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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第十五章 アレスサンドリア帝国(前編)
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4.隣国へ

 俺は気を取り直し、今後の方針をみんなに問い掛ける。

 「まずこの街だが、復興は無理だろう。燃やした後、頃合いを見て火を消せば周りは池だし、周囲の被害は最低限になると思う。でもその前に、周りの国の偵察をしておきたい……。何かしらの策略があるなら、すぐに分かると思う。問題は、俺ひとりで回るには時間が掛かることだ……」

 「アタシがカザマに付き添ってあげるっす。アウラはコテツの兄ちゃんと一緒に、別の国に行くっす。アリーシャはリヴァイと留守番っすよ」

 「ビアンカだけずるいわ。カザマは私がいないと危ないから、私が付いてあげるわ。私なら転移魔法で移動出来るし、ビアンカはコテツさまと一緒に他の国の様子を見に行って頂戴。アリーシャとリヴァイさまは留守をお願い」

 「ふたりでは、カザマが我がままを言った時に止められません。それに、最近のカザマは疲れています。私が傍に付いていないと心配です。それから、アウラとビアンカが別々の国に行けば、周りの三国をすべて偵察出来ますよ」

 ビアンカとアウラとアリーシャは、それぞれ意見を言うと三にんで揉め出した。

 いつも仲の良い三にんが言い合いになる様子を初めて目の当たりにする。

 (アウラとビアンカは兎も角、アリーシャが我がままを言うのは珍しいな。だが何故か、みんなの話を聞いても素直に喜べないのだが……)

 俺が苦笑を浮かべ三にんの様子を見つめていると、コテツとリヴァイが口を開く。

 「うむ、貴様は情緒不安定ですぐに怒るし、その上優柔不断で情けない性格を持つが、何故か慕われているようだな」

 「おい、お前、あまりに調子に乗るなよ。今のうちに結婚相手を決めろ。正妻を決めて、後は妾で良いだろう。お前、この人生最大のモテ期を逃すと、後がないぞ」

 (ヤカマシイ!! 余計なお世話だ! 確かに最大のモテ期は認めるが、後がないは言い過ぎだろう……)

 コテツの言葉にも苛立つが、リヴァイの話を聞いて心の中で怒鳴りつけた。

 それから奥歯を噛み、拳をグッと握り我慢する。

 「コテツもリヴァイも言い過ぎでしょう。何もそこまで言わなくてもいいでしょう……」

 怒りに耐えた俺の言葉は、心の中の叫びよりも穏やかであった。

 しかし、何度も我慢を重ねたことで、我慢も閾値を超えたのかもしれない。

 「カザマ、泣かないで下さい。私が付いていますから……」

 「ああ、アリーシャだけずるいっす! アタシも抱きしめてあげるっす」

 「駄目よ、ふたりとも! 私がしてあげた方が、カザマは喜ぶわ!」

 アリーシャが優しく抱きしめてくれて喜んでいたら、ビアンカが俺を奪い取る様に力いっぱい抱きしめてきた。

 そしてアウラが、見た目では想像できない様な力で、無理やりビアンカから俺を奪い取ろうとする。

 「ち、ちょっ!? い、痛い、痛い! もう、止めて……!? ちょっと待ってくれ! 俺は一度アウラの転移魔法で戻って相談してくる! 一応今回の件は、俺の判断で自由に動いていいと言われたが、予想以上に判断が難しい」

 俺は初め喜んでいたが、あまりに強い力で引っ張られ身体が痛くて叫んだ。

 三にんは俺の叫び声と悲痛に歪んだ表情を見ると、手を離したが。

 俺はこれ以上面倒なことにならない様に、今後の予定を話したのだ。

 早速アウラにお願いして、ペンドラゴン王宮に転移魔法で連れて行ってもらうことにした。

 「それほど時間が掛からない様に戻ってくる。時間が掛かる様なら、教会に戻って相談するから心配しないでくれ。それじゃあ、アウラ頼む」

 「分かったわ。それじゃ、行くわよ」

 俺は初めて転移魔法を体験するため、慌しい最中ではあるが少し浮かれている。

 「!? アウラ、そろそろ頼む。それじゃあ、みんな少し待っててくれ……」

 「!? あれっ!? カザマ、精霊たちが力を貸してくれないわ」

 「へっ!? どういう意味だ……」

 周りの風景が変わらないのに訝しさを覚えていたが、アウラが理解し難いことを言ったので、益々分からなくなった。

 「うむ、薄々感じてはいたのだが、貴様はアウラの転移魔法で転移出来ないであろう……回復魔法は作用していたので、今まで断定出来なかったが……。精霊魔法は自然界の力を極限にまで高めることが出来る。だが、貴様はこの世界の理から外れた存在だからな」

 俺はコテツの話を聞いて首を傾げる。

 「おい、お前、お前はこの世界の人間ではないだろう。それくらい理解しろ。折角コテツが、お前に配慮して遠回しに教えたのに……!? お前が馬鹿だから悪いのだからな」

 リヴァイは、空気は読めた筈だがみんなの前で言ってはならないことを口にして、俺に責任を押し付ける様に顔を背けた。

 「えっ!? えーと……リヴァイが何か勘違いしたみたいだが、気にしないでくれ! 俺は、選ばれし勇者的な特別な存在だからなのかもしれない……」

 ビアンカとアリーシャとアウラの三にんは、俺の顔を瞬きもしないで見つめている。

 俺は首筋から汗が流れるのを感じ、ゆっくり三にんから顔を背けコテツを見た。

 「うむ、選ばれし勇者というのは何だ? 貴様は変わった存在ではあるが、言い過ぎだぞ。そもそも、我らを召還する程の力を持った存在なのだ。アウラでは力不足なのではないのか? 全く、貴様は黙っていても迷惑なヤツだな」

 「えーっ、ヒドイじゃないですか? 幾らアウラが迷惑を掛けてばかりとはいえ……今のは、流石に言い過ぎだと思いますよ……」

 「うむ、お前のことに決まっているだろう」

 俺はコテツの話に乗っかろうとしたが、アウラが悲しそうな表情をしたこともあり、コテツを諌めたのだ。

 だが、俺とコテツの茶番に、三にんの眼差しが突き刺さって感じる。

 「はあーっ……仕方ないですね。以前、モーガン先生から、お互いのことは詮索しない約束をしましたからね。それにコテツの言う通り、カザマは確かに変わった存在ですから……」

 アリーシャは俺の気持ちを察してくれたのか、ビアンカとアウラを説得する様に話してくれた。

 ビアンカとアウラは、お互いに顔を見合っていたが何も言わない。

 俺は話を進めようとしたが、

 「俺は、どうやら転移魔法で移動出来ない様なので……!? ああああああああああああ――! ヘーベか? また、ヘーベの設定のせいなのか? どうして、毎回、余計な設定をつけてくれるんだ! 全く……」

 この世界に召還されてから、密かに憧れていた転移魔法が使えないと知り、どうしても我慢出来なくなった。

 「うむ、普段から落ち着く様に注意しておいたのだが、とうとう頭が可笑しくなった様だ。あの様な奇天烈な思考を持った人間だから、転移魔法が発動しないのだろう」

 コテツはこの状況を上手く利用したのか、アウラとビアンカの顔を見ながら、またも俺の悪口を言って説得する。

 「ああ……なるほど! 流石はコテツさまです。さっきは、良く分からなかったけど、やっと理解出来たわ」

 「そうっすね。アタシもさっきはさっぱり分からなかったっす。でも、今のカザマの様子とコテツの兄ちゃんの話しを聞いて分かったっす」

 リヴァイは俺に対して皮肉を口にするが、

 「おい、お前、良かったな。お前の可笑しな言動が役に立ったぞ」

 そもそもこの状況を引き起こしたのは、リヴァイが口を滑らしたのが原因だ。

 俺はこれ以上時間を取られたくないので、理不尽だと思いつつも耐えた。

 「俺とビアンカ。コテツとアウラ。アリーシャとリヴァイ……三つのグループに分かれるぞ。どこの国に行くかだが、俺は他の国のことを知らない。それに、日帰りでは無理だろう? 一度、帰ってモーガン先生に相談してくれないか?」

 俺の話を聞くと三にんとも顔を見合わせて、アウラの転移魔法で帰った――。


 三にんがいなくなり静寂に包まれたが、リヴァイが眉を顰め口を開く。

 「おい、お前、さっき心の中で俺のことを怒鳴りつけていただろう?」

 「うむ、私も気になったが、話が進まないので聞き流したのだ」

 「えっ!? 何の事ですか? 良く分かりませんが、ふたりが俺のことで疚しいことを考えていたのではないですか? それより、ふたりともアリーシャとアウラをお願いしますよ」

 俺は、気の短いリヴァイが過ぎたことを問い詰めてくるとは思ってもいなかった。

 しかし、これ以上の面倒事というか、叱られるのは御免だと思いシラを切る。

 「おい、お前、俺はお前と違って優柔不断じゃないから、口にしたことは守るぞ」

 「うむ、私も責任転嫁してばかりのヤツとは違うからな」

 ふたりはシラを切った俺に、皮肉を込めた言い方をした。

 俺は顔を引き攣らせながらも、約束をしてくれたことで満足する――。


 俺たちが無言で三にんが戻ってくるのを待っていると、三にんが現れた。

 「戻ったっす」

 「カトレアさんとエリカにも会って、カザマが落ち着きがないことを話しておいたわ」

 「お待たせしました。先生から許可してもらいましたよ。それからカザマは、初めに自由に行動して良いと言われたなら、好きな様にすれば良いだろうと託を受けました」

 ビアンカ、アウラ、アリーシャの順に声を掛けられて、俺は緊張から解放され様に頬を緩める。

 「みんな、ありがとう。特にアリーシャは、色々と聞いてくれてありがとな。アウラは、いつもいつも余計なことまで言わなくていいぞ」

 戻って来た三にんにお礼を言ったが、アウラには一応拳をちらつかせておいた。

 俺がアウラを威嚇する様子を見て、アリーシャは眉を顰める。

 「カザマ、その、言い難いのですが……アウラが、カザマが自分のことを好きだから意地悪をしてくると、カトレアさんとエリカに話し……二人とも怒っていましたよ。そういう仕草も、女の子たちのお茶の時間に話題になるので、止めた方が良いと思います」

 俺はアリーシャの話を聞いて驚愕し、顔を歪めた。

 「はっ!? アウラ、お前、今までのことを、カトレアさんとエリカに話したのか?」

 アウラは頬を赤く染めると、両手で頬を押さえる。

 「そ、そんなに照れなくてもいいわ。エリカは教会に戻ってから、ヘーベさんに話してくれると言っていたし、カザマが私を好きなことがどんどん広まって恥かしいわ」

 俺は頭を抱え身体を震わせた。

 毎回アウラがみんなに告げ口をしているのかと思ったら、怖くて堪らなかったのだ。

 コテツを見たが、こちらを見てくれない……。

 (これはコテツとリヴァイが言う様に、いい加減この問題を何とかしないといけないかもしれない……)

 俺が深刻に悩み始めると、アリーシャが口を開く。

 「カザマ、良いですか? この国の北側はオーストディーテ王国ですが、首都はディーンです。西側はロマリア王国と僅かにオスマン帝国が隣接していますが、オスマン帝国は違うと思います。あまりに境界が狭いので、他の国が黙っていない筈です。そのため西側は、ロマリア王国だけで良いと思います。――ですが、首都クラレストはロマリア王国の中でも東側にあり、国の中央には山々が連なっています。西の大きな街にティラミスがありますので……取り敢えず、その街の偵察で良いかと思います。南側はアテネシリア王国がありますが、首都はアテナポリスです」

 アリーシャは俺たちを見渡して、この辺りの国や首都のことを説明してくれた。

 「うむ、流石だ。このメンバーのリーダーは、話の内容も風格も違うな」

 「えへっ、そんなに褒められると照れてしまいます……」

 (アリーシャ、お前、いつからリーダーになった? まあ、可愛いけど……)

 コテツがアリーシャを褒めて、アリーシャは珍しく年相応なハニカミを見せる。

 (確かにアリーシャは、俺より二つ年下とは思えないが……コテツの言い方は俺に対する含みがあるのでは……)

 「それで、どのペアがどこの国に行くっすか?」

 ビアンカは早く身体を動かしたいのか、行き先を決める様に促す。

 「おい、お前、俺とアリーシャは南だ。俺は水が多くある所の方が、力を発揮出来る」

 リヴァイはアリーシャの顔を見つめると、南の国に行きたいと自ら希望した。

 (リヴァイが積極的に志願するとは珍しいな……)

 俺は訝しさを抱きつつ、リヴァイとアリーシャを見たが話は進む。

 「アタシは東がいいっす! アリーシャが、山があると言ったっす」

 「それなら、私は残った北側で良いわ。コテツさまも大丈夫ですよね?」

 「うむ、私はどこでも構わないが、荷馬車はアリーシャたちに譲ろう。私がアウラを背中に乗せた方が早いからな」

 「分かりました。俺とビアンカは走った方が速いですから、その様にお願いします。合流は十日後、ボスアレスの街の手前、この前野営をした場所にしましょう。何かあれば、コテツとリヴァイは、俺と念話で連絡することが出来ますので……」

 みんな俺の指示を聞くと、今回は何も文句を言わずに頷いた。

 そして、それぞれのパートナーと話しながら、それぞれの目的地へ出発する――。


 俺とビアンカは、東へ向かって走った。

 時折、野犬が現れて戦ったが、周囲を囲まれることなく突破する。

 オオカミは周囲を囲む様子を見せたが攻撃はなく、野犬より賢いからだろうか。

 その他にも、以前襲われたタイガーモドキに襲われたが、俺とビアンカのふたり相手では格が違い直ぐに逃げ出す。

 俺は、この前の戦いでビビってしまったことを後悔した。

 日が暮れる前に野営の準備をして、早めに食事を済ませるとビアンカと横に並び、寝る準備をする。

 「そういえば、今までふたりで良く森の中に入ったが、一緒に寝るのは初めてだよな?」

 「そうっすね。今までは家に戻れば良かったから……」

 「ビアンカは、外で眠ることは初めてなのか?」

 「多分、そうっす。物心付いた時にはモーガン先生の家にいたっすよ……それより前は分からないっす……」

 俺は横になりながら、ビアンカの顔を見つめた。

 暗くて良く分からないが、どういう表情をしているのか気になったのだ。

 「なあ、自分の生まれた場所……故郷のことは気にならないのか?」

 「そうっすね……知らないことを考えたことはないっす」

 「自分の両親のこともか?」

 「そうっす。先生がいて、アリーシャとアウラが来て友達になったっす。それから、カザマも来たっす。賑やかで楽しくなったっすよ」

 俺は、ビアンカの過去のことについて初めて話を聞いた。

 少しは悩んだのかもしれない。

 だが、今が幸せで、少しずつ家族の様な友達が増えて満足そうに感じた――。

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