4.帰還
ビアンカが、御者台の上からヘーベルタニアの街を指差す。
俺は、ジャスティスとカレッジを改めて名馬だと感じている。
決して速く走らせている訳ではない。
自然に走らせても足取りが軽く、予定より早く村へ戻れそうだ。
まずは、みんなを送るために村へ向かう。
――オルコット村。
村に入ると、カトレアさんを初めに送ろうとしていたが。
荷物があるからとカトレアさんの指示があり、初めにエドナを家に送った。
家の前では、エドナの両親が恐縮して頭を下げている。
その姿を見て、久々に村に戻った実感が湧く。
次は位置的にモーガン先生の家だが、カトレアさんを先に送った。
カトレアさんの立場を考慮してと思われたが、実際はジャスティスを街へ帰るまで休ませたいと思ったからだ。
カトレアさんを屋敷へ送り、ジャスティスを厩舎へ預けるとモーゼスさんに会った。
モーゼスさんにお金を返そうとしたが、残りは手間賃にと言われるも断って返す――。
俺はアリーシャとアウラの荷物を持ち、初めてこの四にんで村の中を歩いている。
「なあ、楽しかったか?」
俺はビアンカの顔を見ながら尋ねた。
「うー……楽しかったっす! あんなに色々な事があるとは、思ってなかったす……」
ビアンカは空を見上げ唸り声を上げると、満面の笑みを浮かべて答える。
色々と旅先での出来事を振り返っていたのだろう。
確かに、あんなにたくさんの出来事に遭遇するとは思わなかった。
取り敢えず、今回旅に誘って良かったと安堵する。
「今度は、ここにもみんなで来ようぜ! ビアンカがいるとアウラが安心出来るだろうし、アリーシャも喜んでくれるぞ!」
俺はみんなの顔を見ながら言ったが、三にんとも何故か顔を逸らして何も答えなかった。
――モーガン邸。
モーガン先生に旅行から帰った報告とお土産を渡すため、みんなで話しながら待つことにした。
「なあ、アウラの集落って遠いのか? 北はゴブリーノ族やオーク族の集落までしか行ったことないが、今度遊びに行っても良いか?」
俺は今回の旅も踏まえ、退屈しのぎのつもりで話を切り出す。
「えっ!? 私の家に……カザマが?」
アウラは頬を赤くすると俺の顔を見つめ、続く言葉が出ないでいる。
「そ、そんなに驚くことか? ビアンカも遊びに行ったことがあるんだろう?」
俺は小首を傾げたが、ビアンカとアリーシャが話に便乗した。
「アタシの場合は道に迷って、偶然たどり着いただけっすよ」
「そうでしたね。アウラの森はエルフの結界で守られていて、普通には入れないのでしたよね?」
「アリーシャは良く知っているわね……懐かしいわ。ビアンカが迷い込んで来た時は、本当に驚いたのよ! でも、そのお陰でみんなと知り合って、色々な経験をしたわ」
この三にんは、いつもこんな感じで話をしているのだろうか。
初めに話を振ったのは俺だが、忘れられていても心地良かった。
「だから、今回の旅行みたいに、みんなで遊びに行ったら楽しいかなと思って……」
俺は雰囲気が良くなったタイミングに、さり気なく話を振った。
「そ、そうね。一度、家族と集落のみんなに相談しないと……私は嬉しいけど……」
アウラが頬を赤くしながら話しているのを見て、
「アウラ、何赤くなってるんすか? 最近色気付いて、すぐに乙女モードになるっすよね……」
ビアンカが口端を吊り上げ突っ込みを入れた。
ビアンカが人の話に絡んで来るのを、以前はあまり見なかった。
でも、最近はたまに見かける。
だが俺は、それよりも気になっていることがあった……。
(これが、ガールズトークってやつか? 俺は上手く会話に交ざってるよな……)
得もいえぬ、世界観に戸惑いを覚えた。
しばらくして、モーガン先生が帰ってきた。
「おう、二人とも意外と長かったではないか。楽しんできたか? ビアンカは……」
モーガン先生は双眸を細めると、俺たちの顔を見渡してビアンカで止まる。
森から出たことないビアンカが心配だったのだろう。
「はいっす! お土産も持ってきったすよ!」
ビアンカは満面の笑みを湛えて元気な声で答えると、お土産を渡した。
普通の石にしか見えなかったが、岬で拾ったらしい……。
アリーシャも続いて何かの紙袋を渡したが、ベネチアーノの名産品だろうか。
最後に俺はユカタを渡して着付けも教えた。
「これは、変わった服だな……これが、ボルーノで名物になるのか?」
モーガン先生は怪訝な表情を浮かべていたが、俺はユカタについて説明する。
「はい、行きで店の人に教えましたが……帰りには、結構売れていると言ってました」
俺の説明を聞くと、先生は顔を引き攣らせた。
「カザマ、お前は冒険者ではなく……商売の方が向いてないか?」
冗談か本気か定かではないが、俺は目尻を吊り上げ身体を震わせる。
「ほっといて下さいよ! 俺もたまに思ってますから……」
「「「「あはははははははははははは……」」」」
皆から一斉に笑われたが、みんなも同じ様なことを思っていたのだろうか――。
それから、カトレアさんの屋敷に向かった。
屋敷に着くと、モーゼスさんに挨拶をして、ジャスティスのいる厩舎の方へ向かう。
先程送ったばかりなので、カトレアさんへの挨拶は不要だと思った。
厩舎でジャスティスに騎乗すると、ジャスティスは旅の疲れも感じさせず、街に向かって風の様に駆ける。
――ヘーベルタニアの街。
俺はジャスティスを厩舎に預けて、ギルドへ向かった。
以前かなり叱られたのを忘れず、今回はレベッカさんへの報告を先に済ませることにしたのだ。
レベッカさんをカウンターの席に呼ぶと、ボルーノで購入したユカタを渡した。
「どうも、今戻ってきました。これはつまらない物ですが……それから、お兄さんにも渡して下さい。酒場で渡すのは照れくさいので……」
「……いいの? ありがとう。兄さんにも渡しておくわね……ところで、これはどうやって着るの?」
レベッカさんは赤い瞳を見開き驚いた表情を見せたが、小首を傾げる。
俺は尤もだと思い、簡単に説明するが……。
「やっぱり、分かりませんよね? 俺の国の服でユカタというのですが、ボルーノ街で名物になりつつあるみたいです。着方を教えたいのですが……ここでは何ですので教会で教えましょうか?」
実際に着た方が分かり易いだろうと話を進めた。
「そうね……分かったわ。夕方、教会に伺うことにするわ」
小さく笑みを浮かべるレベッカさんに、頃合いだとばかりに背筋を伸ばし語り出す。
「はい、それで、今回の依頼ですが、マーメイドはアナスタシアさんという名前です。今まで人を襲ったことはないそうですが……ちょっとした手違いで、喧嘩になってしまいました。でも、その後は色々と話をして、親しくなりました。ベネチアーノのギルドでも報告しましたが、人間には無害です! それから、気になることがありました。ボルーノの街で、他国の者らしい賊と遭遇して、交戦となり捕縛しました。宿の露天風呂の外でしたので、宿の人に引き渡しましたが……」
レベッカさんの顔からは笑みが消え、赤い瞳を細めている。
「そうですか……ご苦労さま。他国の賊のことは、こちらで処理するわね。それでは、今回は調査だけでなく、賊の捕縛も対象になるわね。報酬は諸経費も考えて、後からの支払いになるわよ」
レベッカさんは話を聞きながら、時折り視線を下げ俺のクリスタルを確認していた。
(昨晩アリーシャに聞かなかったら、うっかり口が滑ったかもしれない……)
俺はレベッカさんに返事をすると、教会に向かう。




