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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第十六章 アレスサンドリア帝国(後編)
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1.帝都への潜入調査

 ――アレスサンドリア帝国潜入十三日目(異世界生活三ヶ月と九日目)

 俺とビアンカはラウルさんと別れ、二日半でザグレスの街近くの合流地点へ到着した。

 「なあ、ビアンカ。手首に巻いてる金色のキラキラしたミサンガはどうしたんだ?」

 「えっ!? なんすか? これは、ラウルのおじさんがくれたっす」

 ビアンカはミサンガの意味は分からなかったようだが、コテツから貰ったミサンガと反対の手首に巻いたミサンガを俺に見せつけ、尻尾を左右に振っている。

 (相当嬉しそうだが、おじさんと呼ばれていると知ったら、ラウルさんが悲しむぞ……)

 「あのグリフォンは帰って行ったが、もう乗せてもらえないのか?」

 「この手首に巻いたキラキラにお願いすると、グリフォンが来てくれるっておじさんが言ってたっす」

 ビアンカはヒマワリの様な大輪の笑みを浮かべ、教えてくれる。

 (いいな……俺もグリフォン欲しいな……)

 ビアンカは俺の顔を覗き込むと、考えていることが分かったのか。

 「!? カザマが乗せて欲しい時に呼ぶっすよ」

 俺は苦笑を浮かべ、今後のことに集中しようと努める。 


 ――酒場。

 俺はみんなとの合流を明日に控え、ビアンカと一緒に酒場に来ていた。

 ビアンカを置いていこうか悩んだが、俺がいない間に下手な行動を取られても困るので、悩んだ末連れて行くことにしたのだ。

 この前酒場に入ってから少し日が経っていたが、余程前回の事が印象に残っていたのか。

 俺だけでなくビアンカも歓迎されたが、

 「!? ど、どうしたんだ? その顔は……どこかで襲われたのか? この前いきなり現れて、それから顔を見なかったから、国に帰ったと思ったぞ……」

 俺は驚愕する店員に、大したことはないと嘯く。

 「いや、俺はこの地方に初めて来たから、周りの国の情報を集めに旅をしていた。危険な旅だから、多少の荒事は造作も無いことだ……」

 「流石、極東の男だな……何か、変わった話でもあるのか?」

 ビアンカには今度こそミルクを飲ませ、適当に肉料理を食べさせて大人しくしてもらっている……。

 店員は瞳を輝かせ、俺の話に期待を膨らませているようであった。

 周りの客も聞き耳を立てているように見える。

 俺は、周りのみんなの表情を見ながら話し始めた。

 「ああ、南の国が国境近くに兵を集めて動き出しそうだ。北の国はそこまでの印象を受けなかったが、何かあったら動くかもしれない」

 「!? ほ、本当か……」

 俺の話を聞いて、周りが静まり返る。

 (知らないのは街の人たちだけだろうか? 国の偉い人たちも知らなかったら、本当に間抜けだぞ……)

 俺は、仲良くなった店員や常連客の顔色を窺いながら訊ねた。

 「嘘を付いても俺に利益はないだろう。それより、この街の庶民でみんなから慕われる様な、偉い人がいたら教えてくれないか? 折角仕入れた情報だからな……」

 店員や常連客たちが互いに顔を見合わせると、街の商会の偉い人のことを教えてくれる。

 そして、俺はみんなから紹介を受けて、明日訪ねることになった。

 閉店まで話すと、眠ってしまったビアンカを背負い街の外の荷馬車に戻る。

 

 ――アレスサンドリア帝国潜入十四日目(異世界生活三ヶ月と十日目)

 翌朝、久々にみんなが揃った。

 コテツとアウラは転移魔法で現れたが、リヴァイとアリーシャも突然目の前に現れる。

 「はっ!? なに……もしかして、アリーシャも転移魔法を使えるのか?」

 俺は驚き戸惑いつつも、アリーシャに訊ねた。

 「えっ!? 私は使えませんが……!? 久しぶりに会ったのに、そんなことを聞くのですか?」

 アリーシャは、久々に会った再会の言葉にしてはどうなのかと頬と膨らませる。

 俺は幾ら驚いたとはいえ、流石に失礼だったと反省した。

 「ああ、すまん! だけど、アリーシャたちが、突然目の前に現れたから……」

 アウラが美しい相貌を歪めると、頬を膨らませ俺の顔を指差す。

 「そ、それよりも、カザマのその顔……ぷふふふふっ……」

 何か言い掛けているが面倒なので聞き流すと、リヴァイとコテツが口を開く。

 「おい、お前、俺がいることを忘れたのか? 大体お前に呼ばれて、この世界に現れることが出来るんだ。転移魔法くらい使えるだろう。大丈夫か……お前?」

 「うむ、私も使えるが、貴様は使えないのか……」

 俺はコテツとリヴァイの言葉を聞いて驚くが、それよりも重大なことに気づく。

 「!? ち、ちょっと待って下さい。俺の事より……!? それなら、ふたりは野営しなくても、夕方には家に帰ることが出来るじゃないですか?」

 「おい、お前、何当たり前のことを言っている。アリーシャを野宿させる訳ないだろう」

 「うむ、貴様は落ち着きがなく、まだまだ経験が足りない。甘やかす訳がないであろう」

 リヴァイとコテツは、相変わらず俺に大しては容赦がない。

 俺は、顔を引き攣らせたまま話を進める。

 「それで偵察の方はどうでしたか? 俺の方は報告した通りですが……」

 「うむ、北部のオーストディーテ王国は南部のクラーディーテを中心に偵察したが、目立った動きはなかった。ただ、何かあれば……多くはないが、兵を動かせるであろう」

 「おい、お前、南部のアテネリシア王国は、北西部のアテラーナと北部のアテビエの街に、それなりの軍を整えている。何かあれば、どちらの街も軍を動かす事が出来る筈だ」

 コテツとリヴァイが報告してくれたが、ラウルさんの言う通りだった。

 俺は、ラウルさんから聞いたことや、これまで仕入れた情報をみんなに伝える――。


 ひと通り説明すると、アリーシャが声を上げた。

 「ビアンカを酒場に連れて行ったのですか?」

 「どうして、そんなのことをしたの? もしかして、ビアンカに如何わしいことを……」

 ビアンカを置いて行けなかったので、ビアンカを連れって行ったことも話してある。

 それは話のついでの事であったのだが、アリーシャが厳しい表情で俺を睨んでいた。

 アウラは余程驚いたのか、口を押さえる様に両手を当てている。

 一度や二度であれば、それ程気にせずにやり過ごしただろう。

 だが、今回の密命を受けてから、あまりに理不尽なことの連続だ。

 堪忍袋の緒が切れる様に、タガが外れる。

 「お、俺を悪者みたいに見るなー! ロマリア王国では、人間の俺は差別されてビアンカなしでは、会話にならなかったんだぞ! 俺がどれだけ辛く悔しい思いをしたか分かるかー! 一度は連れって行った酒場で、今回はミルクしか飲ませてないんだ。もう少し、俺のことも信用してくれよ……」

 「あっ!? あ、あのー……カザマ。泣かなくても大丈夫だから……ね」

 「あっ!? どさくさに紛れてアリーシャに……!? 私がやるわ!」

 俺は悔しくて涙が止まらなかった。

 その様子を見たアリーシャが優しく抱きしめてくれたが、アウラが俺の顔を引っ張り無理やり抱え込む。

 俺は、アウラに思い切り顔を胸に埋められ息が出来なくなり、背中をポンポンと叩く。

 「く、苦しい……!? 痛いじゃないかー! そんなに乱暴にされたら、慎ましやかなアリーシャの胸の方が気持ちいいわ! ……あっ!?」

 アウラは少し落ち着いたのか俺を抱きしめる腕を緩めたが、アウラの胸から顔を出すと叫んでしまった。

 アウラとアリーシャだけでなく、みんなの視線が冷たく突き刺さる。

 俺は冷ややかな視線を浴び、顔を引き攣らせるが話を続けた。

 「と、兎に角、俺は街の商会の偉い人に会ってくる。ビアンカは昨日も付き添ってくれたらから、一緒に付いて来てくれ。コテツとリヴァイは、念のため待機して下さい。アウラとアリーシャは、夕方に合流ということで家に戻り英気を養ってくれ」

 話を聞いたアウラとアリーシャはごねると思ったが、ふたりは大人しくアウラの転移魔法で引き上げる。

 それから俺たちは予定通り街の中の入ったが、今度は酒場に出入りして顔を知られていたため堂々と正門から入った。


 ――ボスアレスの街。

 俺は酒場での紹介を受けて、商会の偉い人の家にビアンカと共に入った。

 「大体の話は分かったし、私が知っている情報も似た様なものだ……だが、最近来たばかりの旅人の情報にしては、詳し過ぎるのが気になる……せめて、こちらの軍や王宮の動きをもう少し知りたい」

 「そうですね。素性の分からない俺たちの事を少なからず疑うとは思っていました……ですが、そちらの軍や王宮の事は、商会の皆さんなら簡単に情報を得られると思いますが……」

 俺は、ほぼ話が纏まったと思い、微笑を湛え商会の人の返事を待つ。

 「いや、そうではない……。こちらの軍は王宮の気まぐれで動くから情報が掴みにくい。だから、いつも連携が取れずに負けてばかりだ……。はーっ……王宮に通じる情報源が欲しい……」

 商会の偉い人は、俺の予想とは裏腹に首を横に振り、溜息を吐くと愚痴の様に呟いた。

 俺は、何か手段はないかと訊ねる。

 「何か王宮に潜り込む手段はないのですか? 潜入するだけなら可能ですが、相手のことが分からないので、闇雲に長期間は流石に……」

 「そういえば極東の男は、知識は豊富な様だが腕っ節の方はどうだ?」

 「えっ!? まあ、普通の人間よりは強いと思いますが……」

 俺は、ギルドのブレスレットを隠して潜入していた。

 一応密命のため、正体を明かすことは出来ない。

 それから先日もラウルさんに引き分けたが、戦闘後の話している最中に気絶する有様であり、自分から強いとは言えなかった。

 「それなら、闘技場で戦ってみてはどうだろうか? あれには戦闘好きな王族が必ず顔を出す。上手くいけば簡単に近づくことが出来るかもしれない」

 「あっ!? そんな話もありましたね……それって、危ない獣やモンスターが出たりしませんか?」

 「最初のうちは同じ参加者同士で戦う。途中から賞金が多くなり参加者が勝てない様に、軍の騎士団の精鋭と戦うことになる。これが王宮の収入源になっているのは腹立たしいが……。それでも勝つことが出来れば、必ず王族に気に入られる筈だ……」

 俺は不安を懐きつつも、今回は久々に人間との戦いだと安堵し、商会の偉い人の提案に乗ることにする――。

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