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きっと、そばに  作者: ミソラ


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ヴィドルバン帝国①2

「一言お許しいただければ。」

「うん?」

「妹君をこの国に戻した方が良い。」

「それは……。」

 再び内乱が起きるかもしれないということか、とアーチーは思いながら頬杖をついた。確かに、これほどの男を無実の罪で処刑したのだ。かつてベルジュラック公国と呼ばれた南部は黙っていまい。

 

「陛下の母方の祖父殿が長く患っているとか。キャレル陛下もお見舞いなどなさりたいでしょう。」

 アーチーはぴくりと眉を上げた。母方の祖父の病は政治的な理由で伏せられている。この男はなにをどこまで知っているのか。

「ふ、そうだな。」


 ジョスランはにこりと笑ってカップに口をつけた。

「ローランド国王は新たに郊外に宮殿を造営しようと計画しているようです。……南部のベルジュラックを陥れ財産を奪った。それに恐れをなした他の貴族たちはこぞって寄進し、そのために税を上げるでしょう。未だ内乱の傷跡も残っているのに。」


 ローランドは内乱に勝利を納めたことに加え、諸侯の一つであるベルジュラックを潰したことで貴族たちに恐怖を植えつけた。貴族たちは無理をしてでもローランドの要求に応えるだろう。


「なるほどなるほど……。」


 アーチーはふふっと笑って目の前の男を見据えた。この男は頑として社交界に出ようとしないが、宮殿の女官たちに騒がれ熱い視線を注がれている。近寄りがたいために遠巻きに見られているだけだが。


「……ところで余にはもう一人妹がいてな。どうだ?」

 空気を変えるように放たれた言葉にジョスランはわずかに首を傾げた。あからさまにわからない振りをしている。

「そなたも気に入ると思うのだがな。」

「あいにく私は操立てしておりましたね。妹君は次期ジスラール国王に嫁がれると良いと思いますよ。」

「公爵位も授けるが。」


 ははっと笑うジョスランを見て、アーチーは(そういえばこの男は公爵だった)と自嘲した。そこらの貴族と違ってこの男は必要以上を欲しないのだ。


「ありがたいお申し出ですが家名を奪われた海賊の身の上、多くは望みませぬ。……しかし我が願望が叶わぬのであれば次の手段を探すのみ。ああ、でも宝剣はそのままお納めくださってけっこうですよ。」


 アーチーは息を吐いて椅子に背中を預けた。

 

 国を出て海賊に身をやつしているとはいえ手放すには惜しい男だ。無理を言えばあっさり帝国にも見切りをつけ出ていくと言外に脅してくる。何度も死の淵から甦った男だ。このミレイア宮殿の奥深くにいようとも無事でいられる自信もあるのだろう。


 宝剣の見返りとしてジョスランがアーチーに望んだ一つは「叙爵」。それはいつかルノヴァン宮殿に正面から入るのに必要なもの、貴族としての身分だった。

 ベルジュラックを名乗ることのできないジョスランにアーチーは家名を与え、今は一代限りの『ジョスラン・デューイ子爵』と名乗っている。子爵といえども帝国での地位とジスラールでの地位は違う。充分に皇帝の使者としてルノヴァン宮殿に顔を出すことができるだろう。

 だがアーチーは自分の側近としてのジョスランに、どうにかして更なる身分を与えようと考えていた。

 

 だが、海賊に身分と名を与えるという望みを叶えてやったのに、不満が生じればあっさりと捨てて次の手段に移ると言う。アーチーはそれを愉快に思っており、得がたい友人を手放したくないとも考えている。


「ジスラール王国南部に復帰したいとは思わないのか?」

「……難しいところですが、あるいは一市民としてなら可能かもしれませんね。」

「……ならば、ヴィドルバンがジスラールの混乱に乗じて攻め入るとは考えぬのか?」

「それなればそれで。ただ、その前に大切なものを取り戻しに急ぎ帰国する必要がございますね。」


 アーチーは思わず吹き出した。やはり得難い男なのだ。

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