第六話 どこにでもいるやつ
実りがありすぎて、精神的に圧死しかけたボライアズ家からの帰り道、俺はなんとか理性を取り戻し、ホクホク顔で食事処や露天を練り歩ていた。
「フィリー今日は好きなお菓子なんでもおごってやるぞ!」
「ほんとに!? イヤッホー!」
超甘党のフィリーはなんでもというワードに興奮して商品を決めるため、あっちにフラフラこっちにフラフラしていた。俺もせっかくだから晩飯は豪華なとこで食事しようと周りの店を涎を堪えれない状態になって見まわってる。なんという食欲という煩悩に弱いコンビなんだ俺らは……。
この世界の食文化は予想通りかなり進歩した状態のようだ。調味料の多様性こそ地球での日本には大きく劣るものの、味付けや調理道具の質はかなりのものだ。どうやら最も簡単な部類の魔法であるのならば、一般市民の人達も使える人はかなりいるようで、その力を料理にも活用しているみたいだ。
ブタのような動物を『ファイヤーボール』の火力を低くした状態で包んで丸焼きにしている様子は、圧巻の一言だった。
満足いくまで食べた俺らは宿への帰路についた。おみやげのお菓子まで買えたことに興奮してフィリーは俺の周りを飛び回り続けている。普通の人には見えないがもし見える人が男の周りを妖精が跳び回る様子を目のあたりしたらどう思うんだろうか。腰を抜かす? 俺に詰め寄る? それとも苦笑い?
明日は色々装備品とか物資調達に買い物に出かけますかな。いまだ魔法が不完全なおれでは有事の際に対応できない場面があるかもしれない。そのための対応策はいくつか考えてあるので、武器屋か防具屋でもいってそれに必要な物を見繕う事にしよう。これだけ金があれば結構融通効くはずだしね。いや~お金って大事!
そういえば銀行の口座も作らなきゃだめなんだよな。あんまりジーニーさんを待たせるのも悪いし宿の女将さんに聞いてみるかな。
順調すぎる未来図に浮かれて、まあなんだ俺は油断していたんだろうね。いいことあったから。
「ぶつからないように気を付けろよフィリー」
フィリーに注意を促した時、後方から俺に向かって注がれる視線に気がついた。危険と隣り合わせの森で過ごしていた俺は、気配というより敵意みたいなものに敏感になっていた。この視線はまさに獲物を狙う肉食獣のそれだ。だけどここは街中で俺が獲物に見えたとするならば―――。
「フィリーごめんな、ご機嫌なとこ悪いけどさ俺等付けられてるみたい」
「えっ。あっほんとだね~顔の怖いお兄さんが三人ほどついてきてるよ~この街ってああいうの結構いるよね~」
少し上空に上がって目視で確認するフィリー。おう三人もいるのかよ、聞き捨てられない話も聞こえたがまた今度にしてどうするか……。走ってまいちまうのも手だけど付きまとわれて宿の場所がバレるのも嫌だし、ほっておくには俺の主義に反するな。
宿には向かわず、むしろそれとは違う方向にしばらく歩き、薄暗い裏路地に入り込む。
「おっと兄ちゃんそこで止まりな」
周り込んだのかつけて来ていた男の一人が正面に立ちふさがる。こんな分かりやすい誘いに乗ってくるとは三流なのか俺を甘く見てるのか、ってどっちも当てはまりそうだなこの駄目さが溢れる顔からして。
「……なにか御用でしょうか?」
「あんた今日なかなかいい稼ぎがあったんじゃねえか? それを俺たちにも分けてほしくてよ」
むむ? 稼いだことを知ってるってことはこいつらボライアズ家あたりから付けて来たのか、気が緩みすぎだろ俺…………商館のあるあたりでほくほく顔ででかい硬貨入れをぶら下げてりゃ、アホでも儲かったってわかるだろうに。しかも今は町人風の一般市民的な服を着ている。悪党からすれば夜中に歩いている俺は丸々太った旨そうなブタさんに見えただろね。
「稼ぎたかったら、汗水垂らして得たお金の方が、気持ちよくつかえると思うけど」
「はっそんな馬鹿なことより、てめぇみたいな間抜けから頂いちまったほうが俺らは酒がうまくなるのさ!」
「ほほう。苦労してお金を稼ぐのが馬鹿ですか。そうですかそうですか」
どうやらこいつらは遠慮のいらないゴミのようだ。今の発言にはピシリと眉間に来るものがありました。
「お断りします。てめぇらみたいなクズに恵んでやる金は一ディクスも持ち合わせておりません。とっとと大人しくママのいるお家に帰ったらどうですか豚野郎」
すっごい見下した目線で挑発してやる。
「このガキほざきやがったな!」
強盗どもは殺気を俺に向けながら、獲物を引きぬく。
「せいぜい悲鳴を上げて後悔するんだな!」
三人同時に俺に斬りかかる。もうほんとキレやすい最近の若者はこれだから困る。まあ俺のほうが確実に若いけど。
まず正面から来ていた一人の振りかかるその手を、正確に狙って拳を放つ。移動したことで空振りしていた後ろの一人へと振り返りその手につま先で下段蹴りをかまし、驚きで固まっていた最後の男には裏拳でその手を薙ぎ払う。持っていたナイフや剣などの獲物が三つ飛んでいき、それぞれの指は見たこと無いような方向に曲がっていた。
もちろん手加減はしている。もし全力で攻撃したら、もしかしたら指がもげ落ちるなんて事もありうると思うからだ。
「ぎゃああああああああああああ」
痛みに絶叫するのはいいけどお前ら、なんで手を抑えるリアクションがまったく同じなんだよ! 悲痛な場面でシリアス展開のはずなのに、ちょっと笑っちゃったじゃないか。
人が集まるのも困るので全員の顎を揺らして意識を断つ。すぐさま三人抱えていつも通りスタコラサッサですよ。
「こいつらなんだか汚いね」
ある意味では正解なんですけどフィリーって結構口悪いよね。
「さて確かこの辺に……いたいた」
じゃあこいつらを君たちのご主人様のところまで引きずっていってね。
翌日、巡回に当たっていたワニワゴーレムが縄で括られ、額に「このひと泥棒です」と書かれた紙が貼られた三人組が運ばれてくる事件が起こったらしい。
ハニワ君って凄いね!
ハニワ回?




