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ギルドでの揉め事

 (しばら)く訓練に明け暮れてたエマは久しぶりにギルドに足を運んでいた。

 シルヴァは後で合流する予定であるが、先に良さそうなクエストを見繕(みつく)ろっていようと思い一人で来ていた。

 いつものようにミコトに挨拶しようとしたが、生憎(あいにく)不在であり、ギルド内は何やら不穏な空気が流れ騒がしくなっている。ギルド受付嬢も一人しかいなく、他の職人冒険者達も何やら小声で密談をしている。


「どうやら森にオーガが出たらしい……」

「しかも、情報によると三体らしいぜ……」

「マジかよ……ギルマスもいねぇし、この町ヤベェんじゃねぇか?」


 エマは辛うじて聞こえた情報を()き集め整理する。帝都では現在問題が発生しているようで、その対応の為、ソルミッド支部のギルドマスターと職員達や主力の職人冒険者達は帝都に向かったらしい。

 そして最悪のタイミングで現在オーガが、“肉兎(ミートラビット)の森”に出現し、ギルドは騒然となっていると言う状況であった。

 エマはオーガの存在が不安ではあったが、話を聞いた感じ、自分達には到底、手に負える問題ではないので再び依頼板(クエストボード)に目を向ける。


「ちょっと退()きなさいよ!」

「きゃっ!」


 突然、肩をぶつけられ突き飛ばされたエマは、尻餅をついて恐る恐る見上げると、灰色の髪をツインテールにまとめた見るからに威圧的な瞳の少女と目が合う。


「す、すみません」


 その少女はエマを心底(さげす)むような表情で肩を払っている。だが、意地悪そうに唇を歪めると彼女に話しかける。


「貴方、貧民街(スラム)出身でしょ。貴族の令嬢であるこの私によく口が聞けるわね」

「お嬢様、いけません。このような下賤(げせん)の者と言葉を交わしては口が(けが)れますので、お控えください」


 少女の使用人らしき者が、エマを(ゴミ)を見るような瞳で見据える。

 エマは彼女達の目をよく知っている。帝都のスラム出身の者ならば、誰もが経験した事がある嘲笑(ちょうしょう)に満ちた表情で、身分格差により生まれる差別で、一方的で理不尽な要求をする目だ。


「そうね、服も臭うし裸で謝罪してみたら許してあげるかも」

「そ、そんな……」


 興味本位で周りには野次馬が集まりだし、男の中には卑猥な目で此方(こちら)を見てくる者もいる。

 エマは不安と恐怖から、その場から動く事が出来ずに立ち尽くしている。助けを求めるように周りに視線を送るが、誰も目を合わせようとしない。

 カウンターからギルド受付嬢が事態を収集しようと弱々しく声を上げてもいるが、好奇な表情をした下衆(ゲス)な男共の耳には入ってこない。

 エマは目に涙を浮かべて、防具に手を掛ける。この場を収める為に、この手段しかないのなら、彼女は甘んじて受け入れようとする。

 初心者用の冒険者用装備を外し、自らの衣類を脱ぎ捨て、下着姿になると年齢以上に成熟した(なまめ)かしい身体が(あらわ)になり、彼女は恥辱(ちじょく)の余り顔を紅潮させるが、涙ながらに少女に訴えようとする。


「何してるのよ、全部脱ぐのよ」


 彼女の無言の訴えが退(しりぞ)かれ、躊躇(ちゅうちょ)していると少女が口角を吊り上げ、高圧的に迫ってくる。男達の息遣いが荒くなって来ているのを感じる。

 自身はこの後どうなってしまうのだろう……恐怖がエマを包み込んでいき、何も思考できなくなる。

 ――その時だった。後方の方から丁寧に野次馬を掻き分けてくる声が聞こえる。その声はどんどん近づいてきて、動作や声も荒くなって来ている。


退()けっ!」


 最前列まで来ると、そう言い放つと野次馬の男を蹴り飛ばし、そのフードを被った少年は姿を現した。少年はエマが見た事のない程、周囲を萎縮(いしゅく)させる程の威圧感を放ち、震えた拳を握りしめている。


「大丈夫か、エマ……」


 (いきどお)りの余り震えている手で少年は上着を掛けながら辛うじて、そう言うと、彼女に質問を投げかける。


「誰が、こんな事をやったんだ……?」

「私よ、随分と派手に登場をしてくれたようだけど、この者は貴族である、このわた――」


 尊大に、丁寧に、目の前の貧民街(スラム)の女が如何(いか)に愚行を犯したかを説明しようとする少女が話を終える前に、その整った顔立ちの顔面に少年が拳を叩き込む方が先だった。


「お嬢様っ!!」


 使用人の女性が駆け出し、エマが何が起こったか判らず視線を移すと、そのまま後方まで吹き飛ばされた少女はダラダラと鼻血を流し、手で鼻を(おお)っている。


「ほっ! ほのょ、きじょくのわひゃひ、にむひゃって!」

「お、お嬢様、お飲み下さい」


 使用人が、ポーションを渡すと少女はすぐに飲み干し、回復したようで少年を憎悪の表情で睨みつける。


「この私に手を上げるとは! そこのお前は万死(ばんし)に値するわ!」

「貴様こそ、私の友にこんな(はずかし)めを受けさせておいて、この程度で済むと思っているのか」


 少女が憤慨し少年が静かに警告すると二人の周囲に息を飲む程の緊張感が立ち込め、お互いに剣に手をかけようとする。


「き、緊急クエストの案内ができましたよぉ〜! 今回は中隊規模の十六人を募集しますぅ〜!」


 周囲の職人冒険者が冷や汗を流す程、緊張感で張り詰めた場はギルド受付嬢の気の抜けた呼び声で一旦収まり、野次馬達は散らばっていく。

 少女は尚も憎々しげに少年を睨んでいたが、何かを思い付いたようで、表情を不敵な笑顔に変えると真っ直ぐにギルド受付嬢の元へ歩いていく。


「ちょっと、あんた、その緊急クエスト、私が指揮を取りたいんだけど良いわよね?」

「ふぇっ!?」


 ギルド受付嬢ネネが驚いて応える。その表情には戸惑いと焦りが混じっている。


「ど、どうでしょうか〜? 基本的には中隊規模のパーティー編成では、指揮は一番、名匠(めいしょう)の職人冒険者にお願いしているんですけど〜」

「なら、私で決まりね。私はミーシャ=シルバースミス、家名でわかると思うけど、白銀職人(シルバースミス)の職人冒険者よ」

「で、で、でも、他にも黄金職人(ゴールドスミス)の職人冒険者がいるかもしれませんし……」

「こんな初心者御用達ギルドに黄金職人(ゴールドスミス)が居るわけないでしょ!」


 ネネが焦った表情でギルド内を見渡すが、一人もミーシャより家名が上の者はいないようだ。彼女は不敵な笑顔で尚も続ける。


「編成は私に任せなさい。丁度、元気なのが二人いるみたいだし」


 そう言うと下着姿の少女とフードの少年を見据えて、口角を吊り上げて微笑んでいた。

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