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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第十七章 二柱の神さま
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3.森の仲間たちとヴァンパイアについて

 ――異世界生活三ヶ月と二十九日目。

 夜明け前からビアンカと一緒にゴブリーノ族の集落に向かった。

 以前は、俺が読み書きや簡単な算術を教えていたが。

 現在は、カトレアさんが中心となり青空教室で勉強を教えている。

 ゴブリーノ族の族長に、オーガの子供たちを青空教室に呼んでいいか確認する。

 俺は今回の遠征で、国という大きな組織について考えさせられた。

 そしていざという時に、森全体の部族が団結しなければならないと思ったのだ。

 これまでの行き違いから簡単には出来ないと思いつつも、初めは子供たちの交流からと族長に提案する。

 すると意外にも、すんなりと族長は了承してくれた。

 それからロマリア王国のヴァンパイアについて訊ねたが、ゴブリーノ族では誰も知らないようだった。


 ――エルフの集落。

 俺たちはエルフの集落に入ると、アウラの家に行った。

 「あっ!? 極東の男だ! この前は服をプレゼントしてくれてありがとう」

 「気に入ってくれたみたいで良かった。また機会があれば買って来るから……!? アルベルト、今、極東の男と言ったが……どうして知っているんだ……もしかして、アウラから聞いたのか?」

 俺は王都に行った時、アルベルトのために服を購入してアウラに渡している。

 アルベルトからお礼を言われるのは分かったが、聞き捨てならない言葉を聞き、顔を引き攣らせた。

 「えっ!? 違うよ。カザマお兄ちゃんのことは直接会ったことがあるから、魔法で様子を見ていたんだ。たくさんの人たちに囲まれ、大歓声を浴びながら……『おい、次はもっと強い相手を用意しろ! 俺は強い相手と戦いたいんだ! それが出来なければ、万の相手でも用意するんだな』と叫んでいる姿は格好良かったです。それから……」

 アルベルトはいきなり俺の前で膝を着くと、両手を挙げて頭の上で合わせる。

 「ヒィイイイイイイ――っ!? ア、アルベルト! それは止めてくれ……!? あれは、危険な技なんだ。俺の国でも熟練者しか使えない技だ。お前は魔法使いの家系だから、真似をするなら、せめて別のことにしてくれ。それから、極東の男はアテネリシア王国で、最高の賞金首らしいから……他所では広めないでくれよ……」

 俺は白刃取りの空振りのシーンを、この場で再現されるとは思いも寄らずに驚き戦いた。

 そして、純粋なアルベルトの気持ちを裏切らないために失敗したことは言わず、真似をしない様に説得する。

 勿論、俺の正体についても口止めをした。

 「うわーっ! 流石ですね! 分かりました。家の中だけにしておきます……」

 「アルベルトはお姉さんよりも素直でいい子だ……。ところで、お父さんとアウラはいないのか? ロマリア王国のヴァンパイアのことを聞こうと思ったのだが……」

 「ありがとうございます。お父さんは朝早くから出掛けて、お姉ちゃんはモーガン先生の家に行きましたよ。ヴァンパイアのことなら、死霊種の中でも王クラスの存在だと聞いています。不死で身体の傷を再生させるだけでなく、身体を霧化させ実体をなくすことが出来るそうです。それから身体をコウモリとか、別の生物に変化させたり、噛まれて感染するとアンデットになり、稀に眷属にも出来るそうです。心臓がこの世界にはないのが、滅ぼせない最大の理由だとお父さんに聞きました」

 俺は、聡明なアルベルトの話を聞き始めると、思わず頭を撫でてしまう。

 アルベルトは余程嬉しかったのか、頬を赤く染め胸を張るとヴァンパイアについて詳しく語ってくれたのだ。

 この辺りはアウラに似たのだろうと思ったが、アウラと違い俺の悪口を言ったり問題行動を起こさないので優秀であろう。

 「お前はアウラよりもしっかりしているし、将来はアウラ以上の逸材になるだろう……。ところで、ヴァンパイアのことは分かったが、ロマリア王国のヴラドというヴァンパイアのことは何か知らないか?」

 アルベルトは俺の言葉を聞いて、更に頬を赤く染めるが、

 「本当ですか! お姉ちゃんより凄く慣れるなんて、初めて言われました。カザマお兄ちゃん、ありがとう……ヴラドというヴァンパイアについては分かりません……。お父さんに聞いておくので、後日お伝えしますね」

 頭を垂れる。

 俺に褒められた分だけ答えられない事に、落胆した様にも見えた。

 俺はそんなアルベルトの様子に、途中から気にも留めずに呆然とする。

 (お兄ちゃん、ありがとう……何ていい響きなんだ……)

 当初はリヴァイがアルベルトの役割を果たす筈であった。

 しかし、元から悪かった口調が更に悪くなり、最近では俺の悪口ばかり言っている。

 俺は歓喜に震えたのだ。

 (アリーシャも大分大きくなってきたし、次は妹も欲しいな……)

 ちなみに、俺はショタコンではなく、兄弟がいなかったので憧れているだけである。

 次に妹をと考えたのは普通であろう……。

 「おい、お前、いい加減にしないとまた引っ叩くぞ! それから、次は妹が欲しいなどと馬鹿ならことを考えているなら、娘をつくればいいだろう」

 「うむ、まさか、なかなか結婚しないと思っていたら、幼い子供に強い関心を持つ異常な性癖があったとは……」

 「なんすか? なんすか?」

 俺が忙しい最中にひと時の安らぎを感じていたら、リヴァイに遮られ、コテツから有らぬ誤解を受けた。

 しかも、ここまで大人しくしていたビアンカが興味を持ったようだ。

 更にコテツが、ビアンカに説明を始めている……。

 「ああーっ! みんな俺がアルベルトと大事な話をしているのに邪魔しないでくれ! 話は大体終わったし、アルベルト、騒がせて悪かったな。今度はお前も遊びに来てくれよ」

 「分かりました。お姉ちゃんにお願いして、僕も遊びに行きますね」

 俺たちはエルフの集落を後にして、オーガの集落に向かう。


 ――オーガの集落。

 集落に入ると、族長のブルーノと会った。

 ブルーノは、アウラが冷凍室を作ってくれたと教えてくれた。

 俺はブルーノに案内されて冷凍室を見たが、カトレアさんが作ったよりも厳つい部屋に冷凍室があり、顔を強張らせる。

 しかし、ちゃんと冷蔵庫があり、機能的には支障がなさそうなので本題に入ることにした。

 「俺たちはロマリア王国のヴァンパイアについて調べているのですが、何か知っていたら教えてくれませんか?」

 「うーん……俺たちは鬼族なので、死霊種のことは良く分からない。力を主体に戦う俺たちには、相性が悪い事くらいしか知らない。悪いな……」

 ブルーノが落胆した様子なので、俺はゴブリンの集落でも話した青空教室での勉強の話をした。

 それから俺が遠征で経験したことを話し、森の部族たちが協力しなければならないと説明する。

 ブルーノは少し距離が離れているので、毎日は無理だが検討すると言ってくれた。

 その後、集落の女性たちを集めてもらい、干物やカルパッチョの作り方を教える。

 食糧事情の改善をする約束をしていたので、遅くなったが伝えるとみんなに感謝され、下宿先の帰路に着く。


 ――青空教室。

 俺たちは昼前に下宿先に到着して、みんなで昼食を済ませた。

 アウラはずっとアリーシャたちといたのか、アルベルトのことを何も言わない。

 アウラにもヴァンパイアのことを訊ね様かと思ったが、アウラの父親の話を待つことにした。

 そして俺は、久々に青空教室に顔を出している。

 青空教室では人間やドワーフだけでなく、ゴブリンやオークの子供たちも何人かいる。

 ゴブリンの子供たちの中に、俺が教えた子たちもいたが。

 他の子供たちに教えながら、更に難しい勉強をしているようである。

 「カザマ、久しぶりね。本当は昨日、挨拶に来てくれると思っていたのよ……」

 「ご、ご無沙汰してます。お、お変わりない様で安心しました。昨日は色々と先生に報告することがあり、挨拶出来ませんでした。スミマセン……」

 久しぶりに会ったカトレアさんは左掌に頬を載せ、その頬を薄っすら染め潤んだ瞳で見つめていた。

 その悩ましい身体や仕草が、久しぶりに大人の女性に会ったという印象を受ける。

 俺はいつもなら怯えるところだが緊張してしまう。

 「カザマ、大分青空教室も増えたでしょう。多い日は五十人くらい集まるわ。教える手が足りない時は、エドナだけでなくゴブリーノ族の子供たちに手伝ってもらっているの。カザマが教えた子供たちは、本当に覚えるのが早かったわ……。父も忙しくてなかなか会えないけど、今度カザマに会いたいと言っていたわ」

 「そ、そうですか……お互いに多忙でなかなか会えませんが、機会がありましたら……!? カトレアさんに色々と報告があるのですが、場所を……」

 カトレアさんは青空教室が盛況な様子を満足気に語ってくれたが、初めて領主の父親のことを話し始め、顔を赤く染めた。

 俺はカトレアさんの話に苦笑を浮かべ聞いていたが、様子の変化に気づくと慌てて話題を変えたのだ。


 ――食堂。

 俺たちは場所を移して話す事にした。

 俺は遠征で体験したことや思ったこと、それから森の集落で話した事をカトレアさんに伝える。

 「……大体話は分かったわ。オーガの子供たちも受け入れることは出来るけど……取り敢えず、しばらくは定期的に通ってもらいましょう。それから様子を見て、ゴブリンの集落でも青空教室を開けないか検討しましょう。森の集落が連携し合うのは素晴らしい事だわ。これまで手を拱いてきた問題だけど、きっと父や兄も喜ぶわ。でもどうして、領主でもないカザマが、領民のことを気に掛けるのかしら……!? と、当家の婿養子に……」

 カトレアさんが相貌を紅潮させ、碧い瞳を見開いた。

 俺は苦笑を浮かべ、冷や汗を掻きながら話題を変える。

 「!? いや、良かったです! 知り合いが多くなり、みんなが幸せになってくれるなら十分です。それより、ロマリア王国のヴァンパイアの事を、何かご存知ないですか?」

 カトレアさんは、二度も途中で話題を変えられ柳眉を寄せたが、俺の話の内容に首を傾げた。

 「カザマがロマリアまで行ったことは聞いていたけど、どうしてヴァンパイアのことが知りたくなったのかしら?」

 「いえ、まだ詳しくは分かりませんが、ビアンカに関わりがありそうなので……何か問題が起こる前に、調べておこうと思いまして……」

 俺はカトレアさんの視線を逸らして、何とか詳しい説明を省き、情報だけを聞き出そうとする。

 カトレアさんは双眸を細め、怪訝な表情を浮かベた。

 「私には分からないけど、何だか怪しいわね……」

 「カザマ、みんなに話しておいて、カトレアさんにだけ話さないのは失礼ですよ」

 「さっきから格好つけてるみたいだけど、意地悪は良くないわ。私も本当は嫌だけど、カザマが子供みたいだから、我慢しているのに……」

 「何だか分からないけど、アタシのことなら気にしなくていいっすよ」

 カトレアさんから疑われ誤魔化そうとしたが、アリーシャに叱られてしまい。

 アウラはいつも通り勘違いしている様で、ビアンカは理解出来なかったみたいだが、話に乗っかってきた。

 カトレアさんの表情がみるみる険しくなる。

 「違いますよ。カトレアさんを危ない目に遭わせない様に気を使っただけです。アリーシャもビアンカも酷いじゃないか。それから、アウラは大切な話をしてるから、少し黙っていてくれないか」

 「そ、そう……気持ちは嬉しいけど、前回はカザマにひと月も会えなくなったわ。またカザマが、遠くに行くなら我慢出来ないわよ……」

 俺の説明を聞いたカトレアさんは、前回を思い出したのか俯いてしまう。

 アウラは身体を震わせて、何か言いたそうにしているが気にしないことにする。

 「俺は冒険者ですから……国から依頼を受けたら、内容にも寄りますが断ることが出来ません。それに仲間たちのため仕方なく旅に出ることもあるかもしれません。これからは以前の様に、村にいることは出来なくなるかもしれません……」

 俺の話を聞くと、カトレアさんは普段の貴族令嬢の風格が消え失せたかの様に頷いた。

 生意気なことを言ったので折檻されるかと思い、肝を冷やしたがカトレアさんは何もしない。

 それから徐々に俺の話は、冒険の広がりと共に現実のことになっていく――。

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