第六話 明日のために
そんなこんなで、今後の方針はだいぶ固めることが出来た。まず家の完成を目指す事を基本としていき、ジョイとミミルの仕事をたまに手伝い、貯蓄金額が五万ディクスを切ったら家の建造を一旦停止して、金を本格的に稼ぐ。それと平行して情報ギルドの仕事をしていく事を、これからの活動プロセスにしていこうと決めた。
家は不完全なところもいいところなので、早く完成させたいので当然最優先。ジョイ達を手伝うのは当たり前だし、五万ディクスを切ったらキツイのは前に述べた通りだ。そして情報収集活動については積極的にしていくつもりだ。
元から悪党を見つけるためには必要な行為ではあったし、ここには情報ギルドというものがあり、その話によってはかなりの金額を得る事が出来る。しかも信頼度を上げていけば、逆に向こうからの情報提供にも期待が持てるようだ。それならば、俺の探す図悪党の情報だって得る機会があるかもしれない。その証拠にゲイロス一味の情報報酬を受取りに行った時、マリナおばさんに詳細を少しだけ聞いてみると、どうやら犯罪に対する情報の金額は、他の情報に比べればやや高かった。情報ギルドがその系統に対して力を入れているのがよく分かる。結局俺の売った情報の金額だって三万五千ディクスにもなったのでかなりのものだろう。
あまりに高い気もしたのでマリナさんに聞いてみたが。
「一つの情報を確定することで、色んな情報が手に入ることもあるのよ。キドー君が売ってくれた情報も、そんな類の情報だったわけ。おかげで面白いことが色々わかって助かったわ」
俺一人の活動なんてたかが知れているのだ、専門家にお任せする方がこちらの都合としてもいい。収集した情報を組み合わせ、何かを導き出すっていうのは得意だと思うが、集めれる数には限界があるし、街の事情も、つてもない俺では運に頼るところが大きい。これはまさに渡りに船というやつだろう。いや、実際その規模と実力からすれば渡りに軍艦かな? 本当にラッキーな出会いだったな。
情報収集に関してはちょっとした自信がある。なんせ地球で俺の生きた世は情報という名が付いた時代だった。情報の有用性はその身に感じるほどに理解している。機械の勉強に邁進していた俺の学習速度も、図書館、専門誌、インターネットの情報媒介が安易に利用で来たことで、その速さは飛躍的に伸びていたことは確定的に明らかだった。
こちらでいう生まれた時からもつ魔力の感覚の代わりに、俺は情報の感覚を持ち合わせていると言えるだろう。使いこなせてはいないけど。
そういえば忘れれられているかもしれないが、ヨルガの森で獲得していた熊の皮などは全て販売した。全部をジーニーさんのとこに売るのは流石に目立つので、他の五商家にそれぞれ分けて販売した。
五商家はボライアズ家の他には建築のナルバ家、食品のノーイエリス家、武具のグライス家、貿易のロナイホーン家というのがある。それぞれ得意分野で活躍しつつ、手広く商売をしているそうだ。ちなみにボライアズ家は資材販売を得意としていて、なんでも石切場と鉄鉱石採掘所が、ほぼ同時期に取り尽くしによる閉鎖が相次いでしまい、家が傾いたとジーニーさんが苦笑しながら説明してくれた。そこでジーニーさんが、新しく色んな販売ルートを開発して、なんとか持ち直したそうだ。
まあボライアズ家に持ち込んだ時のように、頭首クラスどころか、一族の一員が対応することは一度もなかった。失礼に見えるかもしれないが、お得意様ならともかく、有象無象の相手を一々相手に出来るほど暇ではないから五商家なのだ。
どっちかというと、度々俺と会ってくれるジーニーさんのほうが異端であるのだよ。ジーニーさんもかなりの変わり者なんだろうね。アレだアレ、「類は友を呼ぶ」ってやつなんだろう。
そして今回は本当に金欠が大変だったので遂にアレを売ろうと決断したのだ。
「キドーさんは体が全部ビックリ箱で出来て居るのかもしれませんね」
俺の持ち込んだサーベルタイガー、正式名称ワイルドカッターの毛皮を鑑定し終え、俺と午後のお茶を楽しんでいたジーニーさんが偉く失礼な事を言い出した。でも、こないだトウカにもおんなじような事言われたな。……おかしいな俺的にはまだまだ自重しているつもりなのだが。
「そういえばサーベルの部分はどうされました?」
「あれは加工してから販売しようと思ってるんですよ」
一応この魔物達の素材は知り合いの人が集めてきたという設定なのですが、ホントは自分で使う気満々です。
「なるほど、あれは鉄すら切り裂くと言われる素材ですからね」
ジョーンさんとは大体週一ペースでお茶に招かれてこうやって談笑している。今回はついでに商談も行った次第だ。
「それでお願いがあるんですけど。この商品の販売を依頼した方は、前も言った通りあまりこちらでは有名に成りたくない事情がありまして。なのでまだワイルドカッターの懸賞金は受け取って居ないのですよ」
「なるほど、それを私が受け取ってこれば良いのですね?」
「報酬の方は折半で構いませんので」
「いやいや、この魔獣を倒したことの労力は相当なもののはず。代わりに受け取るだけの行為に、そこまでの報酬を頂くわけには行きませんよ。割合はそちらが九、こちらが一で結構ですよ」
商人って業突く張りなイメージなんだけど、ホントこの人いい人だわー。なんでここまで気に入られているのは大いに謎だが。
「どうです最近は?」
「いやー新しい事業はやっと軌道に乗ってほっとしているんですが、不景気な話もあって困っていますね~」
「何かあったんですか?」
「実は家が管理している鉄鉱所の近くで、魔獣が出没して作業効率が激減していまして、ほとんど動いてないも同然なんですよ」
「冒険者ギルドに依頼は?」
「それがこの魔獣はかなり多い上に凄く逃げ足が早くて。何匹かは討伐したもののその度に学習しているらしく、今では冒険者が近寄ると全く出てこなくなってしまいました。しかし労働者だけになると狙って出てくるという厄介なヤツらでして難航していますね」
ふむ、あのベアーハッグも連携してたし、多少頭の良いリーダー格が統率している群れがいるんだったらそれくらいはするのかな、魔獣って。
そうだ。色んな試みをしてみるのには、これは都合がいいんじゃなかろうか?
「どうでしょう、このワイルドカッターを倒したチームに依頼してみるというのは? チームの一員には猟師を生業にする者がいたはずなので、逃げた先を追跡して巣を直接叩くなんてことも出来ると思うんですけど?」
チームを組んで一週間経過していたが、その間に二度ほど既に依頼をこなしてジョイの猟にも一度同行させてもらっていた。猪突猛進タイプのジョイに、隠密性の重要な猟師が出来るのかと不安であったが、思いの外猟師としての才能はかなりのものだった。知識はまだそこそこでしかないが、とてつもなく感覚が鋭いので、気配察知や探索行動などがとても上手かった。それに身の軽さにかけてはかなりの者で、弓師としてはすでに一人前と言える程だった。それがどこまで通用する高さにあるのかを、一度限界まで測っておきたかったのだ。
なんせ今俺は、ジョイの戦闘技術の指導を頼まれている、師匠的位置にいた。空手以外はとてもじゃないが、教えることができないと一度は断ったのだが、その熱心さに負けてジョイが強くなるための方策を検討中だった。
他にも実践のために俺が試行錯誤して作っている戦法や、魔法の使い方が大量にあるので、いくつか試すのも悪くないだろう。
「なるほど……猟師ですか……。問題の魔獣は犬型で、今まで逃げていく先は森の中だった為に、その機動力に振り回されていたようです。しかし痕跡から後を追える、森の専門家である猟師ならば、もしかするかもしれませんね。戦闘能力においてもワイルドカッターを倒せるほどの力があれば、申し分無いですし」
ふむふむと言いながら、思考の海に入って呟いているジーニーさん。冒険者の仕事なんて完全に範囲外のことなのに、よく頭がそんなに回るな~。
「いいですねそれ。是非お願いしたいです」
「わかりました。それでは俺が直接お願いしておくますのでそちらは冒険者ギルドにジョイというこの街所属のソード級の冒険者宛に指名して依頼を出しておいてください」
ソード級とは冒険者ギルドのランクで、下からダガー、ソード、クレイモア、ハルバード、セイントソードの五段階になっている。
「了解です」
ジョイについてのツッコミは無し。ほんと空気も読んでくれるわこの人。
さあ人を助けながら、少年少女二人の可能性を確かめて、俺の戦いの手札も試しつつ、しっかりと働こうじゃないか。