記録一:センジュの樹海奥にて
初投稿です。
稚拙で至らない点も多々あると思いますし、読みにくい部分だらけだと思います。
ご指摘いただければ幸いです。
よろしくお願いします。
「日が暮れる…今日は野営だ…」
「ええ?!嫌や!村まで戻ろうや!今からなら間に合うて!俺、湿気てまうわー!!」
「ならん…今日はここで野営だ…」
「嫌や嫌やー!村に…」
「黙れ…」
「ふぐぅ…」
ここは、センジュの樹海の真っ只中。魔物や獣が巣食う奥深い森です。そんな森の中に声が2つ。
1つは荘厳で低く、猛々しい大人の男の声。
1つは軽く高く、発達途中の青年のような男の声。
しかし、実際に姿が見えるのは、低い声の男のみです。フード付きのマントをかぶり、焚き火の用意をしています。
脇には旅の荷物や、編笠が置かれています。どうやら男は、よほど顔を隠したいようです。
なぜでしょう?男が何か悪いことをしたからでしょうか?それとも恥ずかしいからでしょうか?
「あまり騒ぐと燃料にするぞ…」
「ひっ…じょ、冗談言うなや…冗談やろ…?…なあ?」
「私が今まで、一度でも、冗談を言った事があるか?」
「…無い…です…」
男がマントをぬぎ、地面に敷き、顔があらわになりました。
男には顔がありませんでした。
だから男は顔を隠していたのです。
男が編笠を外し、マントを脱ぐのは、魔物や獣しかいない、森の中ぐらいでした。
「はーあ…今日中に着けると思たんやけど…キッツイなあ。意外と遠いわ…」
「…本当に、この先に遺跡があるのだろうな?」
「あるある!ありますて!オレが今まで嘘ついた事ある?!」
「あるから聞いている。」
「…遺跡については本当や。頼むから、剣を置いてくれへん?」
「…ふんっ!!!!」
「ぎゃああああああ!!」
ズガッ!!
男は剣を思い切り突き立てました。もう1つの声の主…黒く薄汚れ、表紙に宝石が付いた本…の横、トロールの胴体程はあろうかと思われる大木に。
大木はその一太刀で、メキメキと音を立てて倒れてしまいました。顔のない男は、とてつもない力の持ち主なのです。
「薪が足りん…」
「な…なんや、薪探しかいな…てか生木は薪に向かへんで?…あ、せやかてオレを燃料にはしてくれるなよ?な?お願いやから。」
「分かっている…」
男は無愛想で無口、しかしとても強くて賢い冒険者でした。大木の枝を切り取り、手をかざします。するとどうでしょう。枝がみるみる乾き、よく燃えそうな薪になっていくではありませんか。
男は少しなら、魔法も使えました。
「成る程なー!髪を乾かす魔法を、乾燥に利用したんか!…てか、お前の魔法は強すぎて、髪乾かしには向かへんな!髪が縮れてまうわー。」
「…これでいい。」
男は切り倒した大木の幹にもたれかかり、火を起こします。
薪をくべ、どんどん煙を上げていきます。獣や魔物よけのための香草を、広げるためです。
「…」
「ほんまに無愛想なやっちゃでー。表情もないしなー。あ、顔が無いから仕方ないか!わしゃしゃしゃしゃ!…ごめんて。冗談やん。あーあ。村に帰ってベッドで寝たいわー。あ、もうちょい火に近付けてくれへん?そうそうそう…あちちちちちゃ!近すぎや!…よし。ここでええで。ええから剣を置いてくれへん?…はーあ。湿気るわ~…」
本は饒舌で口うるさく、やかましいぐらいでした。おまけに自分では動けず、何の役に立つかも分からないような存在です。
そんな1人と1冊は、この樹海のもっと奥深く、古の記憶が眠ると言われている、緑の遺跡を目指していました。
各々の探しているものを求めて。
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「きゃああああああ!!」
「ふがっ!なんやなんや?!」
「…」
突然、樹海の奥に、甲高い悲鳴が響き渡りました。本は驚いて目を覚まします。
男は微動だにしません。
「なあ、今の聞こえたか?絶対悲鳴やったよな?なあ?」
「…だから何だ。」
「だから何だやなしに。助けに行った方がええんとちゃう?若い声やったで?」
「私には関係ない…」
「はあ?!いやいやいや!冷たい男やなあ~!困った時はお互い様って知らへんの?!それに相手は若い娘やで?!…多分…それを見殺しにするっちゅうんか?!」
「知ったことか…」
「なんやとお?!こうしとる間にも…」
「娘だろうが何だろうが、この樹海に入ったという事は、それなりの自信や実力があると踏んでの事だろう。つまりは自己責任だ。それで力及ばず死ぬのなら、それだけの力しか無かったという事。私の知ったことではない。」
「ふぐぬっ…そら…そうやけど…でも助けたら何かくれるかも!?それか良いことしてくれるかもしれんやん!」
「顔の無い、私にか?」
「それはっ…その…」
「つまらん情を引きずるくらいなら寝ろ。明日に備えてな。」
「…あー!!!分かった!分かりました!!お前がそんなん言うんやったら、オレももう知らん!もう道案内せえへん!!」
「何…?」
「己の力があると踏んでここにおるんやろ?やったらオレの助けが無くても、遺跡まで行って見せる言うことやろがい!!せやったらオレ、案内せえへんわ!」
「何を言っている…」
「ふ…ふん!剣で刻もうが燃料にしようが好きにしたらええ!オ…オレはお前ほどなぁ!冷たく出来てへんねん!」
「貴様…」
「なんやあ!おお?!」
「………」
しばしの沈黙の後、男はマントからフードを取り外し、乱暴にかぶると、本を腰のホルダーに引っ掛け、走り出しました。右手に剣を携えて。
「…お前…」
「…悲鳴の位置は。早く言え。」
「は…反対や!反対方向に500m程直進!」
「…」
男は風のように速く走り、あっという間に悲鳴の元に辿り着きました。
そこには、ゴブリンの集団と一際大きなゴブリン。そして、服を剥がされ、今にも襲われそうな若い娘が1人いました。
「ぬん!!」
男は大ゴブリンめがけて剣を思い切り投げつけました。
「ギギャ!!」
剣は大ゴブリンの右目に刺さり、それに驚いた大ゴブリンは後退ります。
若い娘が解放されました。
「今や!」
「分かっている。」
男はすぐさま娘に駆け寄り、素早く抱えると、ゴブリン達から距離を置きます。
「状態は。」
「大丈夫や…服が破けとるだけやな。生娘のまんまやで!!ほんま良かったなあ。嬢ちゃん。」
「うう…」
男はゴブリン達に向き直り、仁王立ちして拳を構えました。
「娘をみていろ…奴らを殲滅する。」
「丸腰で?!無茶や!ありゃボスゴブリンとゴブリンガードやで?!ただの雑魚ゴブリンやあらへん!!死んでまうど!!」
「黙っていろ………ふー…ぬうううううああああああ!!!!!」
突如、男の体が輝き始め、凄まじい風が男を中心に吹き荒れ始めました。
そして、男の姿が掻き消えたと思うと…
「ギッ!」
「ゲギャッ!」
「ギー!!」
次々とゴブリン達の上半身が吹き飛んでいきます。まるで蝋燭の火が消えるように、簡単に。
男が目にも見えない速さで、ゴブリン達を殺しているのです。
「ゲ?ゲゲ?」
ボスゴブリンは訳も分からず、ただただ部下のゴブリン達がやられていくのを見ることしかできません。
とうとう、ボスゴブリン1匹になってしまいました。
「ゲギャー?!」
「バケモンや…まさかここまで強いとは思えへんかったで…」
「凄い…」
「んお?!嬢ちゃん、起きとったんかいな!!」
「きゃっ?!本が喋った…?!」
「話は後や!とりあえずジッとしとき!この場所は今、この樹海で1番安全や!!」
「は…はい…」
男はボスゴブリンの前に姿を現し、ジッと睨みつけていました。目のない目で。
「…くだらんな。」
「ギギィ…」
「この程度の集団のボスに満足し、猿山の頂でカスを見下す一生など、実にくだらん…」
「ギギ…」
ボスゴブリンは何とか隙を探します。反撃の、もしくは逃亡の。
しかし、目の前の輝く男には、一分の隙もありません。
「…そのようなくだらん存在に言葉を投げる私も、実にくだらないな…」
その時、男がうつむきました。
ボスゴブリンはここぞとばかりに、目から剣を引き抜き、男に切りかかります。
「ギギギャアアアア!」
ブンッ!
しかし、ボスゴブリンが切ったのは空気のみでした。
「戦士が戦場で、分かりやすく隙を晒して、何も無い訳がなかろう。」
「ギギッ…ギッ…」
男は腕を一段と輝かせ、ボスゴブリンの足を掴んでいました。
男はボスゴブリンを睨み、話すことで時間を作り、腕の力を増幅させていました。そして、うつむくことでわざと隙を作り、ボスゴブリンの攻撃を誘って、空振りさせ、体制を崩したのです。
ボスゴブリンは、まんまと罠にかかってしまったのでした。
「ぬううううりゃああ!!」
「ゲギャアアアアアアアアア!!」
男はそのままボスゴブリンをぐるぐると振り回し、ついには投げ飛ばしてしまいました。
ドゴオオオオオオオン!!
ボスゴブリンは地面に叩きつけられ、目を回しています。
メキメキメキメキメキメキィ!!
その隙に男は大木を1本、輝いているとは言え素手で引き抜き、ボスゴブリンに走り寄ります。
「ふんん…!!!」
ブワッ!
男は高く跳び上がると、大木の根をボスゴブリンに向け…
「ぬりゃあ!!!」
スブシャッ!
「ガッ……………!!!」
ボスゴブリンを貫いてしまいました。
もちろん、ボスゴブリンは死んでしまいました。四肢はダラリと力を失い、目は白く上転し、舌がダラリと垂れ、血がドバドバと漏れ出します。
男は輝きを収めると、乱れたフードを目深にかぶりなおし、ゴブリンの手から剣を奪い返し、血を払います。
背中のバンドに抜き身の剣をしまい、血塗れのまま、若い娘に近付いていきます。
その姿はまるで、鬼のようでした。
「ひぃっ…あの…あ…ありがとうござ…ございました…何とお礼を申したら良いか…わたし…」
「礼などいらん。こちらの都合でやったことだ。本よ。これで気は済んだか。」
「スマートさに欠けるけど、まぁ上出来や!なんだかんだでお前も優しいっちゅうこっちゃなあ!…ごめんて。剣を抜こうとせんどって。」
「娘。その本を返せ。それは私の旅に必要な物だ。」
「は…はい…」
男は本を娘から受け取ると、血塗れのホルダーに引っ掛けます。
「ぎゃー!!嫌や!臭い!ゴブリンの血や!お前!ふざけんなよ!!何してくれてんねん!オレの表紙が血塗れやん!!もう嫌やコイツー!」
「黙っていろ…焚き火に戻る。」
男が娘を置いて去ろうとした時でした。
「あの!…待ってください!…わたしの頼みを聞いていただけませんか…?!」
娘が勇気を振り絞り、男に声を掛けて制止したのです。
このお話は、顔の無い男の、不思議な旅のお話。
続きは次回のお楽しみです。