二十話「手がかり」★
★は王太子の視点です。
エリスティアが、王都ヴァランクールから姿を消して二十五日目。オッペンハイム三兄弟を当てにしても埒が明かないので、別の手立てを投じることにした。
まず、王家に仕える使用人を応接間に集合させ、一人一人に故郷を尋ねる。王都や近郊の出身者を除き、四方に散らばるように数名ずつ選出する。その者の家族や友人、知人を紹介してもらい、その者のもとへ転移魔法で使いを出して直接話を聞きに行く、といった方法だ。
どんな内容でもかまわないから、最近、なにか変わったことがなかったかを質問する。必ず僕に報告するように指示を出した。
さっそく、生まれつき魔力が多く転移魔法を得意とする従者たちを向かわせたところ、至極どうでもいい内容ばかりが集まってしまった。好きな人との結婚が決まっただの、一歳の息子が歩いただの、六つになる娘の歯が抜けただの、減量に成功しただの、自分で聞いておきながらうんざりしてしまった。申し訳ないが、今は他人の幸せを一緒に喜ぶ余裕はない。
さらに人員を増やし、第二陣が戻り始めたが、内容は大差なかった。動物を飼い始めただとか、孫が生まれただとか、そういったものが大半を占めていた。
この方法は失敗だっただろうかと、肩を落としかけたその時。席を外していた側近が、慌てて僕の執務室へと戻ってきた。
「アルディオン様! 至急、ご報告があります!」
「なんだ?」
「独自に調べていたのですが、北部を中心に商売している肉屋の店主によりますと、近日、水魔法を操る少女が現れ、水不足の農村を救済して回っている、とのことです!」
「なんだって!?」
ようやく有力な情報が舞い込んだ。オッペンハイム公爵の領地は北ではなく南だ。公爵家から離れる意思があるのならば、知人に遭遇する可能性のある南は選ばないだろう。
それに、エリスティアは水の精霊と契約している。少女という証言とも合っている。
自らの領地に住まう民のために、魔力を使う貴族は存在する。力を貸せば、領民の生産性があがって利益に繋がるからだ。
けれど、側近は『農村』と言っているので、治めているのは領主ではなく、村長または教会のはずだ。利益にならない村民のために、魔力を使うような貴族はほぼいない。
……間違いない。彼女だ!!
北上している最中に、立ち寄った村が日照りで困っていることを知り、出し惜しみすることなく力を使う姿を想像するのは容易だ。
実際、ヴァランクールの公園を散歩している姿を見かけ、声をかけるかどうか迷ったことがあった。その時、走っていた子どもが盛大に転び、うわーーんと大声で泣き出した。すぐさま駆け寄った彼女は、水を出して膝を綺麗にし、持っていたハンカチで結んであげていた。そんな優しい一面があるんだ。目撃していたのは僕だけで、そこに打算のようなものは一切感じられなかった。
ここは、なにがなんでも確かめに行くべきだ。
「それなら僕が──」
「アルディオン様。私が先に確認して参ります」
「…………任せた」
自ら行きたいところだが、遮られてしまったので諦めた。僕が向かうとなると、安全面を考慮するようにまず言われてしまう。王位継承権を持つ立場ゆえに、こればかりはどうしようもない。
本当は、なりふり構わず飛び出して、一目だけでもいいからエリスティアの姿を拝みたい。元気な姿を目にしたい。
だが、王太子というものは、この国で一番恵まれているようで、実際は不自由で窮屈だ。いなくなった、たった一人の婚約者すら探しに行くことも許されない。学業に、公務に、交流にと、やるべきことが山ほどある。
「……確認が取れたら、すぐに戻ってくるように」
「御意」
北部で深刻な水不足が発生しているという報告は、王都には届いていない。王都から離れた農村で起こっているからだ。自給自足で暮らす村民たちは、よそものを好まず距離を置くものだ。だから困ったことが起きても、情報の伝達が遅れてしまう。魔力を持つものが一人もいないので瞬間移動は使えないし、配属された教会の司祭は、少しばかりの治癒ができる程度だ。
情報提供者に接触し、北部に点在する村を虱潰しに当たる必要があるため、確かめるには二、三日は要するだろう。
もどかしいが、ここは任せるしかなかった。
オーガストのように風の精霊と契約し、魔力を探知できるのならばもっと早く割り出せただろう。けれど、使える者は滅多にいないし、本人に頼もうにもまったく捕まらないので諦めている。
僕が、首をうんと長くするほど待ち望んでいた続報が届くのは、二日経ってからだった──。




