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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第十六章 アレスサンドリア帝国(後編)
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2.神々について

 俺は今、闘技場の大歓声に迎えられる様に、ゲートから送り出された。

 観客席の中には、ビアンカが商会の偉い人と一緒にいる。

 何かを振りながら、俺に声援を送っていた。

 俺は、商会の推薦で二回戦から参加となったが。

 賞金は一回戦が五千ゴールドで、勝つたびに賞金が倍になるらしい。

 一万ゴールドからスタートとなったが、俺に対する倍率が高いのか観客の声援が熱い。

 「おい、チビ! 顔だけは厳ついが、そんな小さな身体で大丈夫か?」

 対戦相手は、街の中で悪さをしてそうな感じの男だ。

 俺は面倒なので無視する――。

 『ドーン!』

 開始を知らせる銅鑼が鳴った。

 「よし、二回戦はラッキーだ……」

 俺が何か呟いている男の腹部に一撃を浴びせると、男は動かなくなる。

 まだ、銅鑼の余韻が響いていた。

 「!? 勝者、極東の男!」

 審判のジャッジに観客席が一瞬静まり返ったが、すぐに割れんばかりの歓声が起こる。

 『オオオオオオオオオオオオオオオオ――っ!』

 「カザマ、やったっす! いっぱい増えたっす!」

 (アイツ、遊びに来たんじゃないのに賭けていたのか? 俺がカジノで叱れたのを忘れたのか……)

 聞き覚えのある声が耳に入ったが、聞えなかったフリをしてゲートに戻った――。


 俺は夕方までの間に、十回戦まで無傷で勝ち上がる。

 次の対戦は、明日の朝から騎士団と戦うことになった。

 そして、今日稼いだ賞金を受け取り、ビアンカと合流する。

 「ビアンカ、俺は一応隠密で街に来ているから、俺の名前を大声で呼ぶのは止めてくれ……それから、見てくれ! 今日はほとんど動かずに、五百万くらい稼いだぞ。毎回ギルドの報酬で、死にそうになってもらえる報酬は五十万だ。十倍も多くもらえたぞ……」

 俺はビアンカに釘を刺すと、頬を緩ませた。

 ビアンカは俺の話に頷くと、尻尾を左右に振りながら……。

 「分かったっす。でも、アタシはカザマに全部賭けて、こんなに儲かったっすよ。帰ったら、アリーシャにあげるっす」

 俺よりも大きな袋を満面の笑みで見せつけた。

 俺は驚いて目を丸め、袋の中身を確認する。

 「あっ!? 俺の倍以上あるよな……」

 ビアンカは、俺が今朝昼食代に渡した五百ゴールドを、二千万ゴールドくらいにまで増やしていた。

 俺は、ビアンカのお金を大まかに数えると首筋から汗が流れる。

 「ビ、ビアンカ……明日もあるから、もっとたくさん増やしてアリーシャを喜ばすのはどうだろう……それから一応、万一俺が負けることも考えて、五百万くらい残しておこう」

 俺は自分と同じ金額だからと五百万は手元に残す様にと、それから最後までみんなには秘密にする様に提案して、ビアンカは承知してくれた。

 (どうしよう……ビアンカにギャンブルと考えただけでもゾッとするのに、これ以上増やされると……また、折檻されるのか……王族に繋がりを作るまでは負けられないし……)

 俺は、大金を大事そうに抱えて歩くビアンカを連れて、みんなの所へ戻る。


 ――王宮。

 俺は、これまでと同じ様にビアンカたち三人をアウラの転移魔法で帰すと、コテツとリヴァイに留守を任せて王宮に潜入した。

 王宮のどこに皇帝がいるのか分からなかったが、単純な人間みたいなので高い場所にいるだろうと進んでいく……。

 (なんだか、この世界に来て初めてニンジャらしいことをしてる気がする……)

 この世界に来てからのことを思い出し感慨に耽る。

 元々忍者として教育を受けていたが、気配を消し衛兵の隙を突き、容易に足を進めた。

 そして冒険者レベルが高いせいか、ニンジャスキルのせいか、誰にも見つかることなく最上階に到達する。

 そこへ、突然声が響く。

 「誰だ? ……!? 人間なのか……」

 突然、気配がしない部屋から声が聞こえて驚いたが、慌ててフードを被り顔を隠した。

 そして、縄を下に降ろして逃げようとするが。

 「待て、私の話を聞け」

 再び誰もいない部屋から声が聞こえると、俺の身体は動かなくなった。

 「私の話を聞く気になったか?」

 「もしかして、あなたはこの国の神さまですか?」

 「ああ……一応、そうであったな……私はアレスという」

 声の主は俺の問いに、弱々しく名前を名乗る。

 俺は慌てて、その場に膝を着いたが、何故か動ける様になっていた。

 「俺は西の国の冒険者でカザマといいます。神さま相手に嘘はつけませんが、これ以上は話すことは出来ません」

 「そうか……ヘーベーは、良い従者を持ったな。それに比べ、私が契約した一族は……嘗ての誇らしさを微塵も感じない……」

 「あ、あのー……俺は従者でも下僕でもないですよ。それに、もしかしてアレスさまは……この国の王さまとは、仲が良くないのですか?」

 俺は自分の名前を名乗ったが、ヘーベの従者だと言われると強調する様に否定した。

 ヘーベには毎回従者と言われているが、返事をするのが面倒になっただけである。

 アレスさまは俺の質問を聞いて、しばらく何も言わなくなった――。

 「私はこの国の南にいる戦女神の野望を止めるために努めていた。あの戦女神は領土拡大で信仰心を高め、今の地位から上を望んでいると分かっていたからだ。私は戦いが好きな神ではあるが、純粋に戦う行為が好きなだけだ。この国の初代の王は自ら先陣に立って戦う勇敢な者で、数十代……戦女神の国を封じてきた。――だが、ここ数代の王は、自らを皇帝と名乗り奢り高ぶるだけの卑怯者に成り果てた。私は自ら戦うことを封じており、力の源は信仰心だ。この国と私は、もう戦女神に勝てないだろう……」

 アレスさまは重い口を開くと、これまでの経緯と思いを語ってくれた。

 俺はアレスさまの話を聞いて、疑問が生じるとそのまま声に出す。

 「では、悪いのは南の国の神さまなのですか? その神さまは何を望んでいるのですか? それから、神さまの力で、この国の王さまを改心させることは出来なかったのですか? この国で、生活する人たちには関係ないと思いますが……」

 次々に投げ掛けられる問いに、姿が見えないアレスさまは顔を顰めているかもしれない。

 「はーっ……答えにくいことを真っ直ぐに聞いてくるのだな……お前は知っているか? この世界で崇められている神々は万能ではない。それぞれに役割を担っている。それに逆らうことは出来ない……もし、それに抗うとするならば、今の神としての立場よりも高位になる必要がある。或いは神の地位から降りるかのどちらかだ。戦女神は、神の地位を持ったまま自由を欲したのだ……分かるか?」

 アレスさまは、俺に神の理について語ってくれたのだろう。

 だが、南の国の神さまの気持ちも分かる気がした。


 僅かに沈黙が続いたが、俺は思い切ってアレスさまに訊ねる。

 「神さまが自由を願ってはいけないのですか? 俺には、それが悪い事に思えませんが……」

 「強大な力を持つ神が身勝手に行動すれば、世界のバランスが崩れて大災害が起こる。――或いは、この世界が消滅するかもしれない。それに、今こうしてカザマに話している事は、この世界の禁忌だ。どの神も口にせず、気付いた者は……人間の中では賢者だけであろう……」

 俺はアレスさまの話を聞いて、全身から汗を噴き出した。

 (これって、ヤバイ系の話では……何か呪われたり、バッドエンド的な……)

 「カザマは、この世界の者ではないから大丈夫だ。それに、私は次に敗れると存在出来なくなるであろう。――既に実体を顕現することが出来ない」

 俺は慌てて汗を服で拭い、更にアレスさまに訊ねる。

 「俺の考えが分かるのですか? い、いえ、そうじゃなくて……俺は何をどうすれば良いのですか?」

 「カザマは自分の信じた通りに行動すれば良いだろう。お前の女神は、自らの身を捧げる様にして……己の役割を果たしている。――但し、神の理からは逸脱しているが……何れ、他の神から狙われるだろうが、まずは南の国からだろうか?」

 「えっ!? ど、どうしたら……良いのでしょうか? ヘーベがそんな危ないことをしてるとは……」

 俺はアレスさまの話を聞いて、またも動揺して身体を震わせた。

 ヘーベはそんな危ない話どころか、そんな素振りすら見せたことがない。

 「落ち着くのだ。お前の女神は……この世界に住む者たちが、神の力を借りずに暮らせる様に願っているようだ。対立する神々もいるが、賛同する神や者たちもいる。お前は先程、この国の皇帝や国民たちのことを訊ねたが、お前の国に頼るつもりだった……だが、私の意図が分からなかったのか、皇帝はお前の国に刺客を放ったのだ。間抜けなことに狙う相手を尽く間違えた挙句、お前に倒されたのだ」

 「えっ!? では、俺の仲間たちが狙われた訳は……」

 「おい、誰かいるのか……!? 賊だ! 賊が侵入した! 最上階だ! 速く!」

 俺は賊に襲われたことを詳しく訊ねようとしたが、誰かが俺の侵入に気付いたようだ。

 複数の足音と叫び声が聞えてきた。

 「見つかってしまいました。名残惜しいですが……」

 「待て……左手を差し出せ」

 俺は慌てて脱出前に別れの挨拶をしようとしたが、アレスさまに遮られる。

 そのまま、アレスさまの言う通りに左手を差し出す。

 「私からの餞別だ。私の力をお前に授ける……」

 アレスさまが言い終わると、俺のブレスレットにクリスタルとは違う黄色の宝石が嵌っており、声が聞こえなくなった。

 俺は準備していた縄を使って、慌てて最上階から下に降りる。

 そして、全力で王宮から逃げ出した。

 幸い姿を見られていないので、下手に逃げ続けると不味いと判断すると、いつもの調子で酒場に入る。

 酒場では、闘技場で俺に賭けた店員や常連の客が大喜びしていた。

 俺は適当に飲んで有益な話がないことが分かると、酒場の中から外の気配を探り。

 追っ手がいないことが分かると、街壁を越えて野営地へと引き上げた。


 俺は野営地へ戻ると、先程の事を遠回しにコテツとリヴァイに話し始める。

 「あのー……南の女神さまは危ないのでしょうか……」

 「おい、お前、いきなりどうした? それもはっきりしない言い方をして」

 「うむ、この国の神に、何か聞いたのか?」

 リヴァイとコテツは、訝しげに俺を見つめている。

 「確か、神さまが禁忌と口にしました。しかも、人間で知っているのは賢者だけで、俺はこの世界の人間でないからと言いました……だから、コテツやリヴァイは大丈夫じゃないかと思って……」

 俺はふたりの眼差しに耐えかねた様に恐る恐る説明した。

 俺の話を聞いたコテツとリヴァイが答える。

 「うむ、まさか他国の神が一度会っただけの……しかも別の世界の人間に話すとは……正直、驚いた。いつも落ち着きがなく、優柔不断な男だと思っていたのだが……」

 「おい、お前、大事な時に、本当に面倒なヤツだな。俺には関係ないが、この世界の人間たちやお前の女神には、厄介なヤツかもしれん」

 いつもとは逆でリヴァイの話を聞いて頷いたが、コテツの話はイラっとしたので聞き流した。

 「そうなると、南の進軍を牽制する必要があります。力押しで止めるのは現状無理なので、何か良い方法はありませんか?」

 「うむ、ビアンカに連絡して……!? ビアンカ経由で、私が詳細を伝えよう。アテネリシア王国の北東を塞ぐ様に、ロマリア王国には帝都の南東にあるアレスソフィアを攻撃してもらおう。ロマリアの首都からも遠征し易く、今回の作戦にも丁度良いであろう」

 「おい、お前、この街はどうするんだ。何もしなければ、オーストディーテ王国が動くかもしれないが、動きが遅ければアテネリシア王国に進軍されるかもしれないぞ」

 コテツとリヴァイは俺の話を聞くと、珍しく真剣に答えてくれる。

 「明日、商会に行って探りを入れますが……アリーシャとアウラに、この件だけ話してヘーベに伝えに行ってもらいます。もう、それ程猶予はなそうなので、こちらもいざという時のために、準備を整えておきましょう」

 俺たちは話を終えると明日に備えて、今日は早めに休むことにした。

 (そういえば、顔が腫れてるのに、誰も治してくれなかったな……。ラウルさんの薬も多少効果あったが、完全に治るにはもう少しかかるのか……)

 身体の怪我はほとんど治っていたが、顔は何度も殴られたせいか腫れが残っている――。

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