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第八話 愛と影

 あのボロを着た少年と、少しだけ話しをして俺は宿に戻った。彼については思うところが多々あったが、何かあったらこの宿を訪ねて来いと言ってあるので大丈夫だろう。苦労したのか、幼いくせにしっかりしてたからな。








「キドーってホント変わってるよねー」


「だがそれがいい」


「私も面白いからそれでいいけどね」


 自他共に認める変人が妖精にも認定されたよ! やったね……いややめとこう。

 とりあえず今日買い込んだ物を自分の部屋の床に並べる。爺さんに調節してもらった意外のものは俺なりに改造して使うつもりでいるからだ。買ってきたのは皮で出来たポシェットと小さな手投げナイフ30本とそれを収める皮の入れ物10個だ。徒手空拳で戦いしかも魔術が不完全なおれではどこかでリーチのなさが問題に成ることがある。実際ヨルガの森のサーベルタイガーにはフィリーの援護無しで触れる位置まで距離を詰めることが出来なかった。

 そこで投げナイフだ。森では石を投げて代用していたが、それが鉄でしかも刃物であるナイフならば更に殺傷能力は上がるだろう。他にも色々応用が効きそうだし俺の肌にもあってると思うので戦闘スタイルに取り入れてみる。魔法を使うという手があるのだが、肉弾戦闘の素早さや対応能力に比べると、不慣れな為に、時間がどうしてもかかしまう。かかるといってもイメージしてから発動までに二秒で発動できたりすづのだが、俺の現在の身体能力ならナイフを取り出し、投げるまでの時間は一秒、いやその半分すら消費しないだろう。一瞬の時間で命運を分ける命のやりとりをする場では、それだけの差は大きい。なんせ魔法一つ打つ間に俺は四回ナイフを投げられる計算だからな。

 ポシェットは腰周りを一周して、腰の位置に小さなカバンを固定するものだ。カバンといっても拳が丸々一つ入るほどの小ささなのだが、それが右側に設えてある。そこには武器屋で買ったナックルを収納しておく予定だ。定位置に設置しておけば手を突っ込むだけで、装備が完了するという手早さはなかなか魅力的だ。

 次にポシェットの皮と同質のもので出来たナイフを、頑丈な糸で五つ一組で斜めにして組み合わせていく。皮加工は社会見学で一回だけ体験した事がある程度だったが、繋ぎ合わせるだけならなんとかなるだろうという、よくわからない自信で行っていた。まっ結局成功したんですけどね。そしてお次にそれをポシェットの腰巻の後ろにあたる部分に、金具を使って固定していく。そして左側のスペースには細い筒が入るように皮を6箇所追加して、そこへ買ってきた小さな試験管のような鉄製の筒を指し込む。試験管の中身はフィリー直伝の薬を水で溶いたものを入れる予定だ。疲労回復、傷薬に解毒薬を二本ずつだな。そんでもってその腰巻には、更にズボンのベルトとも連結出来るように金具を追加して完成だ。


「できたーーー!」


 作業に集中していた為に時間の経過をかなり無視していたらしい。喉がカラッカラに成っていたので机に置いておいた水を飲み干す。


「ぷっはー! 作業の後のこの一杯」


 昔からおっさん臭いとよく怒られた恒例行事だが、この時に飲む水はどんな飲み物よりもうまいんだから仕方ない。


「おーおー」

 

 夢中で作業する俺を黙々と見つめていたフェリーが、完成した俺式ホルスター(収納するのは銃ではなくナックルだが)を近くによって輝く瞳で観察している。期待の眼差しに答えるために、早速自分の腰に装着してみる。しっかり固定されているかチェックしてみるが、どうやら問題は無さそうだ。


「よしよし、一から作ったわけじゃないが、こっちに来て作った作品第一号だな」


 ヨルガの森で壁やらベッドは作ったが、俺的プライドにかけてあれは作品と呼べるものでは断じて無い。

 ここまで言えばわかるだろうがつまり俺は必要な装備を手を使わずに収める場所を皮のポシェットを改造して作ったわけだな。これに鉄甲と脚甲を装備すれば第一段階としては完成だ。本当はホルスターの前部分にも付けたい物があったのだがそれは後日にする。

 もちろん第一段階なのだから第二段階もあるがその完成は大分先になるだろう。今のところ目処すら立っていないわけだしね。


「それにしても……」


 鉄甲と脚甲、ホルスターを装備し武器も全て設置した状態で部屋に用意された鏡の前で自身の姿を確認する。


「…………………………良い」


 特撮ヒーローというよりは、どっちかというと忍者だが、その姿は大いに俺を悦らせてくれる。


「うれしそうだね~キドー」


「おう! フィリーに会えた次ぐらいに今感動しているぞー!」


 俺はしばらく色んなポーズをとったりし、ニコニコ顔で動作チェックを繰り返す。今の状態を他人に見られたら、俺はこの街を出ないといけないかもしれないぐらい恥ずかしい様相だったが、今は完成の喜びが上回っているので、分かっていたけどやめられない。 






 

 だいたい十分ほど鏡の前に立った頃には、既にフィリーが目を擦ってオネムの状態に成っていた。もうそんな時間か、確かに外からの音も全く聞こえなくなってきたな。

 この世界に来て最も困った事は手に持てる時計が無いことだ。太陽とか星とかを観察すれば大まかな時間がわかるのだが室内ではまるでそれがわからないのだ。大通りなんかでは大きな時計がある。小さめの時計はあるにはあるが、かなりの高級品らしく安宿でそれを買うのは難しいだろう。

 いい感じに疲労したし俺も眠ろうと装備を外そうとしたその時、宿屋の階段を駆け上がりこちらへと走ってくる音が廊下から聞こえ出した。襲撃!? とっさにナックルを装備してドアへ構えを取る俺。


「兄ちゃん! 助けてくれ!」


 ドアを開けて現れたのは昼間に泣きながらパンを食っていたあの少年だった。







 騒ぎに飛び出してきた女将さんに事情を説明して謝り、取り乱す少年リッキーをなんとか落ち着かせた。少年の話を聞いて俺は愕然としてしまった。

 俺はてっきり家庭内暴力、そんな程度の問題だと思っていた。ああなんて甘い、なんて大馬鹿野郎なんだ俺は。

 彼はストリートチルドレン。親も家族も家もなく、その日その日を路上で暮らす孤児だったのだ。一人でなんとか生きてきた彼は、最近ストリートチルドレンが集まって暮らす集団に仲間入りしたらしく、妹達と言ったのは彼の年下の女の子のことらしい。彼等にとっては共に生きるのは家族同然の信頼関係があるのかもしれない。

 俺に百ディクスを貰った少年はありったけの食料を買い込んで仲間の待つ場所に帰ったらしい。うまい飯を腹いっぱい食えたことは彼等にとっては、これ程嬉しいことはなかったってさ。もちろん仲間たちは大いに喜んで食べ物に飛びついて食べていった。その嬉しさのあまり、一時はお祭り状態になった。

 そんな騒ぎを彼等の住むスラム街のボスが通りかかった。大量の食料を食べる子供たちを見て彼はこう言った。


「ほう今日は大漁だったらしいな。なら三ヶ月たまってる場所代を払ってもらおうか糞餓鬼ども」


 なんでも彼等がボロ家に不法滞在しているのを黙っといてやる替りに、毎月スリなどで稼いだ金の一部を払わされていた。しかし三ヶ月前に一人の女の子が病気を患ってしまったためその金は滞納してしまっていたらしい。


「違うんだ! これは貰ったものなんだ! 本当なんだよ! だからおれが稼いだ金じゃないんだ」


 スリで稼いだ金じゃないんなら、そのボスの取り決めには違反してはいないので当然の言い訳だろう。


「ああん? 誰がてめえらみてえな汚いガキにこんだけの食いもん恵んでくれるやつがいるんだよ!? それに百歩譲ってそうだとしてもその金をオレ様に献上しない理由はないだろうがっ!! なめてんのかテメェ!!」


 ボスに近寄り懇願していたリッキーは殴り飛ばされてしまう。それを見て一人の少女がリッキーに駆け寄る。


「まあいいや。予定より少し早いが攫っちまうか」


 ボスが指を鳴らすと周りからゴロツキが十人以上現れた。


「あなた最初から私たちを売るつもりだったのね!」


 リッキーを介抱していた少女がボスに言葉で噛み付く。


「相変わらず乞食の癖に頭がよろしいなトウカ。この俺が態々警備兵に金を握らしてまでお前らを庇ってやるわけねーーーーだろーーがよぉーー。やっとお前らを奴隷として売る算段がついたんだ。しっかり今までの恩をたっぷりの金にして俺に返してくれよ?」


 トウカと呼ばれた少女にボスが手を伸ばしたがそれを少女は全力ではねのける。


「触らないでこの外道! あんたに触られるくらいならここで舌を噛んで死んでやります」


「そんなこと言うなよつれねえな~」


 今度は油断なくトウカの襟首を掴んで片手で持ち上げるボス。


「おんや~お前今までそのなげえ髪と、顔の傷で気づかなかったが、なかなかいいモン持ってんじゃねえか。湯浴みでもして綺麗に着飾れば美人になるぜ。そうだ今夜は俺の相手をしてくれよ、最近色々溜まって困ってるんだよ」


 その時トウカは舌を突き出して噛み切るために口を開ききる。


「おっと死ぬのはいいが、さっき殴ったガキの確か~リッキー? だったか、お前が寂しくないようにあいつも一緒に道連れにしてやるが、それでも死ぬか? それにお相手してくれるなら一人くらいは見逃してやってもいいんだぜ?」 


 宙吊りになりながら震える少女。


「あんたは地獄すら生温いわ!」


「商談成立だな。野郎ども一人残らずかっ攫え!!!」


 そこで気絶したリッキーが、次に目覚めた時は奴らのアジトに連れ込まれる寸前で、自分はどうやら気絶していた為拘束されずに肩に抱えられていた。そこから必死にもがいて逃げ出し、ここまで一心不乱に走って来たのだ。







「もう兄ちゃんしか、兄ちゃんしかいないんだ。警備隊のやつはグルだし、俺たちみたいな乞食なんて騎士が助けてくれるわけない。むしろ居なくなれば清々するだろうさ。でも…………でもアイツらはおれにやっとできた家族なんだ! 仲間なんだ! 頼むよ……頼むよ兄……ちゃん………俺なんでも……するから…………死んだって構わない…………だから………………たすけてください」


 俺は泣き崩れるリッキーを抱きしめる。


「よくここに来た。よく逃げ出してきた。お前は偉い、本当に偉いぞリッキー」


 頭を撫でてやると体の強張が解けていった。


「後は任せとけ。愛を守って悪を砕くのがおれの役目だからな」


 立ち上がり用意してあった赤いバンダナを頭に巻く。ああ力が溢れてくる、まるで尽きることのない無限の如く。


「フィリー」


「わかってるよ。付いて行けばいいんでしょ」


「いや君はここにいてリッキーを守ってくれ」


「……一人で平気なの?」


「大丈夫さ今夜の俺は誰にも負けない」


 力が体の外にまで溢れ出して空気が揺れているような気がした。


「わかったよ。お土産期待して待ってるわ」







 本当に今日彼に会えてよかった。本当に今日装備が整っていてよかった。本当に彼がここまで辿り着けてよかった。

 不謹慎だがこれは幸運、運命かもれない。心の底から感謝してやるよ神様方。







 今日俺は成りたい俺になる。そう正義のヒーローに俺はなる。

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