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第二話 狡猾の一噛み

 まだ朝露覚めぬ薄暗い中に騎士たちの駆る馬の蹄の音が響いている。生え抜きの集団達には似つかわしく無く、その様子は慌てているようだった。その様子を横目に見て、この騒ぎの原因を確認するべくフクロウ本部へと足を急がせる。これはきっと当たってほしくなかった予感が当たってしまったということだろうから。







 フクロウ本部の建物に入ると、フェズさんがなんとも言えない面持ちで椅子に鎮座していた。騎士団出身であり、一般民から成り上がってきた胆力の持ち主である彼の表情から事の重さを感じしまう。


「…………何がありましたか?」


 はっきり言って聞きたくは無いのだけど、聞かないことには始まらない。


「私は……私は彼らをこれだけ調べながらも、今だに侮っていたのかもしれません…………あまりにも……あまりにも理不尽だ」


「…………」


 戸惑いの表情から、まるで懺悔している罪びとのように悲しみの表情を表すフェルダナ男爵。


「王家のご子息には噂の第一王子。あの祭典に居た第二、第三王子。そして王女さまが四名おられます。その第四王女さまは同盟国へ嫁ぐ準備のためのそちらの方へ出向いていたのですが、暗殺の報を聞いて急ぎご帰国される運びとなったのです」


 親が殺されかけたと聞けばそりゃ駆けつけるのも無理ないね。


「しかし……その道中にて誘拐されてしまったのです」


「…………は? 護衛に騎士は付いて無かったのか?」


 今は厳重警戒体制をとっている。たとえ国外のお姫様でも、護衛の数は相当のもののはずだ。


「もちろんこちらの騎士と同盟国の近衛騎士が全部で五十名は付いておりました。それに対して正面から襲い掛かり、気付けば姫のお姿を見失っていたそうです」


「さすがに三人でもそれはちょっと無理が……もしかして他にも仲間が?」


「聞いた話ですが、どうやら大量の強力なゴーレムが突然道中から現れて混戦となったとのことです。おそらく協力者が居るのでしょうね」


 まさかアレ並の奴が他にもいるのか? 勘弁して欲しいぜ。それにしても暗殺に続いて王族の誘拐か……やはり最悪の事態を巻き起こしてきたな。

 こうなるってくると目的は王家への恨み辛みか? そうなると依頼主は敵対国とかになるんだけど……うーむ、まだ判断材料が足りないか……。


「犯人からの要求は?」


「……建国にまつわる『宝剣』と言ってきました」


「それは…………」


 でかく出たな。宝剣は建国した時の重要人物のひとりである『デンゼン将軍』という豪傑が使用していたもので、この国の暗雲を切り裂いたとされる希望の象徴とされている宝物の一つだ。歴史的価値も計り知れないものだが、その剣事態も『聖剣』と呼ばれる強力な武器でもある。『魔剣』は魔法が宿る武器ならば『聖剣』はギフトの宿る剣だと言われている。そして製造が不可能とされており、この世界には十二本しかない、とても希少な剣なのだ。


「王様は答えると思いますか?」


「……我が国王様は心お優しい方ですが、身内に対してはかなり厳しいお方です。このような事態に陥れば責任を取るのは本人だと、もしかしたら突き放したかもしれません。……唯、今回の場合は応じる可能性が大きいと思います。なんせ第四王女様の嫁ぎ先は同盟国の皇太子殿下なのです。もしもなにかあっては同盟関係にひびが入りかねません」


「だけど宝剣は国の象徴でもあるのだろう?」


「剣、王冠、杖、メダルの四つを持つということが王である証。それらを渡すことで王位継承を成す。それが慣例となっています。しかし今の王は古い形式に敬意を払えど、国民の損得を優先させるでしょう…………ね」


「国に亀裂が入るよりは、多少揺らいだほうがマシか……」


 合理的ではあるな。でも政治的という意味では結構な致命傷な気がするな。責任問題として追求はあるだろうし、王族の威光もやや弱まってしまうだろう。王族達はしっかりしてるし、貴族の上位陣も人材豊富だ。しかし全てがそうであるわけじゃない。過半数、いや七割以上のものは富と名誉の為動いている者だ。混乱を好機と見て利権と権威を掠め取ろうと躍起になるものは少なくないだろう。

 騎士団に続き、貴族側にも混乱を招き。その結果国内にもその余波は広がっていくだろう。こうなってくるとこの混乱こそが目的のような気がしてくるが……何の為に? やはりこの国を敵と見なしている国の暗躍なのか? それとも商業的な敵? 駄目だ判断するには穴が大きすぎる。


「受け渡しの指定はありましたか?」


「期日は明日の正午までで、場所はストラック平原と要求してきました」


「ストラック平原ってブローナスの北側に広がるあれだよね? むちゃくちゃ広いはずだけど、細かい指定は無かったの?」


「私もそう思いましたけど、来れば分かるとしか送られてきた書状には書いてなかったそうです」


「おとなしく返してくれると思います?」


「取引を行うのは、騎士団所属の女性で『虚偽のギフト』という力を持っています。相手が嘘をつけばすぐにわかります。もしも例の『擬態のギフト』であっても彼女なら見破るでしょう」


 それまた嫌なギフトだなぁ。尋問とかすごく楽できそう。


「彼女は騎士団でも最重要人物の一人なんですけど、今回の事件解決にはあらゆる手段を講じてよいと勅命が下っています。騎士団も全力で犯人を捕まえるでしょうね」


 なるほど、なんとも相性の良いギフト使いがいたもんだ。


「今度は俺らは付いて行けますかね」


「また行かれるのですか!? 姫様が戻り次第、今度は百人以上の騎士が投入される予定なんですよ!?」


「五十人の囲みから奴等は姫さんを攫ってみせたんでしょ? もしかしたら撃退は出来ないとしても逃げおおせる可能性はあると思います」


 というよりも、あいつらはそうなることぐらい想定しているだろう。


「万に一つも無いと思いますけどねぇ。分かりました、かなりと遠目に付いていくことになると思いますけどバイアス公爵に許可を頂いておきます。現場の状況は私がいつも通り鳥でも飛ばして見張っておきましょう」


「ありがとうフェズさん」


「いえ、キドーさんのこういう関連の勘はよく当たりますからね」







 薄暗い曇り空の広がった次の日。宝剣の受け渡しをする数名の騎士と、その後賊を捕らえるために動く多数の騎士が準備を整え門から出発していった。俺らも遅れて馬車で出発して後をつけるつもりだ。準備万端な状態の俺とマイア、そしてフィリーにコウジンまで連れた豪華フルメンバーだ。なんだが…………。


「なんで彼女がいるのでしょうかフェズさん?」


 なぜか俺らの前に、紅玉騎士団の副長であるオデット・ポレヴァンヌが乗り込んでいた。


「いや~実はバイアス公爵からの支持でして、さすがにあの現場に私達だけで乗り込むのは難しいので、彼女についてきてもらうことになりまして…………」


 俺とフェルダナ男爵はチラリとオデット女史を横目で視線を向ける。色々突っ込みどころはあるのだけど、何より彼女が見るからに不機嫌なのだ。というか超怖い。


「心配せずとも、私はお前達の詳細は教えてもらったし、その行動に口を挟むつもりも無い。汚名を返上できるのであれば、裏方であろうと全力で協力すると約束しよう」


 こないだの一件で奴等を取り逃がした事を気にしているのか……。あれのせいで騎士団が貴族の槍玉に挙げられてるもんね。


「大丈夫なの?」


「多分……」


 選択肢は他にはないけど、俺達裏側の人間が表の騎士と連携をとるのは些か気が引けるなぁ。


「それに私は常々シャドーフィストの正体と目的には興味を持っていたのだ。それがまさかこんな青年だったとは驚きだな。しかも今ではバイアス公爵様の肝いりとは恐れ入るよ、キドー君」


 言動こそ「私は貴方のファンなんです」と言ってはいるけど、その目は完全に獲物を狙う目だ。好感を持たれていると分かってるのに、マイナス感情が働くのはエッジと同じだな。そんなに俺はおいしそうに見えるのか?


「まあいっか。マイアもいいよな」


「妾は相手を存分にぶん殴れるのであれば問題ない。今日こそ渾身の力で抉ってくれるわ!」


 脳筋は説得が楽でいいね。


「では納得して頂いた所で出発いたしますか」


 フェズさんが馬車を運転して、俺らはブローナスを出発した。







 道すがらオデットさんと戦闘に入ることを想定して、お互いの戦力を確認し合った。もちろん隠しておきたい手札はお互いに伏せはしたが、得意な戦法や戦い方などを教えあって連携などを話した。その際にコウジンとフィリーを紹介した時は、流石に騎士団副長である彼女も驚いていた。


「まさか精霊使いが仲間にいるとは……」


 実はマイアのように精霊を仲間に従えている者はすさまじく希少だ。国内に一人か二人いる程度だろう。たとえ精霊の多く住むリーンバーグ出身といってもその数は決して多くは無い。しかも複数同時に従えているとなると、世界中探しても片手ほどしかいないだろう。おまけにフィリーとコウジンは精霊種の中でも高位に位置する者たちだ。世界屈指の騎士団でも驚いて当然だろう。

 今はストラック平原に入った場所辺りで留まっている。フェルダナ男爵がいつものように偵察を放っているが、今回はジョイントを使って視覚の共有はしないでいる。それというのも、広範囲を索敵するためにフェルダナ男爵は複数同時に憑依をするという荒業を慣行しているからだ。それらを操作するためには多大な集中力を必要とするために、ジョイントを使う余裕がないのだ。


「暇じゃのー」


「まあ平原に入って既に三時間も経過してるしね。っていうか正午過ぎてるよね」


「場所を指定してるといっても、この平原はブローナスの十倍からの広さがあるのだ。遅れていることすら計算の上と考えた方が無難だな」


「確かに」


 平原のとこかに目印を作ってそこを指定するならまだしも、見渡す限り草原のこの場所をどうして指名したのだろうか? 身を隠す場所が無いから伏してある騎士団が近づけない利点はあるだろうけど、逃げるとなった時に不利になる可能性も大いにあると思うんだが。


「……動きがありました。どうやら場所を変える模様です」


「そうきたか……」


 昔刑事ドラマでよく見た展開だ。後ろに警察なんかがついてると分かっているなら、受け渡し場所を次々と変えて撹乱して、その隙をついて犯行を実行する。


「場所とか分かります」


「ちょっと待って下さい。………………旧ローランド砦」


「ふんっ、憎々しいことだが流石と言った選択だな」


「ごめんオデットさん。おれそのローランド砦ってのよく知らないんだけど」


「いいだろう少し説明してやろう。ローランド砦は百年ほど前、来たのスレイフという国と戦争が続いた時に作られた砦だ。特徴は山の頂上に作られているという所かな。整備された道は北と南に走る二本だけしかない。もしも険しい山岳をあの擬態のギフトを駆使して逃げられれば、追うのは困難を極めるだろうな。しかもあの砦からスレイフまでの国境は目と鼻の先だ。もしもそちらに入られれば騎士に追う術は無い」


「協力を要請することはできないんですか?」


「昔戦があって以降は友好的とは呼べん間柄だ。もしも協力したとしても、その動きは鈍いだろうし、あちら任せになるのは目にみえるな」


 嫌いな相手が喜ぶまねはしたくはない……か。


「だが……ある意味我々に出番が回ると喜んでもいいのかもしれないな」


 俺らは風の精霊二体に、索敵のスペシャリストのフェルダナ男爵を仲間に従えている。なんとか国境側に回り込めればなんとか…………。

 今度こそ決死で奴等を止めるとみなが覚悟したのを、その場の静寂が示していた。

メリクリメリクリ。


作者は現在投稿用の小説を執筆中ですん。年明けは更新が遅くなりそうです。

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