。
「どういうこと?」
「マンモンは手で触れることで物を奪う能力を持っていますが、私の力を宿した手袋をしたことでその能力が封じられました」
「ああっ!」
神様の説明にユーリアは感嘆の声を上げた。
「それにしても皮肉なものです」
神様は淡々と口調で話し始めると、一拍おいて
「私の力を身に付けることで弱点の身体能力を補ったつもりが、最大の長所である物を奪う力がなくなってしまったのですから」
儚げな表情でユーリアを見つめたが、その視線はこの場所で倒されたマンモンに向けられたのだろう。
その話を聞くと、ユーリア今までと同様に神様の掌の中で闘ってきたような気がして、思わず
「もしかして、これも計算ずくだったの?」
という問いをぶつけた。
だが神様は
「いいえ。全くの偶然です。神様といえども万能ではありませんから」
と頭を横に振った。
「さて、手袋も無事ですし、戻りましょう」
と神様は元来た道を引き返そうとしたその時、
「先ほどはゴメンなさい」
とささめいた。
「ん?何か言った?」
「何でもありませんよ。さ、行きましょう」
だが、神様の声は小さく、謝意はユーリアに届かなった。




