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3.ジョナンノソウ

メールの返信を終えて、ふぅーと一息つく

ミッタンの後にミッシェルさんからもメールが来るとは……

少し席を外しただけのつもりが、随分と時間がかかってしまった

メールだけでは物足りず、電話までしたのが余計だったな

席に戻ったら誰もいない

会計も済ませているのか、あいつらには悪いことをしたものだ

と言うか、少しくらい待ってくれてもいいだろうに

そう思うと薄情な奴らだ

アイツくらいは残ってくれても……

会計もアイツだろうな

“濡れ鼠野郎”はそんな気が利くやつじゃない

ビール塗れでそれどころじゃないだろうし

ため息を一つ

何だか飲み足りない気もするが、今日のところは素直に帰るとするか……

明日、起きてからアイツには連絡を入れてみよう







翌日、目が覚めると昼近くだった。

思ったより深酒だったらしい……

枕元に転がっていたペットボトルを取り、水を飲む


ごくっ、ごくごくごく


ペットボトルの水を飲み干し、スマホを手に取る

アイツに電話をしてみる

…………

………

……

…


メッセージガイダンスが流れてきた


仕事中か?

もう一度試してみるか?メールにしようか?

そう考えるが、こんなことに結論が出ない

まだ寝ぼけているのか?

それにしてものどが渇く

ペットボトルを見ると、水はもう残ってない


?


2リットルの容量の多い水なんかいつ買っただろうか?

キャップは……簡単に開いたな

2リットルも飲んで、まだのどが渇くか?

飲みかけだった?

そう言えば持った感覚は軽かった

ペットボトルを手に考える

いや、買ってない

そもそもコンビニにも寄ってない

帰ってシャワーも浴びずに寝た


「ぷっ……」


何か堪えたような声が聞こえた

ベッドの、自分の脇を思わず見る

いるはずがない、昨日は女を連れ込んでなどいない

気のせいか?


「ぷふぅ、くく……あははははははは!」


耳が痛くなるほどの、笑い声

甲高くどこか調子っぱずれの不協和音

思わず耳だけでなく目も瞑ってしまう


「はぁ……あは?」


目を開く

白いシーツと壁……?

幻聴?


「そんなワケないじゃないですか」


声の主を見る

ベッドに頬杖をついた、あの女占い師がちょこんと座っていた


「あ、別にあなたにお持ち帰りされた訳じゃありませんよ、ご心配なく」


とニコリと目だけで笑う

口元を覆うベールが微かに揺れていた

息を吸い直し、オマエ……と声を出そうとすると、口元に白い指が一本、人差し指が突き付けられた

「し~~~~っ」


指先がわずかに触た

恐ろしく冷たかった


「ご近所迷惑になりますよ」


ゴクッとのどが鳴って、文字通り言葉を飲んだ


「どうせどうやって入った?とか、何でここにいる?みたいなこと言おうとしたんでしょうけど……そんなテンプレはもう飽き飽きですよ」


やれやれと女は首を振り、態度で示した

無性に腹が立つが、なにも動けない


「ところで、お水美味しかったですか?」


「み、みず……水?」

「要領を得ませんねぇ~」


女はペットボトルを指す


「ソレ、末期の水のおっそわけですよ」


「?」


「大丈夫!間接キスではありません!モチロン!私とじゃないですよ、彼はペットボトルに口をつけてませんから」


最初から最後まで何を言ってるのかわからない


「あれ?水と言えば彼じゃないですか、“濡れ鼠野郎”」


ケタケタとベールを震わせて笑っている


「ビールを被った彼ですよ」


「お前が……水難の相って」


「ええ、溺れました!ペットボトルの水溜まりで!」


やっぱり水難の相でしたね、と小首を傾げて見せる

カクっと音が聞こえるように、さらに首を傾げ顔を覗き込んでくる

墨汁を、白い紙に垂らしたような瞳


「大丈夫、きっと彼は先に待ってくれてますよ。いつものようにイロイロ準備してくれてますって」


「お前はさっきから何を言っている!?待ってる?どこでだよ!?何をしたんだよ!?」


「いやいや。意外に察しが悪いですね」


ベールがふわっと動く

どうやらため息をついたようだ


「これならまだもう一人の彼の方が物分かりが良かった」


無造作に女は何かをこちらに放り投げてきた

ぽすっとシーツに落ちる


ナイフ?


冷え冷えとした、でもどこか曇り濁ったナイフ


「さあ、まずは懺悔の時間ですよ!」


「……ザンゲ……」

女はすくっと立ち上がり、ゆっくりとベッドを回る

部屋の端の、脱いだ衣服を投げ掛けた椅子の前に立ち、ためらいもなくその衣服を放り投げた。


ドカッ!


とそこに座ると、優雅に足を組む


「さて、あなたにとって女難って何ですかね?ココから私、語ってイイですか?イイですよね、では……!」



あなた実は、女嫌いですよね?

ああ、違うか。

ただ女性に興味がない

もっと言うと、ある人以外ショージキ人間なんて興味がない、どうでもいい

だから、簡単に女性を弄び、捨てる

飽きたマンガや、ゲームのように

ああ、そうか!

むしろ女性が憎い!

だからただ弄び捨てるのでなく、ボロボロになるように仕向ける

あの人に愛される可能性がある

ただそれだけで女が憎い!

いやいや鬼畜極まってますね

それでアレですか?

血のつながり、同じような遺伝子、面影が似ている

そんな理由で友人の妹に手を出したんですか?



「やめろっ!」


「やめませんよ。ここでやめたらそれこそ彼の存在が無意味になる」


「彼……?」


「あなたが真に愛していた友人(笑)」


「ソンザイノキキって……お前、あいつに何をした!!」

「え、妹さんが亡くなったこととその原因かな?ってことをお伝えしましたけど?」


「え?あの子が何で?死んだ……?」


「おやおや、あなたも妹さんの自殺知らなかったんですか。これじゃあ妹さんも浮かばれませんね。まあ、今知ったし、コレはコレで彼も浮かばれるでしょう」


女はふいっとナイフを見る

白いシーツの上で、それは軽く沈んでいた


「で、それです」


「それって……ナイフのことか?」


「何でも聞いたら答えてくれると思わないことです」


ドヤッと女はそう言った


「そのナイフ、ついさっきまで新品だったんですけどね~。ぴかぴかで、月影で青く光るほどだったんですけどね」


とてもそうは見えなかった

何と言うか油か何かが拭いきれてない、そんな濁りがあった


「まあ、切れ味は証明済みです!私、良い目利きしました」





「あ、そんな目で見ないでくれます?私が使用した訳じゃありませんよ、人を猟奇殺人鬼みたいに」


「誰が使った……?それに、前の質問にも答えてないよな?」


「偉そうですね、何様ですかってハナシですよ。だから、何でも答えてあげませんって!少しは想像力を稼働させてくださいよ」


そこで女は肩をすくめて見せた


「ま、クイズ番組でもないですしね、いいですよもう、考えなくって」


くすくすと笑い声が響く


「ま、また私が語っちゃうんですけどね」




こほん、コホン

えーと

妹のことは何も知らず、気付かなかった自分にも責任がある

お前がオレの妹と付き合っているのも気付けなかったんだから

お前ら二人を笑って祝福できれば良かったと、本当に思ってる

お前のことを責める資格も勇気もオレにはない

ただ、両親には謝罪して欲しい

こんな言葉しか今のオレには残せない



天井のどこかを見つめて話していた女が、すっと自分を見る


「コレガあなたの最愛の人(笑)の最後の言葉です」


そう言うと、女はまたナイフをちらりと見た


「私の期待した使用用途と違いましたが、あなたを追い詰める材料にはなりましたかね」


ケタケタと笑いだす

何がそんなに可笑しいのか、頭を上下させて笑い続け、頭を抱えるようにしてもまだ笑う


はらり


とベールが外れ床に広がる

頭を抱え、うつむいたまま


「で、あなたはどうします?懺悔はまだ終わってませんよ」


と言った。


「何でこんなことを?復讐か!?なら何で俺だけを狙わない!??」


「何を言ってるんですか。だって、誰がこれ悪いんです?卵先か鶏が先かですよ」


「何でこんな回りくどいことを!?なんでなんで……!!」


「あは……だって、その方がみんな苦しむじゃないですか」


占い師の女が、ゆっくりと身体を起こした。


「で、あなたはそのナイフどうします?」


了


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