第17話:黒沢 聡、最初の事件!
私立東山高校。
これは俺が高校生だった時の話だ。
朝のホームルーム。担任教師が転校生の紹介をする。
「みんな、荒川 洋子くんだ。仲良くするように!」
「荒川です。よろしくお願いします」
「それじゃあ……荒川は黒沢の前な」
教師が俺の前の席を指差し、洋子がそこに着く。
不意に洋子がこちらを向く。
「聡……だよね? 久し振り」
「なぜ知ってる?」
「なぜって、小学校一緒だったじゃない」
俺は小学校時代の記憶を呼び起こす。
「ああ、そう言えば荒川って女が居たな。あれお前か。忘れてたよ」
「酷い。友達の顔と名前くらい覚えてなさいよ」
「ごめんな。俺、人の名前と顔覚えるの苦手なんだ」
「そう……」
洋子は悲しそうな表情で前を向いた。
お昼休み。
食堂で食事を終え、教室に戻る途中、俺は階段の踊り場で血を流して倒れている男子を発見した。
転落したのか。
階段の上を見る。その先には女子の姿。
「きゃああああ! 人殺し──っ!」
「違う! 俺が来た時には既に!」
女子は怯えながら逃げていった。
「今の悲鳴は?」
と、洋子が現れる。
「ちょっ、何やってんのよ!?」
「違うんだ! 俺が来た時には既に!」
「そう。取り敢えず、先生に報告しましょう」
俺と洋子は職員室へ向かった。
「大変! 階段の踊り場で血を流して倒れてる男子が!」
「何だって!?」
教諭が一人、慌てた様子で駆けてくる。
「どこの階段だ!?」
俺と洋子は教諭を連れて現場へと戻った。
「死んでるのか……?」
教諭が男子生徒の首に手を当てる。
「脈がない……」
教諭は携帯を取り出し、百十九番通報をした。
「あと、警察にもね。これは殺人事件だ」
「何だって!?」
教諭は驚いたが、直ぐに携帯で百十番通報した。
警察が到着し、事件の捜査が始まる。
俺は生徒指導室で事情聴取を受けていた。
「なるほど。では君が第一発見者という訳だね?」
「はい」
俺は目の前の刑事に遺体発見時の状況を洗いざらい話した。
「それじゃあ、君が遺体を発見した時に悲鳴を上げた女の話聞いてくるからな」
「僕も同行していいですか? 邪魔はしませんので」
「邪魔をしないなら別に構わないが……」
「ありがとうございます!」
俺は刑事に同行し、悲鳴の女の下へ向かった。
その女のクラスは二年A組。
刑事と俺は中に入り、悲鳴の女に刑事が警察手帳を見せながら声をかけた。
「警察の者だけど、ちょっといいかな?」
女はこちらを見ると、俺と目が合った。
「犯人捕まえたんですか?」
「いや、まだだが……それより、何で君は事件の現場に居合わせたんだね?」
「保健室に行こうとして階段まで来たらその人が」
悲鳴の女が俺を指差す。
「ああ、彼は犯人じゃない」
「え、そうなんですか?」
「ああ。それで、被害者と面識は?」
「クラスメイトです」
「付き合ってるのかね?」
「いいえ」
「そうか。ありがとう。何かあったらまた話を聞きに来るな」
俺と刑事は教室を出た。
「次はどうするんですか?」
刑事は顎に手を当てた。
「そうだな……」
「ところで、刑事さんの名前は? 僕は黒沢 聡。刑事になるのが夢です」
「宮薗 義啓だ。階級は係長。そうか、なら捜査一課に来たまえ。捜査のイロハを叩き込んでやるぞ」
「はあ。それで、次はどうするんです? 僕なら害者の女関係洗いますけど……」
「女関係か……よし、調べてみよう」
宮薗刑事はそう言って教室の中に戻り、直ぐに出て来た。
「どうやら害者の好きな女が三のBに居るらしい。行くぞ?」
「はい」
俺と宮薗刑事は三のBへ向かった。
「川島 亜美さんは居るかね!?」
中に入るなり少し大きな声で訊ねる宮薗刑事。
端正な顔立ちをした女生徒がこちらへやってくる。
「川島は私ですけど、どちら様?」
宮薗刑事が警察手帳を見せる。
「え、何か遭ったんですか?」
「二年の生徒が亡くなった。名は黒崎 徹平。知ってるね?」
川島は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「彼を殺したの、貴方ですね?」
「ちょっと黒沢くん!?」
「な、何言ってるのよ! あんなストーカーなんて突き飛ばしてないわよ!」
「突き飛ばしていない? なぜ突き飛ばされたことをご存知なんですか?」
「……!? み、見たのよ。突き飛ばされるところを」
「そうですか。ところで、ストーカーと言うのは?」
「私のことストーカーしてたのよ。だからって殺した訳じゃないわよ」
「と言うことは、貴方は犯人を見た、そう言うことですか」
「そ、そうなるわね」
「犯人は男ですか?」
「ええ」
「因に、川島さんは付き合ってる男子は居ます?」
「居ないわよ。告白なら何人かにされたけど」
「正確な人数は覚えてますか?」
「ええと、確か四人だったわ」
「名前は?」
「小島 光彦、円谷 元太、桜木 洋一、北山 光一よ。……って、まさかこの四人を疑って!?」
「一応、容疑者候補ですね」
「黒沢くん……」
「何ですか? 宮薗刑事」
俺が宮薗刑事の顔を見ると、彼は怖い顔をしていた。
「捜査の邪魔はしないと君は言ったよね?」
「あ、ごめんなさい」
「まあ、私の聞きたかったことだから構わないが……」
「あの、もういいかしら?」
「ああ、ありがとうございました」
俺と宮薗刑事は川島にお辞儀をして教室を出た。
「さて、それじゃあ小島 光彦のところへ行ってみるか」
「その前に職員室で名簿を見た方がいいですよ」
「分かってるよ!」
そこへ現れる洋子。
「聡、こんなところに居たの?」
「おう、洋子か」
「あ、宮薗警部も一緒だったんだ」
「やあ、洋子くん」
「あれ? 二人は知り合い?」
「警察庁刑事局長の荒川 和夫さんの娘だよ、洋子くんは」
「洋子のお父さんってそんなに偉い人だったの?」
「うん。で、二人は事件の捜査?」
「そんなとこ。それより、小島 光彦って知ってる?」
「知ってるわ。クラスは三のAよ」
「円谷 元太は?」
「三のB」
「桜木 洋一は?」
「三のC」
「北山 光一」
「二のA」
「二のAって、確か黒崎 徹平のクラスじゃなかったかね?」
「ひょっとしてまさか!?」
「北山 光一を犯人と決めつけるのは早計だと思うぞ。取り敢えず、小島 光彦の話を伺いに行こうか」
俺と宮薗刑事は三のAへと入った。
「小島 光彦さんはいらっしゃいますか?」
眼鏡をかけた少年がこちらへやってくる。
「小島は僕ですけど何か?」
宮薗刑事は警察手帳を見せる。
「二年の黒崎 徹平、知ってるかね?」
「いいえ。二年のことは二年に聞かれた方がいいのでは?」
「それもそうか。行きましょう、みやぞ……っ!?」
その時、窓の外側を人が上から下へ落ちていった。
俺は慌てて窓に駆け寄ってそれを開けて下を覗き込んだ。
地面には川島が横たわっている。
「宮薗刑事! 川島 亜美が死んだ……」
動かないところを見るとそうなのであろう。
「何だと!?」
宮薗刑事がこちらへ駆け寄ってきて下を見る。
「屋上へ行きましょう!」
俺と宮薗刑事は屋上へ移動した。
縁の前には上履きが揃えて置いてあった。
「自殺なのか?」
「いいえ、これは他殺ですよ」
俺と宮薗刑事は屋上を調べ、川島が横たわる地上へと移動した。
「宮薗刑事、鑑識を呼んで下さい」
「あ、ああ」
宮薗刑事は携帯で鑑識を呼んだ。
鑑識が死体を調べる。
川島の死因は頭部を強打したことによる脳挫傷だった。
「ん?」
遺体が何か握っている……。
俺は遺体の手を開いた。そこには制服のボタンがあった。
落とされる直前に掴み取ったのだろうか。
「宮薗刑事、これを」
俺は宮薗刑事にボタンを渡した。
「これが無い人が犯人ですよ」
その後の捜査で、北山 光一が殺人容疑で逮捕された。
黒崎 徹平殺害の動機は川島 亜美をストーカーしていたからだ。だが、その川島に殺害現場を目撃され、脅迫されたために、彼女を気絶させて屋上から落としたというのだ。
「黒沢くん、協力ありがとう」
宮薗刑事はそれだけ言うと、北山を警視庁へ連行していった。