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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第十章 森での生活と脅威
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5.オーガとの戦闘と召還

 俺とビアンカは迂回することなく向かっていたからか、三十分程でオーガの群れに辿り着いた。

 先程は遠くからで分からなかったが、身体の大きなオークより二回りは大きく見える。

 オークの丸みを帯びた胴長短足とは異なり、二メートル以上の身長に褐色の肌で筋肉質な体格が目立つ。

 それが五十を超えている。

 後方には、ひと際身体が大きく、二本の隆起した角が目立つヤツがいた。

 きっと、それがこの群れのボスであろうとひと目で分かる。

 そんなオーガの群れに対して、俺は決して威圧的にはならない様に声を掛けた。

 「あーっ……俺の名前はカザマだ。ここから南の村から来た。俺たちはエルフの集落に用事がある。お前たちが、この先に向かう用件を教えてもらいたい。特に用事がないなら悪いが、引き返してくれないか……もし、先を進もうとするなら、力づくで言う事を聞いてもらう」

 決して威圧的にならない様に、尚且つ良く響く声で用件を伝える。

 俺の呼びかけに、オーガの群れは動きを止めた。

 しかし、それも僅かな時間だけである。

 彼らは威嚇の声というよりも獣の様な雄叫びを上げた。

 俺はどうしようもない状況を受け入れられず、顔を引き攣らせビアンカに尋ねる。

 「なあ……ビアンカ、オーガって言葉が分からないのか?」

 ビアンカは表情を変えず、瞳だけこちらに向ける。

 「さっき言ったばかりっすよ! 交渉は無理だと……」

 そして、オーガの先頭目掛けて駆け出してしまう。

 (返事をするだけの冷静さはあるようだが……)

 俺はオーガの返事を期待したが、どちらかといえばビアンカに、一息吐かせる方が狙いだった。

 毎日の様にビアンカと特訓して、その強さを知っている。

 だが、ビアンカが本気で戦っている姿を見た事がない。

 用心に越したことはないだろう……。

 ビアンカは、一瞬で先頭のオーガの間合いに入ると、膝蹴りで顔面を潰した。

 先頭のオーガが力なく後ろに傾く。

 ビアンカは宙を舞うというより、宙を駆けるかの様に、瞬時に移動している。

 そして、先頭のオーガが倒れる前に、隣のオーガに回し蹴りを浴びせた。

 先頭のオーガは後ろに倒れ、隣のオーガは地面に膝を着き前のめりに倒れる。

 俺は呆然と、その様子を眺めていた……。

 ビアンカは、既に五体のオーガを倒したが、一度も地面に着地していない。

 それどころから、益々動きが速くなっている。

 (確か、満月に近くなる程、興奮すると言ってたよな……俺って、必要ないんじゃ……)

 俺はビアンカの活躍で、完全に出遅れてしまう――。


 ビアンカが同様に蹴り技ばかりで十体を倒すと、

 「オオオオオオオオオオオオオオ――!!」

 群れのボスだろうオーガが、頭に響く様な咆哮を上げた。

 ボスの前にいたオーガたちが、道を開ける様に離れる。

 (嫌な予感がする……)

 勘の鋭いビアンカもてっきり気付いていると思ったが。

 ビアンカは全く無警戒に、ボスのオーガ目掛けて突っ込もうとしている。

 俺は大声でビアンカに叫ぶ。

 「ビアンカ、下がれ!! 一旦距離をとるんだ! 何かするつもりかもしれない!」

 ビアンカは加速させていた俊足を減速させる。

 一瞬硬直した様になり、耳が動いたが、再びボス目掛けて突進し始めた。

 その一瞬の間に、ボスのオーガが大きな左右の腕を棍棒でも振り回すかの様に、無造作に振るう。

 ボスのオーガを囲む様にカマイタチが起きて、周りの木が倒れていく。

 俺の破廉恥魔法の威力を上げて攻撃用にしたような感じである。

 もし、あのままビアンカが突っ込んでいたらと思うと、息を呑んだ。

 ビアンカは、その様子を覗っていたと思っていたが止まらない。

 カマイタチの合間を縫う様に、ボスのオーガとの距離を詰めた。

 俺は再び大声で指示を出す。

 「ダメだ! 強引過ぎるぞ! 距離をとるんだ!」

 今度は俺の声にビアンカは反応しない。

 ボスのオーガは突如、口から煙りの様なものを周囲へ吐いた。

 ビアンカは煙りの中に突っ込み、

 「うわああああああああああああ――!? 目が……」

 叫び声を上げると、両手で顔を押さえて足を止める。

 ボスのオーガはその隙を逃さず、大きなコブシでビアンカを思い切り殴り突けた。

 ビアンカの身体があっという間に数十メートルも吹き飛び、大きな木の幹に身体を打ち付けて止まる。

 「ビアンカー!?」

 俺は名前を叫びながらビアンカの元へ駆けつけた。

 ビアンカは気を失っているが、身体中から血を流して重傷の様に見える……。

 (ビアンカのことだから死ぬことはないだろう……だが、それでも……)

 俺は、ビアンカからボスのオーガへ視線を移した――。


 (四神と契約し末裔、陰陽師、風間正義……今、いにしえの盟約に従い汝を召還する。出でよ! 『白虎!』)


 以前、リヴァイを召還した様に、西方の守護獣である白虎を召還した。

 初めて召還したので、実際に見たのは当然初めてである。

 白虎は、その名の通り白い虎なのだが、普通の虎よりも牙が長い。

 何より身体の大きさが一般的な虎よりも明らかに大きかった。

 俺は恐ろしくも精悍な白虎に命じる。

 「早速で悪いが、ビアンカをオーガたちから守ってくれないか。俺はこれからボスを倒す」

 白虎にそう告げると背中を任せる様に、ボスのオーガに向かって一歩を踏み出した。

 「うむ、待て! 私が何から、何を守るというのだ」

 重く圧し掛かるような声が響く。

 俺はその声に神獣の威圧感を覚えつつ振り返る。

 神妙な面持ちで白虎を見つめ、苛立ちが芽生えた。

 白虎は初めて発した言葉で、いきなり俺の勇ましい歩みを止めたのだ。

 (こいつも契約がどうだとか言うつもりか? まあ、会話が成立しないよりはマシなのだろうが、少しは空気を読んで欲しい……)

 俺は溜息を吐くと、白虎に話し掛ける。

 「はーっ……契約は先祖がしたと、この前呼んだリヴァイが言っていた。だが、代価が欲しいのなら後にして欲しい。正直、今は忙しい」

 リヴァイの時は初めてで緊張したが、少し慣れたのかもしれない。

 しかし、それとは別に、今は本当に忙しいのだ。

 白虎との初めての会話を楽しんでいる余裕がない。

 白虎は先程の重圧的な声ではなく、静かに語りかける。

 「リヴァイというのは、貴様が最近契約した水の化身たる龍のことか?」

 不意に訊ねられて、俺は拳に顎を載せて首を傾げた。

 「契約が何のことか分からないが、この前世話になったお礼にご馳走して、今後も世話になる約束をしたが……」

 ベネチアーノでの出来事が思い出されるが、白虎は続けて話し続ける。

 「……そうか。ちなみに、貴様の先祖とは契約していないぞ。何度も頼まれて、話くらいは聞いてやろうと思ったら……寿命を迎えたようだ」

 俺は拳から顎がずり落ち、驚愕した。

 「はあーっ!? な、何、それ……初めて聞いたんだけど……」

 オーガに向けていた身体は、完全に白虎の方を向いている。

 オーガの事は、白虎の衝撃的な言葉で忘れてしまう。

 だが、いきなり後ろから攻撃的な気配を感じ、その存在を思い出す。

 咄嗟に振り返ろうとするが、白虎から凄まじい怒気が発せられる。

 「私の邪魔をするな!!」

 白虎の怒鳴り声は猛烈な勢いを発した。

 俺の隣を猛烈な衝撃波が過ぎり、ボスのオーガを直撃し吹き飛ばす。

 リヴァイが以前言っていた様に、白虎は気性が荒い……。

 それに、今の大声で先程から聞えている声は、実際に口から発声させている訳ではなく、頭に響いていると分かる。

 神獣の姿では、発声は出来ないのかもしれない。

 「あっ!? そういえばリヴァイが、実際に召還された事があるのは、自分だけだと言ってたな……しかも、当の本人は召還されたというより……何かの次いでの様な、そんな感じの言い方だった」

 俺は、ふと思ったことを口にする。

 白虎は俺の言葉を興味深そうに見つめている。

 「ほーっ……色々と良く分かっているではないか……うむ、契約はさておき、取り敢えず、今回は協力してやっても良い。但し、ここはシルフィードの縄張りだ。この問題をどうするかだが……」

 白虎の話を聞いて、急に脱力感に襲われた。

 (おいおい、こいつも他人の縄張りだからって遠慮するキャラなのか? まあ、全く制御の利かない暴れん坊よりはマシなのだろうが、リヴァイの言っていたイメージと違う気がする……)

 声を出さずに白虎に突っ込むと、今回の目的について声を出す。

 「今は、そのシルフィードの眷属のエルフ救出のために戦っている。だから、今回に限って言えば、問題ないと思うが……」

 俺の言葉を聞くと白虎は頷いた。

 「うむ、ならば良かろう! 私が貴様!? カザマだったか……力になろう。それで、さっきも言ったが、何から何を守れば良いのだ?」

 俺は白虎が何を言っているのか分からず、

 「はあーっ!?」

 素っ頓狂な声を上げると、そのまま硬直してしまう。

 獣の姿で表情は分からないが、白虎が困惑している様に見える。

 「うむ、貴様、先程から水を司るヤツに比べて……私への態度が不遜だぞ……な、何で、そんな可愛そうな者を見る目で、私を見つめる……」

 俺は頬を掻きながら思っていることを口にした。

 「別に俺は見下したりとか、そんな失礼なことは考えてない。見た目はリヴァイと比べて立派で紳士的な感じだし、強大な力も感じている……。ただ、その、少し空気が読めないのかな……? 俺が助けたいのは、ハーフウェアウルフのビアンカに決まっているのに……」

 途中からは言い辛くて、所々口篭ってしまう。

 そんな俺に、白虎は分かり難い表情から感情を消すように口を開く。

 「うむ、貴様が気に掛けている娘だが……意識が戻ったら、私と貴様以外はすべて破壊尽くすだろう……」

 俺は驚愕してビアンカに視線を移す。

 「はあーっ!? 何、言ってるんですか! ビアンカはどう見ても重傷で気を失っているじゃないですか?」

 白虎が何を言っているのか分からずに、思わず敬語で話してしまった。

 白虎は尚も言葉を繋ぎ、俺はその言葉に答える。

 「うむ、この娘は本来満月の夜に最大の力を発揮するようだが……私の見立てでは目覚めると……怒りで力が覚醒するようだ」

 「ビアンカは、今は眠っているだけということですか? こんなに酷い怪我をしているのに……」

 「うむ、この娘の怪我は、目覚めれば……あっという間に回復するだろう。そもそもこの娘の潜在的な能力のひとつに、超回復がある」

 「あの、出来れば詳しく……」

 俺は、白虎に頭を下げる。

 初めは俺が興奮していたこともあり、主従関係の形が取れていた感じであった。

 しかし、今はリヴァイの時と同様に、俺は頭を低くしてお願いしている。

 白虎は、リヴァイの様に偉ぶることなく淡々と話し始めた。

 「うむ、ウェアウルフの特徴は、月の満ち欠けによって気持ちが高まったり、下がったりとムラっ気がある。本来は常時発動が可能な能力も身体に掛かる負担からか……次第にセーブされる様になったと推測される。そこで、満月の時に開放される能力だが、先程も話した超回復。身体能力の向上、特にスピードだ! それから、私と同じ様に風を操ることが出来る。それでも、私程ではないが……」

 白虎の説明はとても分かり易く、尚且つ推測まで話してくれたのだ。

 (こいつは、リヴァイと違って、かなり賢いのかもしれない……)

 大分白虎のことを理解したと思ったが、今はビアンカのことに集中する。

 (ビアンカが力を解放すると、身体能力の向上で、特に速さが上がるって……更に速くなるのか? 超回復って言ったよな……あんな大怪我なのにすぐに治るってことか? 風を操ると言っていたが、風の魔法ではないということか? 白虎と同じ様なという事は、さっきの衝撃波の様なスキル的なことなのだろうか……)

 俺は虚空を見上げながら頭の中でイメージした。

 そして、意を決して白虎に尋ねる。

 「それで、俺はどうしたら良いでしょうか?」

 白虎は頷くと、少し間を取って攻略方法を話し出す。

 「うむ、そうだな……まずは、オーガの主の首に負の力を増幅させる宝石が下がっている。あれを奪え。そうすれば、主ならば話が出来るだろう。住処へ下がらせることだ」

 俺は説明を聞いて頷くと、

 (負の力を増幅させる宝石って、もしかして……!? 会話が可能なのか?)

 白虎からオーガのボスに視線を移した。

 「オーガの群れが引き返したら、娘を迎え撃ちたいところだが……今の貴様では、あっという間に身体を引き裂かれて終わるだろう……今のうちに止めを刺すのが得策だな」

 オーガのボスを見つめる俺に、白虎から信じられない言葉が告げられる。

 「……はっ!? そ、そんな事、出来る訳ないだろう! 俺がビアンカに……そんな事は、あり得ない!」

 白虎の青い瞳が一層冷たく感じたが。

 俺はその視線を遮るように、白虎を睨みつけて腕を振り怒鳴り衝けた。

 興奮する俺に、白虎は冷静に話を続ける。

 「うむ、少しは冷静になれ。それが得策だが……出来なければ、夜明けまで守りに徹しろ。貴様の攻撃はどうせ当たらないだろう……貴様は風の魔法を使えるか? 私の力で増幅する事が出来るが……」

 俺は怒りに震えていた身体を静めようとしていたが、顔を引き攣らせたまま口を開く。

 「お、脅かさないで下さいよ。俺は丁度守りに特化した風魔法を得意にしてます」

 「うむ、では早速オーガの主を……」

 俺は白虎の指示を途中まで聞くと、倒れているオーガのボスから、首に下がっている青色の宝石を奪った。

 (間違いない! これはヘーベの『憎』の感情の宝石だ。それにしても、憎の感情って物騒な……このまま何処かへ捨てた方が……!? 無くなったから、こんな騒ぎになったんだったな。全く世話の焼ける女神さまだな……)

 声に出せない独り言を心の中で呟きながら、オーガのボスの頬を叩く――。


 数回頬を叩くと、オーガのボスは目覚める。

 「確か、カザマと言ったな。今回は世話になった……。俺は、オーガ族の族長のブルーノだ。事の発端は……東の国の民が、俺に贈り物があると言って、やって来た。それが、その宝石がついたペンダントだったのだ。身体の大きな俺に合わせて紐が長くて、何より宝石を見ていると不思議な気持ちになり、力が溢れてくるようだった。俺は喜んでそれを身に着けた。――だが、理性が利かなくなってしまった。今回は、それで……近くにある、エルフの集落へ向かってしまった。仲間たちも傍にいて、不思議な力に当てられてしまったようだ。そこの娘には、悪いことをしたと反省している……」

 オーガの族長のブルーノはお礼と謝罪、侵攻の理由を簡単に説明してくれた。

 (身体も大きく、力も強いがオークより頭も良いかもしれない……。それより、東の国とは、一体……)

 俺はブルーノの話に頷くと、騒ぎの根源について訊ねる。

 「東の国とは、一体どこの国なのでしょう?」

 ブルーノは、軽く二メートルを超える巨体を屈めて、首を傾げる。

 「この国の隣だが、大国に囲まれる様に幾つもの小国がある。どこも同じ民族なので、具体的な国までは分からないが……今は、帝国と呼ばれていたか?」

 俺とブルーノがそんなやり取りをしていると、白虎が催促してきた。

 「うむ、貴様……そろそろ下がらせろ! あまり時間がないぞ!」

 ブルーノには聞えてないようなので、俺が頭を下げ丁寧にお願いする。

 「申し訳ないですが、詳しい話は後日にしてもらっていいですか? ここはすぐに戦場になります。皆さんは、急いで集落へ引き上げて欲しいのですが……」

 「分かった! カザマ、この礼は必ずさせてもらう」

 ブルーノはそう言うと、仲間たちに引き上げの指示を出す。

 他のオーガたちも言葉が分かるみたいだ――。

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