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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第十章 森での生活と脅威
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6.覚醒と友のために

 オーガの群れは、ブルーノの指示で迅速に撤退を始める。

 そして、十分間も掛からず周囲からいなくなった。

 「うむ、そろそろだ。カザマ、始めろ」

 俺は白虎の指示を聞いて頷く。

 どちらが主か分からないが、そもそも今は契約されていない状態なので、細かいことは考えない様にした。

 『ウインド!』

 俺は破廉恥魔法を発動させて、白虎に見せる。

 「うむ、中途半端な魔法だな……貴様の力なら、もっと強い魔法が使えるだろうに……」

 白虎は俺の破廉恥魔法を見て、表情は分からないが憐れむ様な目で見つめられている気がした。

 先程までとは、色々な面で逆の立場になっている。

 俺は眉を寄せて少し向きになって答えた。

 「強力な魔法も使えます。だけど、この世界で詠唱すると、こんな感じになるんです。無詠唱魔法は威力こそありますが、制御が難しくて、守りには詠唱魔法を使っているんです」

 「うむ、分かった……ここは、貴様が以前居た世界とは違うのだったな。私が力を貸そう……」

 白虎がまたも憐れむ様な目で、俺を見つめた気がしてイラっとする。

 でも、言葉通り風の威力が上がった。

 しかも、威力が上がっただけでなく、隙間がなくなった様な濃厚な風の壁に守られている感じがする。

 「――はっ!?」

 目の前で突然白虎に匹敵しそうな強大な気配が生じた。

 そして、ビアンカがもぞもぞと動き出す。

 それから、白虎が言った様に重傷に見えた怪我が、あっという間に回復している。

 「ビアンカ、大丈夫か……!?」

 俺は声を掛けて近づこうとしたが、白虎に遮られた。

 ビアンカは頭を振りながら呟く。

 「痛いっすね……一体何があったっすか?」

 俺は白虎に遮られない様に、その場でビアンカに声を掛ける。

 「ビアンカ、怪我はもう大丈夫か?」

 ビアンカは、まだ意識がはっきりしていないのか、朦朧としている様に見えた。

 そして、あちこち身体を摩りながら起き上がり、俺の方に視線を向ける。

 「お前かー!!」

 ビアンカは叫んだの先か、動いたのが先か、分からない程の速さで俺の懐にいた。

 そして、俺はいきなり強烈な衝撃を受けて吹き飛ばされる。

 腹部に激しい痛みを感じ、熱いモノを吐き出し息が止まりそうになった。

 だが、振り向くと、後ろには白虎がいる……。

 (白虎が俺を受け止めてくれたのか……それにしても速いとは聞いていたが、動きが全く見えなかった……うっ! 肋骨が何本か折れてるかもしれない……ビアンカのヤツ! 何か、勘違いしているみたいだったが、手加減なしにやりやがって……)

 俺を支えてくれた白虎が声を荒げる。

 「うむ、呆けている暇はないぞ! 次が来るぞ! もっと意識を集中させろ!」

 俺は狼狽しつつも声を上げる。

 「……そうは言っても、動きが全く見えないんですが……」

 オドオドする俺に、白虎は牙を剥き出し声を荒げる。

 「うむ、初めから分かっていた事だろう! お前が選んだ事だ! 泣き言を言う暇があったら、風の障壁を強化させろ!」

 (分かってはいるんだ。分かってはいるんだが……そんなことをしたら、ビアンカを傷つけることになるかもしれない。今はきっとすぐに治ってしまうのだろうが、それでも……嫌だ!)

 俺は両目を閉じて、身体の力を抜く。

 そして、ビアンカの攻撃のタイミングを探り、気配に集中する――。


 力のない俺の姿にビアンカは冷たい視線を送っていたが、身体を震わす。

 「……全くやる気がないようで、拍子抜けっす! どちらでも変わりはないっすが……死ね!」

 ビアンカは怒気を発する。

 破廉恥魔法の風の障壁は強化されているが、ビアンカの攻撃に切り裂かれるようだ。

 俺は再度同じところを殴られて、今度も白虎が受け止めてくれた。

 「……痛いじゃないか、ビアンカ! 腕の骨が折れたぞ……だが、今度はガード出来たぞ! お前、さっきから強くなったつもりかもしれないが……動きが単調だぞ! それから、所々で、語尾がいつもと違ってるぞ!」

 俺の啖呵に白虎が驚いた様に青い瞳を見開く。

 「うむ、お前は馬鹿か! 相手を刺激してどうする!」

 攻撃を読み両腕でガードして辛うじて、ビアンカのコブシから腹部を守った。

 しかし、片腕の自由がほとんど利かなくなっている。

 白虎は、俺が冷静さを欠いている様に見えたかもしれない。

 だが俺は、いつものビアンカに戻って欲しいと思っているだけだ。

 そのため、あと数時間、何度でも受け止めてやろうと気合いを入れたである。

 ビアンカは身体を震わせ歯軋りしているのか、犬歯を覗かせた。

 いつも笑顔の時に見せる八重歯が大きくなっており、牙のように見える。

 再度ビアンカが攻撃を仕掛け、姿が消えた。

 「頭にきたっす! 死ね!」

 ビアンカが吼える。

 突風が近づき、カマイタチの様な切れ味の攻撃を繰り出す。

 動きは相変わらず見えない……。

 (あれっ!? 何で……今、攻撃が来ると分かったんだ……)

 直感的にビアンカの攻撃を感じた。

 またも吹き飛ばされたが、先程と同じではない。

 白虎に受け止められることなく、自分で地面に着地して踏ん張っている。

 「うむ、貴様……風の感覚が掴めてきたのか?」

 白虎の問いに、俺は何となく掴み掛けた感覚を言葉にした。

 「まだ良く分かりませんが……濃厚な風の壁のお陰で、間合いに入られた時に違和感を覚える様になりました……」

 全身が汗だくで、血塗れのボロボロの状態であるが、小さく笑みを溢す。

 ビアンカは俺と白虎の会話を聞き、俺の顔を見ると牙を剥き出しにして叫ぶ。

 「あーっ、本当にイライラするっす! 死ねー!!」

 ビアンカは先程までと同じ様に姿を消す。

 突風に見舞われる様な感覚を覚えると、カマイタチに襲われる様な衝撃が複数生じる。

 ビアンカは連続攻撃を繰り出していた。

 全身にビアンカのコブシと肘、膝に足の甲、踵……を受ける。

 しかし、それは今まで、毎日の様にビアンカから特訓を受けていた攻撃だった。

 初めに数発受けたが、顔面に受けた後で状況が変わる。

 脳が揺れたせいだろうか、身体の自由が利かなくなったのだ。

 それでも俺は、ビアンカの攻撃に意識を集中した……。

 連続攻撃を繰り出しているビアンカの表情が曇っていく。

 「な、何で、手応えがないっすか!!」

 俺は、ビアンカから機関銃の様な猛攻に晒されている。

 だが、途中からすべて圧縮空気の膜を作って防いでいた。

 自分で意識した訳ではない。

 攻撃を受けている最中に、少しずつ形成されているものに気づいたのだ。

 深層意識に作用したのだろうか。

 こういうのは深く考えてはいけないと感覚任せで、何も考えなかった。

 狼狽するビアンカに、今度は俺が雄叫びを上げる。

 「俺は毎日、お前と修行をしていたんだぞ! いくら力が強くなっても! 動きが速くなっても! そんなに興奮した単調な攻撃が、いつまでも当たる筈がないだろう! そもそも攻撃の時、冷静になれと言ったのはビアンカだろう! そんな鈍らじゃなくて、いつもの切れのある攻撃をしてこい!」

 既に満身創痍で片腕が上がらない状態であったが、気持ちは高らかにヘーベやアウラの様に堂々と言い放った。

 俺の言葉を呆然と聞いていたビアンカは、突然相貌を歪めて震え出すと、

 「わああああああああああああああ――!」

 大声で叫びながら俺に殴り掛かって来た。

 しかし、それには先程までの威力もスピードもない。

 ビアンカは駄々っ子のように、俺に殴り掛かっている。

 森の中が薄っすらと明るくなっていた。

 やがて、村よりも標高の高い森の木々の隙間から、朝日が顔を覗かせる。

 ビアンカは泣き叫びながら俺を殴っていたが、途中から俺を抱きしめて泣いていた――。


 俺たちの様子を静かに見つめていた白虎が口を開く。

 「うむ、見事だ……気に入った。貴様だけ、対等な関係ということで契約しよう。これで、私の方が水を司るヤツより親しくなった訳だ……私にも名前を付けても良いが……」

 白虎は堂々と言い放ったが、名前と言い出した辺りから口篭ってしまう。

 (いきなりどういうことだろう……そもそもこいつは、空気が読めるヤツだったのか……。これは契約してなかった今までを考えれば、かなり良い条件だが、名前……!? もしかして、リヴァイを意識していたり、羨ましかったりとか……)

 俺は白虎を見つめたまま頬を膨らませる。

 白虎は眉を顰めて、俺を睨みつけた。

 「何故、気持ちの悪い顔で怒っているのだ?」

 「カ、カザマは、たまに挙動不審な行動をすることがあるっす……」

 白虎の疑問に、ビアンカが泣き止んだばかりの鼻声で答える。

 俺はイラッとして違う意味で頬を膨らませたままだ。

 「お、怒った訳じゃない……そ、その、白虎のことを考えて、笑っては失礼だと思って我慢しただけだ……」

 白虎は俺の言葉をさらりと聞き流すかのように、

 「何を考えているかは別として、名前だが……」

 俺はイラッとしたまま腕を組んで考える。

 「名前ですが……『コテツ』はどうでしょうか? 虎という字に徹という字を書きます。虎は文字通りですが、徹は貫くや突くという意味で、イメージに合うかと思いますが……」

 白虎の表情が緩み、口を開く。

 「うむ、気に入った!」

 恐らく笑顔を浮かべているだろう白虎に、ビアンカも笑みを浮かべる。

 「カザマは、いつも口だけは達者で調子がいいっす」

 「ビアンカ、やっといつも通りに戻ったと思って喜んでいたが……あまり酷いことばかり言うと、アウラみたいに引っ叩くぞ! 全く……」

 俺はまたも頬を膨らませ、剥れてしまう。

 白虎は、コテツという名前に満足するとビアンカに顔を向けた。

 「うむ……娘よ。先程の戦いで、多少は理性が残っていたのではないか? 幾分か、力を抑えていた様に見えた」

 ビアンカは驚いたように目を見開いたが、俺の姿を見ると俯いてしまう。

 「今までと違ってしっかり覚えているっす。興奮していたけど、ギリギリのところで我慢していたっす。それでも、完全に抑えることは出来なかったす……」

 (はっ!? ちょっと、待て……あれで手加減していたのか? 本気のビアンカって、どんだけ強いだ……)

 俺はコテツとビアンカの会話を聞いて、言葉が出ずにいた。

 コテツはビアンカの話を聞き、その姿を見つめている。

 「うむ……娘よ。カザマを殺さなかったことに免じて、これをやる……」

 コテツの身体が眩く輝き、ビアンカの前にコテツ模様のミサンガみたいな物が現れた。

 それがビアンカの手首に巻きつく。

 ビアンカの笑みが大輪のヒマワリの様に広がる。

 「ありがとうっす! アタシの名前はビアンカっすよ!」

 ビアンカは尻尾を左右に揺らして、コテツに満面の笑みを見せた。

 「うむ、ビアンカ。これである程度は、感情のコントロールが可能になるだろう。しかし、カザマ……先程は、動きが単調だとか偉そうに言っていたが、ビアンカが加減していただけなのだが……格好を付けているみたいで、途中で噴き出しそうになった……」

 俺は、コテツとビアンカの様子を途中まで笑みを浮かべ、暖かく見守っていたが。

 コテツの余計な言葉で台無しになり、顔を真っ赤にして叫んだ。

 「う、うるさーい!」

 ビアンカは、興奮している俺に慌てて声を掛ける。

 「カザマ、身体中から出血してるっす。そんなに興奮したら傷に触るっすよ。それに、そんなに向きにならなくても……コテツの兄ちゃんは空気を読んで、笑うのを我慢してくれたっすよ……」

 「空気を読んでくれたのなら、今も余計な事は言わないで欲しかったですね……」

 俺は声を掛けてくれたビアンカにではなく、コテツをチラチラ見ながら言った。

 「うむ、決して馬鹿にして言った訳ではない。本気でビアンカが戦っていたのなら、小細工なしに、最高のスピードから一撃。若しくは、風を使った攻撃……一瞬で終わっていた筈だ。それを分かってもらおうと思ったのだが……言葉が足りなかったか? 賢いカザマなら余計な事を言わなくても、察してくれるとばかり思っていたのだが……」

 コテツは自分に落ち度があったのか、真剣に悩んでいる様子である。

 その様子を見て、俺は益々恥かしくなってきた。

 「あ、あのーっ……さっきは大きな声を上げて済みませんでした。反省してますので、この件は終わりにして……そろそろ、エルフの集落へ行きませんか……」

 俺は頬を掻きながら謝罪して、そろそろ話を終わらせようと促した――。

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