記録十四:ゼド邸客間にて
ゼドの屋敷は隅々まで掃除が行き届いており、調度品も高級な物ばかりです。
「暴れたらアカンで。見てみぃ。」
グリモアはキノクニに鑑定結果を見せ、戦々恐々としています。
ゼドはと言えば慌てふためいています。同時に興奮もしていますが。
「すごい!キノクニ様!!一体なにをなさったんですか?!?!SSS級を1発で…それも開始直後にただの拳骨で黙らせるなんて!!!事実上の下克上ですよこれは!!!何という力!!どれほどの鍛錬を積めば至れる境地なのか!!ああ神よ!この出会いを感謝します!!!」
「やかましい…」
「わしゃしゃしゃしゃ!オレの所持者は最強なんや!せやから心配無い言うたやろ?!ゼドちゃん!」
ゼドは踊るようにバタバタと歩き、鼻唄を奏でています。
キノクニはそれを見てウンザリしています。
グリモアは鼻高々です。
「しかし分かっとったとはいえ、お前には毎回驚かされるわ~。何したん?」
「…瞬時に両下肢の筋力を増大させ距離を詰め、筋力を拳に集中し殴っただけだ。魔力で障壁を張っていた。軽い流血で済むだろう。」
「…お前まさか殺す気やったん?」
「そうだが?全員殺し、立ち去るつもりだった。結果次第ではな。…あの女の魔力の使い方は面白い。決闘で相手が死ななかったのは初めてだ。中々の使い手だった。」
「…あの女が死なんくてほんま良かったわ…」
「…お前は女好きでは無いのか?」
「アホ!誰でも良いわけちゃうわ!オレかて相手は選ぶ!…はぁ、メールちゃんが恋しいわ…」
「知らん。」
呑気なキノクニとグリモアでしたが、外では大騒ぎでした。
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「何が……起きましたの………」
「あ、あの男は…一瞬でマリアン様を殴り込んだのです……過程は見えませんでした…」
「……負けたのね……」
マリアンは手下になんとか引っ張り出して貰い、地面に横たわっていました。
頭からはキノクニが言ったように、軽く血が流れています。
「…彼は……?」
「…商人ゼドと共に、屋敷へ…」
「そう………」
「大丈夫か?!マリアン!」
「オルドガ様…」
オルドガはギルドに連絡をしに離れていましたが、マリアンが目を覚ましたと聞いて戻って来ました。
「今ギルド長を呼んだ…正直お前が負けるとは、爪の先ほども思っていなかった……奴はお前にも俺にも一瞥もくれず屋敷に入っていったぞ…」
「そのようですわね……」
ギルド職員がいち早く到着し、野次馬達を散らしますが、熱狂した野次馬は中々居なくなりません。
「あんなお方がいるなんて…魔法を使う間もありませんでしたわ…」
「ガハハハ!しかしよく踏ん張ったな…アレはお前を殺す気だったぞ?」
「ええ。彼はわたくしを殴る数瞬前に、わたくしに"殺すぞ"と教えてくれましたわ…凄まじく鋭く、それでいてわたくしにだけ届く殺気で…」
「ああ。魔法を使う者の弱点、"速さ"と"距離"を同時に突いてくるとはな…」
オルドガがしみじみしていると、野次馬が大きく騒めきます。
どうやらギルド長が到着したようです。
「どうした。オルドガ。緊急と聞き飛んで来た。」
「速いなギルド長!」
「これは…!…エドガード様!!…このような姿で申し訳ございません…」
エドガードと呼ばれた大男は、額に宝石の飾りをつけ、黒い長衣を着ています。
「マリアン?!一体何があった…ここはゼドの屋敷か…!…あの穴は…」
「まあまあ、エドガー。説明するから待ってくれ。実はな…」
オルドガはギルド長に一部始終を説明しました。
オルドガは黙ってそれを聞いています。
「…つまりその旅人が…」
「ああ。マリアンを一瞬一発でめり込ませ、決闘を終わらせた。簡単に言うとそういう事だな。あんなのは久々に見た。いつぶりだろうな。大声で叫び驚いたのは。」
「…興味深いな…今は屋敷の中か?」
「ああ。ゼドと商談中だ。アイツは商談中は誰も屋敷に入れない。例えギルド長でもな。」
「ふむ…待つか。」
「お!興味がでたか?!そう来ねえとな!」
「その旅人…名は?」
「キノクニ様…ですわ…」
「キノクニか…楽しみだな。」
ギルド長と副ギルド長は、その場に座り門前で待ち構えていました。
マリアンも頼み込み、門前に寝たまま待っていました。
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「さあ!お掛けください!早速ですが武器をお見せ頂けますか?」
「何故だ…」
「キノクニ様の武器はどちらも見事な逸品ですが、どちらもかなり古く、長い間手入れがされていません。せめてうちの鍛治師に磨かせるくらいはして見ませんか?斬れ味がかなり向上するかと思いますよ?」
「…鑑定でもしたのか。」
「見ればわかります。我々商人は様々な品を扱いますから!さあさあ。こちらの台車にお乗せください。」
キノクニは気乗りしないながらも、渋々台車に剣と斧を置きます。
ミシィッ…!
台車はなんとか壊れずに形を保っていますが、メイドが押してもビクとも動きません。
「まさか…これ程まで重いとは…」
「オレは手が無いから持てへんねんけど、かなり重いんやなあ…」
「それ程では無い。むしろそれぐらい重さが無ければ、魔物共を一掃できぬ。」
「魔物はチマチマ弱らせて狩るもんや!一掃するもんやない!!」
グリモアは叫びますが、キノクニはどこ吹く風です。
剣も斧も運べなかったので、仕方無く鍛治師をこの部屋に呼びました。
人間の鍛治師で、かなりの老人です。
「こりゃこりゃ、頭目。この老いぼれをわざわざこの客間に呼び出すとは、何事ですかな?」
「おお!待っていたぞガン爺!キノクニ様、こちらは当商会最高の鍛治師、ガン爺でございます。どうか彼に武器を見せてやってくださいませんか?」
「…それで多くの敵を屠れるのなら…」
キノクニは剣と斧をそれぞれ片手で持ち、ガン爺に見せます。
「こりゃ…まさか生きとる間に見られるとは…剣から持たせてもらって良いかの?客人。」
「かまわぬ…」
「あ!それはっ…」
ゼドの心配とは裏腹に、ガン爺はヒョイと剣を持ちます。
「あっ…持てた…?」
「こういう類いの剣は持ち手をみまする。じじいめは眼鏡に叶ったようじゃ…どれ…ほう。剣筋がまるで生きとるように波打っておる……何度か折れておる様じゃが…再生剣の名は伊達では無いようじゃ…」
「斬れ味は上がるのか。」
「こりゃあ…磨くぐらいしか出来んのう…癪じゃが…これを弄れるとしたら…裏町のアモンという鍛治師しかおらん。その斧も見せてくれ。」
ガン爺は剣に油を塗り、布で軽くふき取ると、キノクニに返し、斧を受け取ります。
「…こりゃ自在斧か…これもかなり重いのう……ふむ。これなら弄れるぞ。その剣とは違い、素直そうじゃ。まだまだ隠された力がある。…借りて良いかのう?」
「構わぬ。好きに弄れ。」
「では預かるぞい。」
そう言うとガン爺は、鼻唄混じりに走り去って行きました。
「…アモンとは?」
「アモンは…ガン爺の同門で、ライバルの様な関係だと聞いています…しかしあの老害は、闇商人や犯罪者にも武器を回す物騒な輩です。」
「闇商人…こいつか?」
「あっ!やめえっ!お前っ…」
グリモアの制止も遅く、キノクニはあの名も知らないドワーフの首を晒してしまいました。
「……あっ……」
「よく見ろ。闇商人とはこいつか?」
「あちゃー…こりゃ悲鳴で兵士コースやで~…」
「……ムググッ……」
しかし、グリモアの予想に反し、ゼドは両手で口を塞ぎ、ドワーフの生首をじっと見つめます。
涙目です。
「……こいつは……闇商人です……うっ……どちらで……?」
「この都に来る途中、平原で会った。私を刺してきたので殺した。不味かったか?」
「いえ…此奴は指名手配犯です……殺しても問題はありません…」
「そうか。」
キノクニは問題ないと聞くと頷き、生首をしまいました。
「すいません。取り乱しまして…マリアン様はご存知無かったようですが…其奴は数々の名を持ち、あらゆる裏の者に品を回す闇商人です……大物ですよ…確かアモンは其奴に脅され、疎ましがっていたはずです…」
「…アモンとやらはどこにいる。」
「は、地図を…」
「お!なんや地図あるんかいな!見して見して!」
キノクニはグリモアをかざしつつ、ゼドが用意させた地図を覗き見ます。
「ここから路地裏に入り、この入り組んだ道の先にある飲み屋の地下がアモンの鍛冶屋です…ゴロツキが大勢いますから…大丈夫とは思いますが…行くならばお気をつけください……」
「そうか。本よ。覚えたか。」
「んバッチしや!記録したでー!これでちまちま、都を鑑定する必要も無いなあ!あんがとな!ゼドちゃん!」
「いえいえ…それで、ここからは商売の話なのですが…」
「なんだ。」
「実は、キノクニ様に手に入れていただきたい品があるのです。…それを手に入れていただく前払いとして、ウチの品をなんでも1つ、タダで差し上げます。」
「何を求める。」
「竜の肝でございます。」
「竜の肝やと?」
「はい…どの竜でも構いません。なるべく大きな肝を調達していただきたいのです。竜の肝さえあれば、ある秘薬が完成するのです。引き受けて頂けませんでしょうか…」
「竜とは、これでも良いのか。」
「は?…ひゃあああああ!!」
「反省無しかい!自重せえや!!」
本日何度目かの絶叫で、ゼドはクタクタになってしまいました。
巡り合わせとは不思議なものですね。竜の肝を求める者の前に、たまたまそれを持つ者が現れ、縁が繋がるのですから。
続きは次回のお楽しみです。




