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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第九章 再びの下宿生活と幼馴染の来訪
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5.招かざる客

 午後からは青空教室でアウラとエドナに算術の勉強を教えている。

 最近は、エドナの幼馴染のマッコイとニコラスも毎日来るようになった。

 良い評判が流れているのか、他にも村の子供たちが、週に何回か入れ替わりで勉強に来る様になった。

 この様子に村の領主の娘であるカトレアさんは、とても嬉しそうな表情を見せている。

 いつもの様に子供たちに算術を教えていると、突然鳥肌が立ち悪寒に襲われた。

 「先生、どうしたんですか?」

 俺は急に顔から汗を噴き出し身体が震え、子供たちが心配しそうに見つめる。

 「ああ、ちょっと、先生はトイレに行きたくなって……悪いが、しばらく自分たちで勉強してくれないか……」

 俺は子供たちに心配を掛けまいと、足早にその場を離れようとしたが、聞き覚えのある声が響く。

 「先生、子供たちの前で逃げるなんて、格好悪くないですか?」

 俺は身体を硬直させ、森に向かって進める足を止める。

 そして、恐る恐る後ろを振り返った。

 「エ、エリカ……。レ、レベッカさんまで……」

 俺は顔が強張り言葉が上手く出せず、ゆっくり左手を上げる。

 「マー君、帰るわよ! 全く、何が先生よ……マー君のくせに……」

 エリカは足早に近づいて来て、俺の左手を掴んだ。

 「や、止めろー! 俺は帰らないからな! 俺は仲間たちと充実した生活を送っている。それに、今は子供たちに勉強を教えているところだ!」

 俺はエリカの手を振り払った。

 レベッカさんは周囲の視線を気にしてか、

 「エリカ、少し落ち着いて! 皆さんの前ですよ!」

 エリカに声を掛けて遮った。

 そこへ、みんなを代表するかの様にカトレアさんが口を開く。

「……なるほど。確かに、カザマと同じ黒い髪……!? あなたも瞳の色は青いのね?ですが、レベッカさん。少々礼儀に反してないかしら? いきなり現れて名乗りもしないで、本人の意思を無視して連れて行こうだなんて……」

 エリカはカトレアさんを睨みつけて反論する。

 「あなたには関係ないです! これは許婚同士の問題ですよ!」

 (この猪突猛進女め! 立場や恐れというものを知らないのか! いつもいつも俺に迷惑を掛けやがって……)

 俺はエリカとカトレアさんの一触即発な雰囲気に、顔だけでなく全身から汗が流れる。

 この極めて難しい局面で誰も動けずにいると、アリーシャが口を開いた。

 「まあ、二人とも落ち着いて下さい。カザマが困っていますよ。カザマと幼馴染のエリカ……ですか? 私はカザマと同じく、モーガン先生の弟子のアリーシャと言います。あなたの事は、カザマから聞いています。――率直に言いますが、カザマは迷惑してます。今日は出直して、帰ってくれませんか? 少なくとも先程からの言動は、カトレアさんの言う通り礼儀に反してます」

 アリーシャはエリカの強い眼差しにも怯まずに、みんなの前で筋の通った話をした。

 エリカは、何か言いたげに歯軋りをする。

 (俺はヘーベやアウラに言いたい。威風堂々とは、今のアリーシャの姿を言うんだ! それにしても、アリーシャはこの状況で一歩も怯まず本当に凄いやつだ……)

 俺は自分のことで騒動になっていることも忘れ、アリーシャの姿に見惚れていた――。

 

 エリカはアリーシャの姿を見つめたまま黙っていたが、

 「そ、そう、マー君が変わってしまったのは、あなたの所為みたいね。ふーん……まだ、中学生くらいにしか見えないけど……随分しっかりしてるみたいだし、きっと、後何年かすれば、かなりの美人になりそうね……」

 全身を震わせながら、声まで震わせて、精神的にかなり追い込まれている様に見える。

 エリカは、俺がアリーシャの姿に見惚れていたのを気にしたのだろうか……。

 「おい、エリカ、何か誤解してないか? アリーシャは年下だが、一応俺の姉弟子だぞ!」

 「マー君は黙ってて! 分かったわ! 私はアリーシャに決闘を申し込むわ!」

 エリカはそう言うと、アリーシャに向かって手袋を投げつけた。

 「お、お前……何てことを……!」

 俺は続く言葉が思いつかない程驚いてしまう。

 何で、手袋なんか持っているだという突っ込みも忘れる程。

 そこへ、今まで一体何処にいたのか、

 「そうはさせないっすよ!」

 ビアンカが突然森から現れるとアリーシャの前に立った。

 「私もあなたの好きにはさせないわ!」

 アウラもビアンカに続いて、アリーシャの前に立つ。

 (ど、どうして、こんなことになった……お、俺か? 俺が悪いのか……俺がはっきりしないから? いや、エリカには、ちゃんと断ったよな……)

 俺は、どうやって止めたら良いのか分からずに混乱する。

 俺の態度とは裏腹に、冷静にエリカの言葉を受け止めたアリーシャは、

 「いえ、ふたりともありがとう……でも、これは私が受けた決闘です。こうして手袋を投げつけられては……」

 自分の前に投げられた手袋を取ろうとしている。

 俺は自分でも驚いたが思いもしないセリフを吐き、

 「止めろー! それに触れるなー!」

 アリーシャが拾おうとしていた手袋を素早く掴み取った。


 しばらくの静寂の後、エリカが震えながら話し出す。

 「……な、何やってるの? マ、マー君……自分が何をしたのか、分かってるの?」

 エリカは先程までの怒りの衝動の様な震えから、驚きと絶望にも感じられる様な震えに変わっている。

 これまで大人しく静観していたカトレアさんは、

 「カザマ、それでこそ、私が認めた男だわ! あなたが受けたのだから、私たちの分もあなたがやりなさい!」

 やっと発言の機会を得られたかの様に、力強く俺に言い放つ。

 (ああああああああああ――!? 何だ、この状況は! どうして……こうなった。エリカと決闘、冗談だよな……)

 俺は、カトレアさんの方から再びエリカの方に視線を向けると、先程の驚愕していたエリカの姿はない。

 真っ直ぐに俺を見つめるツワモノの姿があった。

 俺は一息吐いて、佇まいを正す。

 (エリカとの勝負は何時以来だろうか? 一度も勝ったことはなかったな……但し、今回は違う……)

 「カトレアさん、演習場を使わせてもらいます。レベッカさんは立会人をお願いします。俺たちに中立的な立場の人は、他にいませんので……」

 カトレアさんとレベッカさんは頷き、俺たちは演習場に移動する――。

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