第一話 混乱の導き手
あの三人組がなぜ態々騎士団を誘う込み迎え撃ったのかが俺は謎で仕方なかったのだが、その理由はすぐに分かった。まさかの騎士団が犯人を取り逃がすという報が広がると、その波紋はいろんな場所に影響を与えた。街の人々は事の重大さが増した事により、一層の不安が人々にのしかかり、表に出歩く人すら少なくなってしまっていた。貴族連中は先に出ていた責任問題が更に激化し、その矛先は失態をした騎士団にも及んでいた。どうやら騎士派の貴族と、領主派の貴族は相反する派閥らしく好機があればこのような揚げ足取りに精を出すらしい。面倒くさい事この上ないが、そこまで計算して騎士を狙い撃ちにした可能性だって、奴等なら考えられる。そして更には情報の錯乱状態ともいうべき噂の入り乱れが発生した。不安の為にそれが出るのは分かるが、物によっては出所不明の話や、機密事項に触れるような物までまじっている。さらにはこんな時に限って別の犯罪情報や指名手配犯の目撃情報なんかが飛び交い出していた。この蜂の巣をつついたような、マイナス方向の慌ただしさを狙っていたとするならば、奴等の狡猾さと手の長さは想像以上のものだということになる。国を相手取って戦っても勝算があると見込んでいる自信すら感じさせる。
現にあの三人のギフトだけでも恐ろしい物だった。エッジと呼ばれる紫髪の男は、切れない筈の物まで切ってしまうという力。あの筋肉隆々の巨人はおそらく自動再生能力。そしてマイアによってほぼ確定したケープという女のギフト『擬態のギフト』。周りの風景に溶け込み、まるでそこに居ない、もしくは別のものに見せかけるギフト。マイア曰く――
「やつの見えない攻撃をその動作から予測して妾の目で追っておるとな、ほんの僅かだが空間に歪みが見えたのよ。そしてあの突入した部隊の後ろに突然現れた巨体の男や、ブロニアス王を暗殺したときの魔方陣が見つけれなんだことを考えると、そのギフトが当てはまる。過去に妾の国の住人がこのギフトを所有していた者がおっての、その記録を読んで知っておるから間違いないじゃろう。しかし、分かっても面倒だぞこの能力は。動いておるなら多少見破れもしようが、止まっているとなると妾のような特殊な目の持ち主でさえ騙される」
だそうで、強制的に相手の目を騙すことが出来るようだ。今まで逃走し続けてこれているのも、目撃情報すら無いのもそのギフトのお陰なのだろう。もちろんこの話は騎士団の方にも伝えてあるのだが、あれから三日経ったのになんの成果も上がっていないところを見ると苦戦を強いられているのが分かる。対策はあるにはあるのだが、あの三人ならば対策の対策ぐらい持っていそうだ。
三日の間、俺はひたすらに飛び交う犯罪情報の成否を確認する作業に追われていた。敵の流す欺瞞情報だというのは分かってはいても、一つでも正しい情報があっては後々に響くことになりかねない。もちろん奴等の今後の行動についても検討と対策はしていたが、尻尾どころか影さえ見せなくなり騎士団を煙に巻く奴等を、俺一人でどうこうできるはずもない。
散々街中を走り回った俺は疲れ果ててフクロウ本部の椅子に腰掛ける。
「お疲れ様です」
俺が来たことに気付いたフェズさんが地下から上がってきた。
「この活動をすることに不満は無いですけど、こうも忙しいのは困っちゃいますね」
「そうですね。戦乱を除けば、ここまでこの国が混乱しているのは初めてに思えます」
このブロニアスは世界でも三本の指に入る大きな国で、しかも今最も安定して繁栄を重ねている国でもある。王様、騎士団、貴族とかなりの人材を揃えているのにも関わらず、たった三人にかき乱されているのだからなんとも異常な話だ。
「どうですか依頼者の絞り込みの方は?」
「予定通りに進行しています。そちらの方はどうでした?」
フェズさんは紅茶の用意をしながら話を続ける。
「今出ている話の真偽で調べなきゃならないのは確かめたんですけどね。俺の調べた中には本物は混じっていませんでしたね。ただちょっとした犯罪情報を警備隊の方で調べた中には本物が混じっていたらしいですけど」
「全部が偽物であってくれれば楽で良かったんですけど…………やはり混ぜてきましたか」
「本当にこういう搦め手の旨さに舌を巻きそうになります。ただ奴等を調べる方法を思い付いて、昨日から実施しているので、もしかしたら何か掴めるかもしれません」
「ほんとうですか!?」
あの『擬態のギフト』の天敵は風の精霊なのだ。あのギフトは視覚を騙すもので、他の五感を誤魔化すことが出来ない。しかし風の精霊は、自分の周囲の風の流れを把握することができるので、目に映る景色と風の流れが合わない場所を照らしあわせれば、能力を使用している場所がまるわかりになるのだ。つまりコウジンやフィリーに、能力が使われている所を探してもらうのが調べる方法なのだ。今はフィリーに街中を手当たり次第に調べてもらっている。あの三人を見つけるのは無理かもしれないが、もしかしたら予備のアジトぐらいは出てくるかもしれない。
「どんな結果が出るかはわかりませんけどね。それにしても相手の底知れない実力を感じていけばいくほど、最終目標が何なのか怖くなっていくなぁ」
一段階くらいは下がるかもしれないが、国王暗殺並の出来事をもう一度起こしそうで気が気でない。おそらく騎士団やバイアス公爵なんかも同じ事を考えているだろう。今だに余裕を見せながら姿を隠し、さらに欺瞞情報を流して何かの機を伺っているとしか思えない。まるで背後から肉食獣の足音だけが聞こえてくるようだ。
「まっ悩んだ所でやることは変わりないし、紅茶で一服したらまた街を周ってきますか」
国王暗殺以来、ブローナスは静寂に包まれている。大通りこそそれなりの人が行き交うものの、裏通りには昼間でさえまばらにしか人は通らない。歩いていたとしても、集団で動いているか、俺のように武器を所持した戦士風の者ばかりだ。
しかし人の往来が減少したというのに、噂が街を駆け巡っている。これも不安を少しでも紛らわしたい住民たちの僅かながらの行動なのだろう。溺れるものは藁をも掴むというが、今の進展しない状況中ではどんな話でも知っていたいし、聞かないわけにはいかない。まあそのお陰で欺瞞情報が出回って、俺や情報ギルドのメンバーなんかが奔走するはめになってるわけだけど。
しばらく歩いて街の様子を観察した後、よく昼食をいただく飯屋に入店する。
「いらっしゃい!」
「オガナ魚定食一つお願いします」
「かしこまりましたー」
ここの飯はお手頃価格な上にかなりのボリュームと味を提供してくれる。その影響か昼も夜も三十席ほどの客席はいつも満員に近い。今は昼間から結構過ぎているのでそこまで多くはないが、それでも三割程は埋まっている。
「あら久しぶりね」
食事が出来るのを待っていると声を掛けられた。そちらへ振り返ると見知った顔、マリナおばさんがそこにいた。
「あ、どうも。建国祭の後にこの騒動ですからね。お互い忙しい身でしょうから」
マリナおばさんは情報ギルドの幹部だったらしく、俺との面識があるところからフクロウとの仲介役を任されている。
「そうね。建国祭が開催されている間は収穫が豊富で嬉しい忙しさだったんだけどね。今はあるかどうかも分からない事を確認して封鎖していかなきゃならないなんて、はっきり言って嫌な仕事よ」
さらっと他人がこの会話を聞いても、情報ギルドである事を臭わせない会話をするとは、流石この道の百戦錬磨といったところなんだろうか。
「こっちの方もあまりぱっとした話は無いですね。三日前のアレも上手くいきませんでしたし」
「ああ、アレね。あなたとマイア、それに彼女たちが全員があしらわれたなんて今でも信じられないわ。その面子で出来ない仕事を探す方が難しいくらいなのに……」
そうだね。もしもあの場にいた人で仕事したら冒険者ギルドの最高峰、セイントソードでさえ捕獲できただろうにね。なんで失敗したんだろうね。
「なにか進展ありましたか?」
「そうね……混乱を招く類のものは処理できたし、新しいものはこれといって無くなったわね。推測だけどこれの火種が巻かれたのはアレから直ぐの物ばかりで、あとは出まわるのが遅いか早いかの違いだったと思うわ」
アレ……国王暗殺の後からか……。確か最初に出た噂の犯人第一王子説もその頃にでたっけか。
「あと嘘の類の話は、当たりは今のとこ二件だけね。数だけなら二十件ぐらい出てるから、色んな人が振り回されてるけど」
「その振り回されている人に俺も入りますけどね」
当たりを態と仕込まれたら、たとえどんなに不確かな物でも知らべざるを得ない。本当に人を翻弄するのが旨い奴等だ。
「そういう事で私達はやっと少し手が空きそうになってきたわね」
「そうです――――ちょっと失礼」
突然フィリーから感覚共有魔法の許可が来た。少し席を立ち表に出る。
「どうな塩梅だった?」
「えっとねー朝から色々回ってみて今のとこ三箇所変な所を見つけたよ。建物二軒と隠してあった荷物だよー」
半日の結果としては凄く大きい成果が出たな。
「サンキューなフィリー。ちゃんと果物のハチミツ漬けシリーズは買って買えるからな」
「フヒュヒュ。想像するだけでヨダレが出ちゃいそうなの。楽しにしてるからねー。じゃあ先に家に帰っとくからー通信終わり!」
ジョイントの効果が打ち切られる。俺は再び店に入り元の席へと戻る。
「なにかあった?」
「すいません。やっと手が空いたと思いますけど仕事をお願いすることになりそうです」
「……まあ成果の上がるような仕事なら文句は無いわよ」
「例の奴の住処が一部判明しましたので、そこを調べた後に処理しといて頂きたい」
「へーやり甲斐の有りそうな仕事ね。そういう話なら喜んでやっちゃうわ」
「詳細はまとめてから連絡します」
「分かったわ。取り敢えず私も一旦お店に戻るからそっちに連絡頂戴」
そう言ってマイアさんは退店していった。そこで俺が注文していた定食が届いた。さてさっさと食べて、ハチミツ漬け買って、家に戻りましょうかね。
長かったので章を分けました。むだに長いよこの章。




