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きっと、そばに  作者: ミソラ


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ディアボルス号③

 突然『夜の城』による犯行はぱたりと止んだ。


「『夜の城』が動きを止めたか。まあ潮時だろうな。」


 *

 

「ジョスラン、ここにいたのか。」

 ディアボルス号のメインマストの上にある檣楼(しょうろう)にジョスランはいた。

 かなり高いところにあるその場所は、波と風で不安定に揺れている。

「また無茶をする。」

「リハビリにちょうど良い。」

 レノーは呆れながらジョスランに双眼鏡を渡した。

「カエルムが来たぞ。」


 青空の中の黒い点が徐々に大きくなり、ジョスランが笛を吹くと鷹のカエルムがばさりと羽音を立ててジョスランの腕に止まった。


 ジョスランとレノーがマストから降り、遅れて上からふわりとカエルムが降りてくる。

「よしよし、カエルム。ご苦労さんだな。」

 クレマンがカエルムの足についた手紙を取り外した。


「……うまくいっているようだ。」


 ジョスランは手紙を読んだ後、レノーに渡した。


「南部は母を旗印にしたそうだ。叔父もいるが前公爵夫人ということで領民に馴染みがあるからな。」

 

 ご苦労なことだ、とジョスランはくすくす笑う。だが母テレーズも南部を纏める公爵家の夫人として肝が据わっているところがあるし、サージェスを始め皆が守ってくれるだろう。


「それから、やはり『夜の城』にいた『銀』はあの方、そして『金』はラウリーヌだ。今は『スコルピウスの館』という店の主人となっているようだ。『スコルピウスの館』はベルジュラックのタウンハウス跡だそうだぞ。」


 思わずジョスランの口角が上がった。


 見つけた。やっとラウリーヌを見つけた。だが。

「一緒にいる『銀』はイーヴ・リオネルだ。」


 レノーとクレマンは息を呑む。

「イーヴさまが……。しかしそれで納得しました。イーヴさまが姿を消したのと『夜の城』の動きに変化が起きた時期が一致します。『夜の城』は文字通り反王家の勢力なのですね。」


 ジョスランは海原を見つめる。

 

 イーヴ・リオネルはリオンとしてサージェスに身を隠していた頃、ラウリーヌと交流を持っていた。

 ローランドが即位すれば、そのままサージェス伯爵家の嫡男としてラウリーヌと結婚する話も出ていた。


 窓越しに見た、ベルジュラックの庭で一緒にいたラウリーヌとイーヴ・リオネルの姿が甦る。


(……ラウリーヌは私が死んだものと考えているだろう。)


 *


「『夜の城』が本格的に王家への挑戦とも取れる行動を始めたのはつい最近だ。しかし派手に貴族と商人から財産を奪い始めたからと言って再び内乱を起こすかどうかはわからない。……ただ標的は全て内乱の時からローランド陛下を支援している家門に限られている。」


 ジョスランたちによる旧王太子派の貴族の館への襲撃もうまくいっている。『夜の城』の犯行をなぞらえるように行ったため『夜の城』から探るような動きもあった。


「最近になって商人たちや貴族の家から盗まれているのがベルジュラックの宝物だったと判明したけど、ラウリーヌさまだろうか。」

「おそらくな。」


 ベルジュラックの残滓をかき集めるように、手を伸ばすラウリーヌの姿が思い浮かぶ。

 彼女の想いを考えると胸が苦しくなる。

 

 長い間姿を表さなかったラウリーヌが今になって動き出した。彼女を危険な目に遭わせたくないが、「死んだ者」とされている自分はまだジスラールに戻ることはできない。まだまだ力がない。


 *


 波に合わせて天井に釣ったランプが揺れる。『夜の城』に呼応するように貴族の本邸を襲ったおかげで、ある程度の資金を貯めることはできた。

 

「『夜の城』が動きを変えた今、こちらも盗賊の真似事は一旦終了だ。例の物も手に入れたし次の段階に入る。」


 レノー、クレマン始め、乗組員たちがジョスランの言葉に集中する。


「今から我々はジスラールを離れ、ヴィドルバン帝国へ向かう。祖国に残りたい者は誓約の上戻ることを許そう。申し出よ。」


 ジョスランが見渡すと、その部屋に集まった全ての者が頭を下げ恭順の意を表した。レノーが胸に手を当て頭を下げ、口を開く。


「我々はすでに従うことを望んでいます。ご命令を。」


 ジョスランは頷いた。


 *


「出航だ! 帆を張れ!」

 三本のマストの横に張り出したヤードから丸めてあった帆が下ろされる。すると広がった帆が風を受け大きく膨らんだ。

 

 物資の積み込みのため一時停泊していた海上から、大きな帆船が滑るように船出した。

 

 徐々に離れるジスラール王国を見ながらジョスランたちは「必ず帰る」ことを誓い祖国を離れた。


 *


 その後、ジスラール王国とヴィドルバン帝国の間に横たわる海峡にある海賊が現れた。

 非情にして紳士的。

 価値のあるものは根こそぎ持っていくが命を取ることはない。食料は奪わない温情はあるものの、マストを切り倒し漂流させる冷酷さを併せ持つ。

 戦利品として護衛船を奪い、船団となって襲う海賊は、海峡を渡る商船を震え上がらせた。

 

 その海賊船の船長は長身に黒髪の美しい男で、宝物をヴィドルバン帝国に上納し、その功績に対し叙勲されることとなる。

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