6.幼馴染との戦い
――演習場。
中央には俺とエリカが向き合っている。
「マー君、酷いじゃない……私、まるで悪者みたいだわ。みんなで寄って集って……本当に酷いわ……でも、ワクワクしてる。今回は、本気を出してくれるのでしょうね?」
エリカはいつもの甘えた様子から、段々口調が厳しくなり、顔から笑みが消えた。
「お、俺は、この前も言ったけど、お前が嫌いな訳ではないんだ。お前が、俺の気持ちを考えずに強引だから……」
「マー君、また、適当なことを言って誤魔化すつもりかしら?」
「い、いや、俺はそんなつもりじゃ……」
俺は身振り手振りで必死に気持ちを伝えようとした。
周りで俺の様子を見ていたみんなは、しばらく沈黙していたが……。
「何だか、カザマの様子を見ていたら、エリカを応援したくなってきたのは、私の気のせいかしら?」
「いいえ、アウラ、奇遇ね。私も同じ気持ちよ」
「わ、私もエリカに、結構厳しいことを言ったのですが……」
「アタシは別にどっちでもいいけど……カザマ、負けるかもしれないっす」
俺は離れた場所で観戦しているみんなから、酷い言われようをしている。
(みんな相変わらず酷くねぇ!? ビアンカ以外、エリカを応援し始めた気がする。それにしても、ビアンカの話はその通りかもしれないな……)
俺は向かい合って、初めてエリカの力量が分かった気がした。
(日本にいた時よりも、段違いに強くなってる……)
決闘が始まる前に、レベッカさんが話し始める。
「念のために言っておくわね。カザマとエリカのレベルだけど……カザマが『レベルⅣ』。そして、エリカが『レベルⅥ』よ! カザマのレベルアップも通常より遥かに早いけど……エリカは、兄さんに次ぐ二番目の速さでレベルⅥになったわ」
レベッカさんの説明に、俺は返す言葉も出ずに口を開けたまま見つめた。
エリカは自分の左手首のブレスレットをチラつかせて、俺の様子を見て嬉しそうに微笑んでいる。
先程までの緊張した表情が嘘のように……。
「私、マー君がこの世界に来た次の日から、ヘーベに呼ばれたけど……ずっとマー君に喜んでもらおうと思って、頑張ってたんだから……」
「エリカも私が担当しているのだけど、エリカは大陸西側の国の沿岸付近で、海賊や魔物の討伐をしていたわ。その際に、クラーケンを独りで討伐してレベルⅥまで上がったのよ」
俺はエリカのいつもの様な表情と話し声に少しずつ落ち着き、レベッカさんの解説も頭の中で整理した。
「ちょっと待って下さい! エリカが、俺が召還された次の日に、この世界に来たってどういうことですか? 大陸の西側の国で海賊や魔物の討伐って……何ですか? クラーケンを独りで討伐って……俺より冒険者らしいことをしてるじゃないですか! レベルⅥって、何ですか? 兄さんの次にって……グラッドって、そんなに凄い冒険者だったんですか?」
そして、俺は疑問に思ったことを訊ねたが、段々興奮して僻みっぽくなってしまう。
興奮する俺に、レベッカさんは困惑した様に顔を歪めたが、
「カザマ、ちょっと落ち着いて! そんなに一度に言われても困るわ。幼馴染に……しかも女の子に、これだけ冒険者として離されたのだから、悔しい気持ちは分かるけど……」
赤い瞳を細め頷きながら、そっと俺の肩に手を置いた。
まるで可哀相な人を見るように……。
「違――う!! 俺が思っているのは、そんなことじゃない! レベッカさん! 俺の質問に、真面目に答えて下さいよ!」
俺は肩に置かれている手を跳ね除け、レベッカさんを怒鳴り突ける。
レベッカさんは怪訝な表情を浮かべ、俺を見つめた。
「急にどうしたの? 何か、凄く感じ悪いわよ……」
少し離れた所にいた仲間たちの雰囲気が変わる。
「あなたは、何も悪くないわ! カザマは、急に情緒不安定になることがあるわ!」
「レベッカさん、気をつけて頂戴! 大体、この後でカザマが破廉恥な事をするから!」
アウラとカトレアさんが、レベッカさんに俺の悪口を言い始めた。
しかも二人とも、当然の事だと言わんばかりの表情をしている。
アリーシャは黙って首を左右に振り、ビアンカは退屈そうに欠伸をしていた。
「マ、マー君? やっぱりこの国に来てから変よ……何かあったの? どこか調子が悪いところでもあるの……」
エリカは心配そうに俺を見つめるが、これから決闘するのが嘘のように。
俺は、みんなの話に身体を震わせ黙って聞いていたが……。
「……ご、ごめんなさい。少し調子に乗っていました……反省しましたので、レベッカさん、どうか俺の質問に答えて下さい」
俺は頭を下げて詫びると、そのままお願いした。
(俺は悪くないのに……)
レベッカさんは口元を引き攣らせていたが、
「……そ、そう、やっぱり、ショックだったのね。そんなに知りたいのなら……エリカ、話してもいいわね?」
エリカが頷いたのを見ると、顔を引き締めて話し始めた。
「まず、エリカの装備だけど、カザマが以前の世界で使っていたものをエリカ用に改良されたものだと聞いたわ。初心者にしては、かなりの高級装備だったので訊ねたのよ。カザマの装備は、すべて教会を管理されている方が用意されたみたいだけど……何か理由があるのかもね。――話を戻すと、エリカが西側に行ったのはカザマとは違い、強くなる事だけを望んだからよ。カザマは違うわよね? クラーケンを討伐出来たのは、エリカもカザマと同様に、血筋による資質があったからだと聞いているわ。――レベルの話だけど、レベルはⅤから上級者になるけど、『レベルⅥ』に至る者はほとんどいないわ。エリカくらいの実績を残せば別だけど……。それから、レベルⅦからは未知の領域で、それぞれの功績や資質によって通り名が付けられると聞いたけど……『英雄』なのかしら? そもそもそこに至るには、御伽噺に出てくる様なモンスターを討伐でもしない限りは無理でしょうね。兄さんも、だからレベルⅥ止まりよ。これくらいでいいかしら?」
俺は、レベッカさんの長い話を食い入る様に見つめ唖然とした――。
そして、俺はエリカを見つめる。
「つまり、エリカも俺と同じ様に、何か特別な家系の子孫って訳か……」
エリカは驚きの声を上げた。
「はあーっ!? 何よ、今更……もしかして、マー君は何も知らなかったの? そんなの幾ら私たちが愛し合っていても、それなりの理由がなければ、許婚になる訳がないでしょう……」
エリカは、驚きの感情から怒りが合わさった様な勢いを発している。
戸惑った俺は返事に困ったが、
「あっ!? そ、そうだよな……!? 愛し合ってはいないだろう! それより俺は、何で今まで、気づかなかったんだろう……」
エリカがさり気なく嘘を言ったので、そこだけは強く否定した。
エリカは俺の突っ込みにも動じずに、柳眉を寄せる。
「もう、しっかりしてよね……私の苗字は『宮本』よ……幾ら何でも分かったでしょう」
「み、宮本って……『武蔵』の子孫なのか?」
俺は御伽噺でも聞くかのように、またもエリカに唖然とさせられた。
「そういうことよ……でも、それだけじゃないのよ。マー君も忍者の子孫って……だけじゃないわよね? それ以上は、お互いに結婚してから……という話になってるのよ。分かってくれたかしら? はーっ……」
エリカは俺の疑問に説教染みた様に答えると、何故、今更と言わんばかりに溜息を吐く。
離れた場所から観戦していた仲間たちは、黙って俺たちの話を聞いていたが……。
「カザマ、貴方……あまりに不誠実だわ。貴方の話を鵜呑みにした私も悪いけど……話を聞いたら、エリカが気の毒になってきたわ」
「私もカザマがあまりに子供みたいで、何だか……」
カトレアさんとアリーシャは、俺に対して失望したのだろうか、エリカに同情的な様子を窺わせる。
「私も話していることが、イマイチ分からなかったけど……カザマは相変わらずだと思うわ!」
アウラも同じ様な事を言おうとしたみたいだが、どことなくズレているはいつも通りだろう。
ビアンカは相変わらず興味がなそうだった――。




