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第五話 想定外デース

 さて侵入劇から一夜明け、傷心な俺は激痛と共に目が覚めた。


「おお、これはひどい」


 昨晩のプランBで俺はウインドボールに掴まるという凶行に出た。


「まるで病気のようだ」


「わー気持ち悪ーい」


 その結果、素肌で触れていた腕の内側の部分が、内出血の為青い斑点がアチラコチラに浮かび上がっていた。多少ましだろうが服の下にも何個かはあるだろう。だってすでに痛いんだもん。気持ち悪いと言いながらも、フィリーがおもしろがって斑点をつついてくる。その嬉しそうな表情は、傷心の俺への最高の妙薬ではあるが。


「ヒギィ!」


 壮絶に痛いのだよフィリーさん。空手で打ち身などは数えれないほどしてきたが、これはそれの中でもひどい部類に入る。それが全身にあるのだ、一つの痛みが連鎖的に全身を駆け巡る状態は、さすがに苦悶せざるおえない。


「キャッキャ」


 フィリーさんもしかして俺が痛がるのを見て喜んでる!? いかん! 俺の癒し系妖精がドS系妖精に様変わりしてしまう!

 俺は痛みを堪え立ち上がり、食事にしようと話を逸らした。


「朝飯でも食べますか」


「ねえキドー」


「なんだいフィリー」


 穏やかな笑顔でフィリーに振り向く。そんな仕草も激痛が走り、笑顔の反面服の中では冷や汗が吹き出ていた。


「なんで傷薬飲まないの?」


「あ」


 以前疲労回復薬なるものの作り方をフィリーに習ったと言ったと思うが、その他にも幾つか薬の作り方を習い実際に作り置きしてあるものが幾つかある。その中でも森の中で重宝した傷薬。傷の治りをよくし、痛み止めの効果も持つ大変便利な薬だ。いやいや修行期間の前半にしか結局使う機会が無かったからすっかりしっかり忘れていた。

 







 気合で宿の食堂まで降りて水をもらうと、粉状になった傷薬を口に流しこむ。飲んで数分で痛みがかなりマシになり、まるでロボットみたいな固い動きはしなくてもよくなった。走るのはまだきつそうだが、歩く程度なら問題なさそうだ。

 しかもこの薬は効果抜群で血が流れるほどの切り傷も三日でふさがるほどの良薬だ。内出血程度なら三日で跡形も無くなっていることだろう。


「回復魔法が使えたらいいんだけどね~」


 傷を瞬く間に癒していく回復魔法なるものがあるらしいのだが、光属性の中級以上にしかないらしく、今の俺ではとてもじゃないが使えない。なんでも神様に仕えて加護を受ければ、それに属する魔法が割りと簡単に使えるようになるらしいが、正直この世界の神様がアレであったため信仰する気はさらさら無い。

 ないものねだりをしても虚しいだけで、今は今朝の朝食への期待で胸をふくらませようじゃないか、痛さもましになったしね。そうして待っていると厨房のほうから食事を載せたお盆がひとりでにこちらに向かって来るのが見えてきた。これは……お盆の下に何か居る!?

 ゴトッとお盆が俺等の待つ机に置かれる。そしてその下から現れたのは―――。


「ハニワ?」


 そう若干等身が短くデフォルトされているがまさにあの土で作られたハニワそのものだった。


「違うわよお客さん、それはミセスハニーウェイトよ。家事専門型の自動人形(ゴーレム)だけど見るのは始めてかしら?」


「ああ、俺はこの街には昨日着いたばかりだし遠くから旅をしてきたもんでね」


 魔法で動くロボットみたいなものだろうか。


「じゃあ後でもう一体のそれのつがいなミスターハニエスがどこかで見れると思うから楽しみにしといておくれ」


 なるほどこいつは一応主婦型でもう一体旦那方のハニワがいるわけだな。たしかによく見るとエプロンを付けているし、なにやら少しだけ胸の膨らみがある。

 しかしハニワだ。


「どうしたのキドー?」


「いや、実にファンタジーで俺としては喜ばしいのだが、なぜか釈然としない部分もあるんだよねこれが」


 だってハニワって和風じゃん! デザインした奴出てこい!

 考えても仕方ないので……なんか最近思考を投げ出している感がいなめないが、異世界に来たんだ、問題何てぶっちゃけ全部だ。いちいち考えていては切りがないので、まあいいやで済ましておく。

 朝食は実に満足のいくものだった。焼きたてのパンとカボチャっぽいスープに玉子焼き。そして見たことがない形状の野菜が色々入っていたサラダも実に美味しく頂けた。パン主体の朝食としては満点ではないだろうか。昨日露天で食べた食べ物も軒並みおいしかったし、どうやら食文化はなかなか進んでいるらしい。メシマズの生活は元日本人としては耐えれないのではないかと心配していたので一安心だ。












 さて俺としてはこのブローナスの街を拠点にしていきたいつもりなので午前中は街を散策という名目の観光をフィリーと一緒に行った。昨日は露天に並ぶ商店通りしか歩いていなかったので色んな発見や情報が次々と見つかって非常に楽しく有意義なものになった。

 まずあのハニワシリーズは結構な場所で見つけることができた。どうやら単純労働力として人気なようで建物に入ると大体のところで使っていた。露天しか回っていなかった俺が見ていなかったのも仕方ないな。あともっとでかいゴーレムも警備隊の詰所らしきところに鎮座していたが、さすがにハニワではなくごつい人型だった。まったく動かないので兵隊さんに聞いたら有事の際は動くらしい。あと警備兵さんが見回りの時に連れて歩いている探索型のハニワが兵隊さんの後を数体がトコトコ歩く様子はなかなかの鼻血ものだったよ。

 こっちにきて気付いたが俺はどうやら可愛い物に割りと目がないらしい。もしかして子供好きもそこからきてるのか!?







 そして昼飯を済ませて俺はかなり大きな商館の前に来ていた。服装は午前のうちに買った長袖のカッターシャツと皮のベスト、そして綿でできたっぽい長ズボンに着替えていた。わざわざ着替えたのは目利きのできる商人さんに、あのGパンとパーカーを見せるのはまずいような気がしていたからだ。見た目に痛い腕の痣を見せるわけにもいかないし、商談って格好でもないしね。そう商談なのだ。

 午前中に狼の皮だけはそれなりの商人に売りさばいたのだが、問題の猿とか熊の売り物は扱いは難しいが金に成るのも確かだ。そこで俺が考えた答えは、この街で有名な商人に直接売るといったものだった。有名な商人ならばこちらの秘密を他に漏らすような信用を失って損をする真似はしないだろうし、値段も正当な額で引き取ってくれるだろうと踏んだからだ。露天や宿屋のおばちゃんに聞きとった情報では、この街には五商家と呼ばれる、国王認定のとても大きな商家があるらしい。その中でも評判が良くて手腕も確かなのは、傾きそうになった商家を僅かな期間で立て直した若手のホープ、ボライアズ家のジーニー・ボライアズのようだ。

 そんなわけで現在ボライアズ家の前に到着しております。是非とも一度直接噂の彼に会ってみたかったので在宅中に訪ねようと思っていたが、偶然今日は家にいるはずだという事を小耳に挟んでいざ即刻直談判ですよ。


「お待たせしました。ジーニー様がお会いになるそうです」


 取次を頼んだ門番君が帰ってきた。こんな名も知らぬ一般市民に会うのかどうかなんて期待は薄いと思っていたが、門番君に持たせた売却リストに興味を持ってくれたようだ。目録は傷薬などの材料になったフィラジア、ヌスス、ミラーゼという薬草を15束づつ。これもかなり希少らしいのでこっちに回した。後は猿の皮と爪セットが2と熊セットが1である。さすがに有名な商人であっても、熊やら猿の商品を一気に売るのは危険だと判断して、期間をおいてちょっとづつ売ることにした。目の前に崖が見えてるのに突っ込むのは単なる無謀ですから。

 商館の中はかなり豪華な内装を想像していたのだが、あまり装飾に派手さは無かった。しかし色んな所にセンスを感じる配置や家具の数々にその手腕の高さが伺えた。


「いい仕事してますね~」


 商人の手腕なんてのは測れないが、物の良し悪しは存分に計れますぞ! この匠の技が込められた家具を選ぶ商人が出来ない奴であるわけがない! この色、ツヤ、芸術的な曲線、ああいいな~あの椅子……いやあの机もなかなか……。

 応接室に案内されて良質な家具にお花畑を咲かしてトリップしていると一人の若者が入って来た。


「お待たせしました。私がジーニー・ボライアズで御座います」


 俺に丁寧な礼をするジーニー。


「あ……ああ、ご丁寧にどうも」


 若っ! いやいや若いって聞いてたけどこれは予想外に若すぎる! 頭首ではまだないらしいけどその手腕と実績から、すでにそれと変わらない働きを見せてるらしいじゃん? なのに目の前にいる青年はたぶん俺よりちょい上の二十歳前後ってところだ。若すぎるだろ! 街の人から褒めちぎられるような男だから若いと言ってももっと上を想像してたわ! というかその若さで国で有数の頭首クラスってどんだけだよ! と内心のツッコミを全力で隠しつつ挨拶を交わす俺。


「すいません。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


「―――失礼致しました。私の名はキドーと申します。今日はよろしくお願いいたします」


 フィリーによればキドウやマサシは、ちとこちらの言葉では発音しにくいということなので普段はキドーと名乗ることにしている。


「いえいえこちらこそこんな若輩ものですがよろしくお願いします」


 はい、内心バレバレなんですね完全に。なんか怖くなってきたよ。


「それでは早速商品のほどを見せていただきたいのですが」


 俺は持ってきた包みを机の上で開いて見せる。


「これはリコステの爪と皮ですでね……こちらのハッグベアーの皮なんて久しぶりに拝見しましたよ。おやこの薬草は……」


 ひとり言をブツブツいいながら品物を鑑定していくジーニー。真剣なんだか目の輝きが半端ない……なんだかちょっと俺に似ているような気もしてきた、自分の分野に夢中になるって所で。10分ほど時間を掛けて隅々まで鑑定し終えたのか長く息を吐いて姿勢を正すジーニー。俺の予想に反して薬草の鑑定に一番時間が掛かっていた。なにかまずいとこでもあっただろうか。


「それではハッグベアーの皮が一万二千ディクスと爪が三千ディクス、リコステの皮が二千ディスクに爪が八百ディスク。あと各薬草がかなり良質でしたので少しおまけして千ディスクで買い取らせて頂きたいと思います」


 合わせまして二万千六百かふむ、高いな。日本円で216万円か……ぱねぇ。


「はい問題ありませんのでその価格で結構です」


 さすがにこの金額を釣り上げる商売根性は持ち合わせてないよ。


「ありがとうございます。付きましては一つお聞きしたいのですがよろしいでしょうか?」


 やべぇ!? もしかして身元とか出所とか聞かれちゃう!? この人なら聞かないと思ってここにきたのにーー!!


「……何でしょうか?」


「この薬草の根を包んでいるものは何でしょうか?」


 んん? 根を包む? ああ草が枯れないように俺のなけなしのシャツの袖を破って根っこを土ごと巻いて水を含ませてたやつね。おかげで俺はノースリーブのお兄さんに進化出来たぜ、大事な服の袖を泣きながらな破ったおかげでな。


「ああそれは―――」


 普通に答えそうになってあることを思いつく。この人程の方が態々俺に聞いてくるということは、もしかしてこの草を日持ちさせる方法を知らないのでは? 俺の婆ちゃんの園芸知識から頭の隅で覚えていた事だし、そこまで専門的な知識ではないはずだけど……。計算だけは早い俺の頭脳がそろばんを弾いていく。


「さすがジーニー様。それに付きましても商談をしたいと思っていたのですよ」


 今思い付いたんだけどね。


「と、いいますと」


「これからその包みに関する話をさせて頂きますが、その詳細を買い取っていただきたいのです」


 たぶん情報を買い取るなんて事は概念としても薄いだろうからこれはかなり部の悪い賭けだ。確率は低いがうまく行けばリターンはデカそうだ。


「ほう、話を買うというのはおもしろい事をおっしゃる。しかし聞いてもない話に値段付けれませんがよろしいのですか?」


 そうこの話は聞いてからしかその価値がわからない。なので聞いた後で金銭をジーニーさんが払わなくても何の問題も無いのが痛いところだ。


「はい、私が全てお話した後でジーニー様のご采配で値段を決めていただいて結構です」


「…………わかりました。お聞きしましょう」


 さて、この若い商人さんの器はどれだけでかいのかな?












 そして草の根を土ごと保存することで劣化を防ぐ方法の詳細を俺なりに詳しくジーニーに話し尽くす。ちなみに猟師であった実家の秘伝だということにしておいた。


「素晴らしい」


 まあ喰いつくよね。この方法なら取ってから10日は完全な状態で持ち運びできるからね。今までそれをしてこなかった環境だったのなら、これからの薬の質の平均がガラッと様変わりするだろうしね。


「実に有意義なお話を聞かせて頂きありがとうございました。つきましてはこの話の値段なんですが……」


 敬語で取り繕った感謝ではなく、心からの感謝だと目を見て感じ取れた。まあこれだけ感謝の気持ちが伝わって来ただけでも話した価値は結構あるな~。人に感謝されるのはどこの世界でも実に気持ちいい。


「20万ディクスでいかがでしょうか?」


「へ!?」


「ああ、お気に召しませんでしたか!? それでは25万で!」


「ウェイ!?」


「ええ更に上!? 仕方ありません28万でお願いします!!」


 あまりの金額に言葉も出なくなり首だけカクンカクンと縦に降る俺。


「いやありがとうございます。キドー様とはこれからも長いお付き合いをさせて頂ければ大変ありがたいと思っております」


 ここぞとばかりの輝くほどの営業スマイルを携えておれの右手を両手で握って握手を交わすジーニー。

 すまん、見誤った。この御方の器のデカさはとんでもない大きさだったようだ。








 度肝を抜かれて半分魂がはみ出た状態な俺だったが、あの後も話を詰めて俺は商館を後にした。

 とりあえず28万ディクスはその金額が金額だけに銀行で受け渡しをすることになった。この世界にはしっかりと銀行制度がある。しかし俺は手続きも何もしていないので利用することはまだ出来ない。

 持ち込んだ皮や薬草の代金だけ受け取り。そしてジーニーに話した薬草の保存方法は他には漏らさないことを契約書を作って約束し。そんでもっていつでもジーニー及びボライアズ家の誰かと交渉できるように、この商館への入館証をもらった。ただのペーペーの俺に対して破格の条件なんだろうことは、ジーニーのはしゃぎようからなんとなくわかった。商才に乏しい俺では、あの話でどんな儲け話が生まれるのか分からないが、彼にとってはとんでもない価値があったらしい。







 持ち込んだ品と話の価格を合わせて30万ディクス余りの現金を手にした

―――――――――――――どうしよう。

 

価値観の違いとはいつの世も大きな実りと戦乱を呼んで来るものです。

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