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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第十三章 王都ペンドラゴン
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7.密命

 ――王さまの部屋。

 俺たちはレベッカさんに案内されて、王さまの部屋に通された。

 「ふむ、カザマだけ呼び出したのは、褒美をまだ授けていなかったからだ」

 「あっ!? そうでしたね……でも俺は、特に欲しいものはないのですが……」

 俺は王さまの言葉を聞いて、欲しいものを想像したが思い浮かばない。

 だが、リヴァイは突然、不敵な笑みを浮かべる。

 「おい、カザマ。さっき、突然レベッカに顔を近付けて……何かしようとしただろう」

 「はっ!? ち、ちょっと、お前……!? そんな誤解を招く言い方は、駄目ですよ」

 驚いてリヴァイを問い詰めようとしたが、王さまが黒いオーラを漂わせている。

 (あ、あいつ、さっきの仕返しに……頭が悪いじゃなくて、ずる賢いヤツなのか……)

 「ふむ、今、リヴァイが興味深いことを言ったではないか? もしかして、褒美に、私の可愛い娘をよこせと言いたかったのか……」

 王さまはリヴァイの悪知恵に掛かったのか、黒いオーラを放ち身体を震わせた。

 レベッカさんに弁解してもらおうとしたが、頬を赤く染め両手で顔を押さえている。

 「ち、違いますよ……王さまは誤解してますよ」

 「おい、カザマ、嘘を付くなよ。レベッカだけでなく、仲間たちに色目を使い、卑猥なことをしようとしているのを見たぞ。最近はアウラにキスしようとして、ビアンカに見つかって殴られただろう」

 「な、何、言ってるんですか! 俺を貶めようとして……」

 俺は誤解している王さまを宥めようとしたが、リヴァイの言い掛かりは容赦なく続けられ、言葉に詰まった俺は口元だけでなく顔を引き攣らせる。

 王さまは黒いオーラを漂わせたまま、眉間に皺を寄せ赤い瞳を細めた。

 「カザマ! お前は私の娘に手を出そうとして、他の娘にも卑猥なことをしているのか!!」

 王さまは俺を怒鳴りつけ、辺りが地震の様に揺れた。

 そして、黒いオーラがよりはっきりとした黒い靄へと変わる。

 俺は何も言えなくなり、コテツに助けを求めようとしたが顔を背けられてしまう。

 「ああああああああああああああ――っ!」

 「カザマ、突然どうしたの? お父さん! あまりカザマを苛めないで! カザマは求婚されても返事が出来ない程の優柔不断な、ヘタレよ! 女の子に無理やり如何わしいことを出来る筈ないわ!」

 「へっ!?」

 俺はレベッカさんの話を聞いて、素っ頓狂な声を上げて固まった。

 レベッカさんの話は俺を庇ったのか、馬鹿にしたのか理解出来ない。

 俺は、返す言葉が見つからずに身体を震わせていたが。

 「ふむ、そうか……分かった」

 「えっ!? そ、それで、納得されても……」

 俺のことを誤解したまま納得したのか、王さまの周りから黒い靄が消えた。

 俺は何を言ったら良いか分からず、身体を震わせたまま我慢する。

 「カザマ? 少し言い過ぎたかもしれないけど、泣くことないじゃない……」

 「もういいですよ。俺はヘタレで……」

 「カザマ、元気出して! 私からプレゼントよ!」

 俺が拗ねていると、レベッカさんは子供を慰めるかの様に俺に声を掛け、袋を手渡す。

 袋の中を確認すると五十万ゴールド入っており、すぐに前回のクエストの報奨金だと分かった。

 「あ、どうも……」

 レベッカさんから受け取った報奨金を無造作にポケットにしまう。

 俺の何気ない仕草に、レベッカさんは赤い目を細めた。

 「!? いつも報奨金にはあまり興味がないみたいだけど、今回はいつもよりも更に関心がないみたいね……お金は生活費に使ったり、自分の酒代と兄さんに奢るくらいしか使ってないみたいだけど、冒険者の収入って報奨金だけよね……」

 「えっ!? 急にどうしたんですか?」

 「ちょっと、見せて……」

 レベッカさんは俺の左手を引っ張り冒険者のブレスレットを見つめる。

 「えっ!? 何よ……これ? 何で、こんなにお金があるの?」

 「いえ、途中のフィレンツーノの街で、コテツが一儲けしまして……俺が預かっているんです……」

 俺は預かっているだけのお金なので、悪びれもせずに正直に説明した。

 しかし、レベッカさんの解釈は違ったようだ。

 眉を寄せ赤い瞳を細め、俺を睨む。

 「カザマ! 私たちが宿で休んでいる間、カジノに行ったの?」

 「はい……ちょっと、興味があって覗くだけだったんですよ……。俺は四十万程稼いだだけです。でも、コテツは俺が止めたのに、全然ゲームを止めてくれなくて……」

 レベッカさんが表情を険しくさせ睨んでくるので、渋々詳細を説明したが。

 俺の話を聞くと、レベッカさんが声を荒げた。

 「カザマ、ギャンブルは駄目よ! 一応、施設は国が管理して、利益は国のために使われているわ。それでも、あれはお金のある貴族の遊びで、お父さんも道楽をしている貴族の力を落とす目的があって続けているのよ! 庶民は僅かな掛け金で、酒代程度儲けて喜ぶのが常識よ! カザマのお金は貯金して、使えない様にするわね!」

 レベッカさんの話は間違っていないだろうが、

 「えっ!? ちょっと……確かに、こんなにお金があっても使い道がないし、困っていました。でも、それはあまりに横暴というか……レベッカさんは、俺の母親かよ!」

 俺の預けているお金を使えない様にするのは、職権乱用ではないか。

 それはやり過ぎだろうと文句を言っても可笑しくないであろう。

 俺の当然の言い分を聞くと、レベッカさんは顔を近づけ益々向きになる。

 「はあーっ!? ちょっと、何、その言い方? 私はカザマのことを思ってしてあげてるのに……」

 「ふむ、二人とも止めろ!」

 王さまは俺たちの話を黙って聞いていたが、一喝して遮った。

 「ふむ、レベッカはカザマのことを……どう思っているのだ」

 王さまの問いに、レベッカさんは赤い瞳を丸めると答え始める。

 「えっ!? 急にどうしたの? そ、そうね……女性関係でだらしない感じを受けるけど、兄さんの様に節操がない感じでもないし……経験不足でどの様に答えたら良いか、分からないだけだと思うわ。――きっと、け、結婚……したら、落ち着くと思うわ」

 俺のことをヘタレの様に説明しているのか、庇っているのか分かり難い。

 でも、腹立たしくはあるが、言っている事は大体合っている。

 ただ途中から、顔を赤くして口篭るように話したのが気になった。

 王さまはレベッカさんの返事を聞くと頷く。

 「ふむ、大体分かった。レベッカがここまで真剣であれば考えなくもない……だがカザマには、内密にやって欲しいことがある」

 王さまが何を考えているか、分からずに困惑する。

 「……何でしょうか?」

 「以前から、東の国から賊が侵入しているのは知っているであろう? あの国は嘗て、大国で帝国と称していたのだが……戦争に負け続け衰退し、滅亡し掛けている。放っておこうかとも思ったが、周辺諸国の動きも気になる。そこで、カザマには東の隣国である『アレスサンドリア帝国』の首都『ボスアレス』に潜入して動向を探ってもらいたい。もし、潜入中に良からぬことを企んでいると分かったら、内部から情報をかく乱し動きを封じろ! 私の権限ですべての判断をお前に任せる! お前の本来の特性は……そういったことに長けているのだろう」

 俺は、王さまの話を時折頷きながら真剣に聞いた。

 久々に真面目な話題であり、大仕事である。

 今までギルドからのクエストは、個人としての依頼だったが。

 今回は王さまから直にクエストを与えられた訳だ。

 しかも、この内容は内密に行動する必要がある『密命』である。

 「はい、分かりました」

 「ちょっと、カザマ! そんなに簡単に引き受けて良いの? 今回は数日で終わる依頼でなく……何ヶ月掛かるかも分からない、タフな依頼よ! カザマは他の国の事を知らないみたいだけど、この国は特別なのよ! 今までギルドからの討伐クエストはほとんどなかったでしょう? あれはカザマが来る前に兄さんが、国中のクエストをほとんど達成したからなのよ! 毎日早い時間から酒場にいて、周りの人が何も言わなかったことや不自然な事がたくさんあったでしょう。――それに東の国は治安が乱れて、無法地帯よ! 危険だわ! 断りなさい! ギルドの担当アドバイザーとして反対するわ!」

 レベッカさんは、俺がこれまで疑問に思っていたことや国の事を話してくれた。

 凄い剣幕で話す姿から真実味を帯び、必死さというか、俺に対する気持ちが伝わってくる。

 俺はレベッカさんの誠意に答える様に表情を引き締め、口を開く。

 「俺はこれまで先生や仲間たちからだけでなく、村や街でたくさんの人の世話になりました。今まで修行した成果を発揮する時がきたと思っています。――それから、ボルーノの街やアウラの集落で賊が襲撃して、俺の仲間を襲おうとしました。あの時は我慢しましたが……内心、腸が煮えくり返る程怒っていたんですよ……」

 王さまは俺の顔を見つめて話を聞いていたが、微笑を浮かべた。

 「ふむ、先程まではこんなヘタレが、どうしてと思っていたが……お前も立派に血を受け継いでいるではないか。報酬は任務を果たした後、望むものを言え……。必要なものは、すべて王宮で用意させる。準備が出来たら出発してもらいたいが、一度教会に戻ってからとする。分かってはいると思うが……危険な任務を考え、人選を間違えるなよ」

 「はい、分かりました」

 俺は王さまの言葉を聞いて、気持ちを昂らせ返事をする。

 レベッカさんは、これ以上何も言わなかった。

 コテツとリヴァイは何も言わなかったが、薄っすら笑みを浮かべているように見えて頼もしさを感じる――。

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