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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第六章 水の街へ向かう
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3.冒険者とは

 ――冒険者ギルド。

 デスクワークをしているレベッカさんを見つけ声を掛けた。

 「久しぶりね……破廉恥クン?」

 レベッカさんは虫でも見るかのように、赤い瞳を細めて俺に向ける。

 俺は首筋から汗を掻き、悪寒を覚えつつも懸命にレベッカさんを宥める。

 「い、いやですね……あなたのお兄さんの友人で、あなたが担当している冒険者のカザマですよ。こんな公衆の面前で、そういう冗談を言ってはダメですよ」

 「ごめんなさいね、最近忙しくて……出会ってから少ししか経っていない上に、なかなか報奨金を受け取りに来ない冒険者さんの事は忘れてしまって……」

 レベッカさんの視線が尚も冷たく、意地悪な言い回しが続く。

 「もう、このくらいで勘弁して頂けないでしょうか? これからはマメに顔を出しますから……俺も、その色々と忙しくて……」

 「そうね、明日からは女の子たちと一緒に旅行ですものね。私は忙しくて行けないわ……」

 今日はいつも以上に絡んでくるので、前回の事を根に持っているのかと思ったが、旅行が羨ましかったのだろうか。

 俺は兎に角、話題を変えなければならないと、顔を引き攣らせながらも笑みを浮かべ、話を繋ぐ。

 「旅行の事はお兄さんから聞いたんですか? マーメイドの歌や魅了のスキルに気をつける様にアドバイスをもらいました」

 「そ、そうね。本当なら私がアドバイスしたかったのだけど……」

 「い、いやー、素晴らしいお兄さんですよね。いつも本当にお世話になってます。それで、レベッカさんにお願いがあるのですが……」

 先程から機嫌の悪いレベッカさんの顔色を伺いながら、巧みに話をはぐらかしていたが、ここで表情を引き締める。

 「あら? 急に何かしら? 私でも役に立てる事があるのかしら?」

 「俺がお世話になっている教会のヘーベですが……俺が留守の間、様子を見てもらえませんか? しっかり者のレベッカさんが、ヘーベの面倒を見てくれると安心して依頼を果たせます」

 「そ、そう、お世話になっているヘーベさんを気に掛けるとは、殊勝な心掛けね。それから、冒険者としての責務を果たそうとする姿勢も好ましいわね……いいわ。最近かなり浮かれていたみたいだけど、今回は大目に見ることにするわ」

 今日のレベッカさんは、どうしてこんなに態度が尊大で意地悪なのか分からなかったが、兎に角許してくれるらしい。

 俺は安堵して緊張が解けたせいか、身体が弛緩する。

 レベッカさんは報奨金が入っている袋を手渡そうとして途中で手を止めた。

 「今度もまだ被害届けは出ていないけど、一応ギルドからクエスト扱いにしてもらったわ……次は遅くならない内に、報奨金を受け取りに来てね」

 そう言うと、途中で止めていた手を伸ばし、袋を渡してくれた。

 「ありがとうございます。色々とスミマセンでした」

 何が悪いのかイマイチ分からなかったが、レベッカさんも色々とストレスが溜まっているのか、それとも女性特有の現象なのか……などと想像した。


 ――教会。

 教会に戻ると、早速ヘーベに訊ねた。

 「あのー……どうしてレベッカさんは、あんなに不機嫌だったのか分かりますか?」

 「あらっ、そんなに怒っていたの?」

 ヘーベは掌を頬に添え、首を傾げている。

 「ヘーベも知らないのですか……」

 「えっ!? カザマが留守の時に、レベッカさんが訪ねて来たことがあったわね……最近、全然顔を見ないとボヤイテいたから、カザマの近況を教えてあげたのだけど……」

 俺は一気に顔が熱り、久々に右の拳に力が入り掛けた。

 「また、あなたの仕業ですか……。最近は明るくて余計なこともしないし、本当に変わったなと思っていたのですが、またですか……」

 怒ってはいけないと思いつつも、嘗てヘーベと出会った頃の記憶が脳裏を過ぎる。

 「えっ!? どうしたのかしら? カザマ、急に顔を赤くして震えて……どうかしたの? 私は、色々と多忙にしているカザマの代わりに、近況を知らせたのだけど……お礼なら別に要らないわ」

 「はーっ……別にもう良いですよ。確かに、最近ギルドに顔を出さなかった俺が悪いですから……」

 以前の様にヘーベの頭を引っ叩こうかと、心が揺れた。

 だが、成長したヘーベを叱りつける事が出来ない。

 怒りを抑えるために深呼吸をして、諦めにも取れる様な言葉を溢してしまったのだ。

 俺は無言で自分の部屋に戻った――。

 

 夕食の前のお祈りでは、既に落ち着いている。

 しかし、ヘーベはそわそわして、ちらちら視線を移すと口を開いた。

 「カザマが旅行から帰ったら、誕生日プレゼントを渡すから……」

 小さく笑みを溢し、俺に伝えた。

 (笑顔はとても可愛いですが、どうか余計なことはしませんように……)

 その後、お互いに特に話す事もなく食事を終えた。

 部屋に戻って、報奨金の事を思い出す。

 袋からお金を出すと、五十万ゴールド入っていた。

 前回と同じで、何とも微妙な金額である。


 ――酒場。

 今日も俺とグラッドは肩を並べるようにカウンター席でソーダ水を飲んでいた。

 相変わらずこのソーダ水は、微妙に酸味を感じる程度のノンアルコール水だが、心地よい気持ちにさせてくれる。

 「お前は、またヘーベちゃんに手を上げようとしたのか? お前、結婚したら暴力亭主になるなよ」

 「だって、またヘーベが俺の知らない内に、レベッカさんに色々と吹き込んだんだぞ! ちなみに、お前の妹さんは、本当に怒ると怖いんだからな……」

 店に着いてしばらくすると、グラッドからお説教を受けキレかけた。

 しかし、レベッカさんの事を思い出し、その勢いは沈下する。

 「俺の妹が怖いのは、前に話しただろう。それから、色々と吹き込んだと言ったが、嘘を話したのか? 俺は大体その通りだったと思うが……」

 「い、いや、それは……でも、何でグラッドが知ってるんだ? 俺も妹から相談を受けていたし、色々と情報通だからな……」

 グラッドの話しは筋が通っていたので俯きかけたが、咄嗟に気づいた。

 「相談を受けていた? それなら何で、もっと早く教えてくれなかったんだよ!」

 俺の言葉は女々しかったのか、グラッドは癇に障ったかのように目尻を吊り上げる。

 「はあーっ!? お前が自分の仕事を忘れていただけだろう! お前、冒険者を嘗めてるのか! そもそも毎日可愛い女の子に囲まれた生活を過ごして、弛んでいるんじゃないのか……羨ましい……」

 グラッドの言葉は俺の胸に突き刺さったが、途中から本音を思わせる言葉に変わり、少しがっかりさせられた。

 それでも返す言葉が見つからず、悔しさが込み上げる。

 「うううううううう……お前、最後に羨ましいって言わなかったか?」

 「えっ!? そうか? 俺はそんな事言ってないが……兎に角、妹は職業冒険者としての自覚を持って欲しいと言いたかったんじゃないのか」

 グラッドに上手く誑かされた気がした。

 だが、これは先輩冒険者との経験の差というか、日本にいた頃、経験しなかった先輩と後輩の関係なのかもと……淡い思いに心を揺らす。

 「わ、分かったよ。俺が少し浮かれていたみたいだ。お前に相談して良かった。レベッカさんに会ったら、またフォローしてくれないか?」

 グラッドの言葉に頷き、後輩らしく謙虚に言葉を飾る。

 グラッドは空になったソーダ水のジョッキを目の前で揺らす。

 俺はグラッドの台無しな振る舞いに、口元を引き攣らせたが。

 「わ、分かったよ。今日は俺の奢りでいい……それで、他にも頼みがあるんだが……俺がいない間、ヘーベの事を気に掛けてくれないか?」

 グラッドは怪訝な表情を向ける。

 「おっ!? 俺に頼むとは賢い選択だが、急にどうした?」

 「他に頼める人はレベッカさんしかいない。それに普段はスケベだが、ヘーベに対してだけは、紳士的な気がするからな……」

 頼みごとをしている関係で神妙な口調をしているが、自分の話が嘘くさい。

 グラッドは俺の話を聞いて口端を吊り上げ、調子良く返事をすると、

 「お前、意外と良く人を見ているな……いいぜ! 任せろ!」

 運ばれてきたソーダ水を俺の前で掲げて飲み始めた。

 その様子を見て些か不安を覚えたが、残りのソーダ水を飲んで岐路に着く――。

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