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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第八章 水の街ベネチアーノ(後編)
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3.約束と注意

 ――食堂。

 既に宿の中は暗くなっており、厨房と食堂には誰もいない。

 俺はフロントにお願いして、厨房を借りた。

 厨房のおじさんと仲良くなったため、手間は掛からない。

 すぐに厨房でプリンを作り始めたが、小腹も空いていたのでホットケーキも作った。

 プリンは固まるのに時間が掛かるので、氷の魔法を上手く使って冷やす。

 「プリンは固まるのに少し時間が掛かるから、まずはホットケーキを食べて下さい」

 お姉さんとリヴァイがいるので、一応敬語で話した。

 初めは未知の相手に警戒していたビアンカも慣れてしまったのか、尻尾を振りながら食べ始める。

 ビアンカの様子を見て、お姉さんは真似をする様に食べ始めた。

 リヴァイは目を細めて、ビアンカとお姉さんを見つめている。

 「お、美味しい! な、何これ!? 不思議な甘さが重なっているわ!」

 お姉さんは上品に手を口に当てて、驚きの声を上げた。

 その様子を見て、リヴァイがホットケーキに口をつける。

 「おっ!? う、美味いじゃないか! 何で、こんな平凡なものが……」

 リヴァイは初め、ホットケーキを見下すように見つめていた。

 だが、その分余計に、驚きが大きかったようだ。

 「俺の世界の事に詳しそうでしたので、てっきり知っていると思ってました。初めて食べましたか?」

 リヴァイは驚かされて悔しかったのか、子供の姿で奥歯を噛み締めていたが、口を開く。

 「……お、お前の世界に興味はないし……大体、肉じゃないだろう! 俺が食べたことないのが、寧ろ当たり前だろう!」

 「確かにそうですね……それで、まだプリンもありますが……気に入ってもらえましたか?」

 坦々と話し続けているが、リヴァイが最強のドラゴンという事をすっかり忘れている。

 可愛い容姿の子供が、素直に慣れずに反抗的な態度を取っているかのように、微笑ましく感じていた。

 リヴァイは言葉を詰まらせるが、そのままホットケーキを食べ続ける。

 「ま、まあー……まずまずだな……」

 俺はお姉さんの方へ視線を移した。

 「ところで、お姉さんの名前を教えて欲しいのですが……」

 「は、はいっ!? あっ、私のこと? 私は、アナスタシアよ」

 お姉さんは無心に食べている最中に、突然名前を尋ねられて驚いたようだ。

 「これからの事ですが、俺たちはヘーベルタニアの街とオルコット村へ帰ります。これから用事があったら、冒険者ギルドで俺宛に連絡するか、リヴァイに頼んで連絡して下さい」

 俺の言葉に、頬を緩めて食事をしていたリヴァイが反応する。

 「お、おい!? 何で、俺の名前が出てくるんだ!」

 リヴァイの反応を待っていたかの様に、口端を吊り上げた。

 「いえ……でも、お願い事の代価は、今……食べてるじゃないですか? 俺の今回の代価は、これから出すプリンですよ」

 「お、お前は……本当にくだらない事ばかり――」

 リヴァイは身体を震わせるが、しばらくして何事もなかったかの様に食べ始めた。

 「カザマ、色々とありがとう! カザマと出会ったのは偶然だったけど……まさか、リヴァイさまの庇護を得られるとは……」

 アナスタシアさんが歓喜に震え、俺は苦笑した。

 「はっ!? ……だから、何で俺が……」

 リヴァイは、みんなから期待の眼差しで見つめられると、途中まで言い掛けた言葉を濁す。

 (この子供は態度がデカイ割りに、色々と周りに気遣いが出来るようだ。それに、意外と話しが分かる……頭は、あまり賢くないようだが……)

 俺はリヴァイの評価を上方修正して、良い機会なので色々と質問することにした。

 「あのー……他の四神について、知っていたら教えて欲しいのですが……」

 リヴァイは眉を寄せて不機嫌な様相を見せるが、渋々ながらも説明を始める。

 「だ、だから、何で俺がそんなことを……南は燃えてる鳥だったぞ。食ったら美味いかなと思ったが、燃えてるものを食べる気にならなくて……ちなみに、あれを呼ぶ時は注意しろよ! 呼んだら勝手に、南に向かって飛んで行くから……」

 「えっ!? 朱雀って、フェニックスですか? 勝手に飛んで行くって……もしかして、知性がないのでしょうか?」

 俺は話しに食い付いたが、リヴァイの説明は続けられた。

 「次は、西側のヤツな……獅子の様な獣だが、幻獣で食えない。風を操るということでは、シルフィードに似てるが……気性が荒かった気がする」

 「それは白虎ですよね! 本当に居たんだ……でも、言うことを聞いてくれないのでは、呼ぶ機会が……」

 「最後は北のヤツ……亀だ。大きくて硬いだけだ……」

 「最後は玄武ですよね……微妙ですね。でも、流石です! 他の四神とも知り合いだなんて……」

 リヴァイは、俺が喜んで感想を言っているのを聞き流して、簡単に他の神獣たちの事を説明してくれた。

 「お前、さっきから何でこんなことを聞くんだ? 他のヤツが、どんな契約をしたか知らんが、実際に呼ばれたことがあるのは、オレだけだぞ……」

 リヴァイの聞き捨てならない言葉に驚愕したが、何とか言葉を繋ぐ。

 「……はあーっ!? ……じ、じゃあ……契約した意味がないじゃないですか? それに、リヴァイは、何で他の四神のことを知ってるんですか?」

 俺に突っ込まれるとリヴァイは愛らしい容姿で腕を組み、眉を寄せる。

 「オレに意味とか聞かれても……お前の先祖に、召還する力がなかったんじゃないか? ちなみに他のヤツのことは、オレがお前の世界に遊びに行った時に調べただけだ」

 リヴァイは、それ以上何も言わなかった。

 本当にただ知ってるだけで、交流がある訳ではないようだ。

 「……カザマはさっきから、リヴァイさまと何を話しているの? 俺の世界とか言っていたけど……」

 先程から静かにしていたアウラが頬を薄っすら染めて、そわそわしている。

 「あっ!? アウラが、不思議に思うのも無理ないな……何せ、俺の国の御伽噺をしていたからな。リヴァイは、色々と物知りだから教えてもらったんだよ」

 どうせ分からないだろうと思い、御伽話ということにして誤魔化した。

 「お前、口だけは達者だな……」

 (あんたもイチイチ一言多いぞ! このお子様は、何かとケチをつけて……)

 俺はイラついている表情を悟られないように、プリンを取りに行くと言って席を離れた――。

 

 しばらくして厨房から戻った俺は、プリンをそれぞれの席の前に置く。

 真っ先に食べ出したのはビアンカで、先程から食べるのに夢中で全く話してない。

 それを見て、アナスタシアさんとアウラも食べ始める。

 リヴァイは意固地になっているみたいだったが、みんなが美味しそうに食べる姿を見て手が動く。

 「う、美味い! 何だ……これは! 口の中で溶けていくようだ……」

 リヴァイは一度手を止めて、味を確かめる様に頷くと、感想を口にした。

 「どうですか? 満足してもらえましたか…」

 「まあ、今回は初めてだったからな。これで対価ということにしておこう……また、作る機会があれば呼んでくれても良いぞ……!? そうだ! 一応警戒して、この姿にしたが……もう少し様子を見なければならない。この街より西側には近づけないな……」

 リヴァイは相当他のドラゴンを気にしているのか、突然弱気な態度を見せる。

 「では、リヴァイを呼ぶ時は、当分この街より東側ということになりますね。何だか、東方を守護する蒼龍らしいですね」

 「もう勝手にしれくれ……それから、そこの娘には、一応約束だから渡しておく……」

 リヴァイは俺とのやり取りに素っ気無く答えると、アナスタシアさんに鱗のペンダントを恥かしそうに渡した。

 「あ、ありがとうございます。これからよろしくお願いします……」

 アナスタシアさんが興奮してお礼を言うと、リヴァイは顔を背けて恥ずかしそうに、席を立つ。

 「それでは、私も帰りますね。カザマ、色々とありがとう……」

 お姉さんは別れの挨拶に握手でなくて、俺に抱擁と頬にキスをしてくれた。

 俺は気が緩んで鼻の下を伸ばしていたのか……。

 隣に座っていたアウラが頬を膨らませると、俺の腰辺りを抓ってきた。

 俺は顔を歪めるが我慢する。


 ――ベネチアーノ滞在十一日目(異世界生活一ヶ月と十一日目)

 朝食の席で、昨晩同行しなかった三人に、依頼を果たしたことを説明した。

 すると三人とも驚愕し、特にカトレアさんは硬直したまま動かなくなる……。

 結局、今回の依頼は、俺がほとんど独りで行った。

 結果的には無事に解決したが、みんな忘れていたのかもしれない。


 今日は、今回の旅行の最終日となった。

 俺は取り敢えず、ギルドに報告してからみんなと合流する予定である。

 アナスタシアさんの立場を考えて、ヘーベの教会の関係者になったことにした。

 勿論、これまで人間を襲ったことがないことも説明する――。

 俺がみんなと合流すると、いきなりカトレアさんに右腕を組まれた。

 ただでさえ注目を浴びているのに、周囲の視線が俺に集中する。

 アウラは周りの視線に絶えられなかったのか、俺の左腕に隠れるように抱き着き、離れない。

 余計に目立つと思うが、意見が言える雰囲気ではない。

 アリーシャの視線が痛い。

 今までは喜ぶ状況だったが、何だか身柄を拘束されて護送されているみたいだ。

 ずっと緊張したまま、最後の一日が終わってしまう。


 ――夕食後。

 アリーシャが俺の部屋を訪ねてきた。

 「べ、別に……今日は、俺が悪い訳じゃなくて、ヘラヘラしていた訳じゃないぞ……」

 アリーシャはいつも通り、俺のベッドの脇に一緒に座っているが話そうとしない。

 俺はこの緊張感に耐えられずにいた。

 「はーっ……私は昼間の事を聞きたいのではありません。これまで毎晩会っていたのが、マーメイドだったことも驚きました。ですが、海に引き摺り込まれて、どうやって助かったのですか? それから敵意を持っていたマーメイド……アナスタシアですか? 彼女が、どうして友好的になったか知りたいのです!」

 (アリーシャは、本当に賢いヤツだ……だが、何て説明しよう……)

 「親切なヒトに助けられて、成り行きで親しくなったんだ……」

 と適当に朝説明したが、アリーシャには通じない。

 アリーシャは眉を寄せ、愛らしい瞳を無理やり細め睨みつける。

 「……もう、アウラとビアンカには知られてしまったからな……。ここだけの話ということで、内密にして欲しい。実は、俺の先祖が契約したドラゴンを魔法で召還した。その……俺も初めてだったから、色々と混乱したんだ……。それで、そのドラゴンは名前がなくて、リヴァイと名付けたんだ。知り合いのドラゴンが、この近辺を縄張りにしているそうだ。あまり、そのドラゴンを刺激するとマズイみたいで……秘密にする様に言われたんだ。アナスタシアさんはリヴァイの姿を見たら、庇護して欲しいと頼んで来て、円満に解決した訳だ」

 アリーシャは、俺の顔を見つめたまま口を開け締めして呆然としていたが……。

 「……はあーっ!? 開いた口が塞がらないとは、こういう事を言うのですね! カザマは一晩で、色々と……ドラゴンを召還するだけでも信じられないのですが……名前を付けたなんて……。初めて会った頃なら、信じませんでしたよ!」

 (アリーシャ、顔が近い! ツ、ツバが飛んで……でも、嫌じゃないな……)

 アリーシャは余程興奮したのか、隣に並んで座っているのに、更に顔を近づけて叫んだ。

 「俺も、まさかこんな展開になるとは想像もしてなくて……こんなこと、自分から他人に話せないだろう? アリーシャには、聞かれたから話したが……」

 口を濁す俺に、アリーシャは目を閉じて頷いた。

 「カザマが言おうとしている事は分かります。そもそも話したところで、普通の人は信じてくれないでしょうから……確か、ギルドのクリスタルも戦闘してなければ分からないのでしたね?」

 「!? 良く知ってるな! た、確かに、アナスタシアさんとの戦闘した経歴はあるが……リヴァイに関しては、何もないな……」

 俺は慌ててクリスタルを見ると、アリーシャの機転で思わぬことに気づく。

 (モーガン先生に、初めて説明を受けた時に注意を受けたが、ギルドのクリスタルは恐ろしいアイテムだ……何でも筒抜けじゃないか! アナスタシアさんと戦闘になったことは、何か言い訳を考えておかないと……)

 その後、アリーシャは自分たちの部屋に戻ったが、俺はそんなことを考えつつ眠りについた。


 ――異世界生活一ヶ月と十二日目。

 朝食を済ませると、みんなでゴンドラに乗り厩舎の方へ向かう。

 ベネチアーノには、十一日間も宿泊して色々なことがあった。

 俺はゴンドラに揺られながら思い耽る。

 厩舎に着くとジャスティスとカレッジを馬車に繋ぐ。

 一応、毎朝様子を見に来ていたが、二頭とも元気そうだ。

 みんなを馬車に乗せて、御者台に乗るとヘーベルタニアへ向けて馬車を走らせた。

 久々に活躍の機会を得て、二頭とも気持ち良く走ってくれる。

 隣にはビアンカが座り、行きと同様に周りの景色を楽しみながら世間話をした。

 

 ――ボルーノの街。

 途中で街に寄って一泊する。

 俺は、以前ユカタを購入した店に行った。

 そこでヘーベとレベッカさん、グラッドとモーガン先生の分のユカタを購入してお土産にする。

 その時、何となくリヴァイの分も買った。

 実際に着る機会があるとは思えなかったが、この世界に来て初めて出来た弟キャラの様な親しみがある。

 実際には、ドラゴンだが……。

 俺が出会った男たちは、何故か年上ばかりだったからかもしれない。

 露天風呂も帰りは、ゆっくり入るとことが出来た。

 以前のトラブル続きが、嘘の様であった。

 明日は久々に、始まりの街であるヘーベルタニアに戻る――。

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