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きっと、そばに  作者: ミソラ


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スコルピウスの館①2

 最初は勝ち一時的に大金を手に入れた貴族は借金を返し、再び大金を手に入れようと『スコルピウスの館』を訪れる。何度か勝って、そして負ける。

 また勝ちたいと願い『スコルピウスの館』の一室で借用書を書き、またテーブルにつく。

 プレイルームの扉を開ければ誘惑が待っており、またそこで金を使い借用書が増えていく。


 そうやって貴族たちの借金の相手はスコルピウスの主人であるリオンに集約されていった。


 *


 ある夜、豪華に煌めくプレイルームに一人の女性が現れた。


 黄金に輝く髪の毛を漆黒のドレスに垂らし、仮面の奥からちらりと見える瞳は金にも似た琥珀。

 護衛に守られた彼女は、淡々と表情を変えずカードゲームに興じる。三十分ほど無言のまま勝ちもせず負けもせずといったところで席を立ち、喧騒の中を縫うように姿を消す。


 *


「ラウリーヌ、私のいない時にプレイルームに出ているのは本当か。」

 ラウリーヌは威圧的に見下ろしてくるリオンを見上げ、ティーカップを静かに置いた。

「退屈なのよ。」

「君の顔を知っている者もいるだろう。ローランドに知られたらどうする。」


 今、まさに賭け事に興じている貴族たちから奪い返したベルジュラックの美術品が飾られた部屋の椅子に座り、ラウリーヌは物憂げに前を向いている。

 この部屋はかつてジョスランの私室だった。リオンには内緒だが。


「わざとか。」

「リオンだってそろそろ国王と接触したいでしょう?」


 たしかに、いくらリオンといえども一つの街ほども広大な王宮の深部にはなかなか辿り着けずにいた。

 かつて生まれ育った王弟家族が住んだ離宮は取り壊され、そこに至る秘密の通路も破壊されていた。そしてローランドの心の内を反映してか、内乱の後城壁はさらに堅固になり警備も厚くなっている。

 出入りの業者や使用人に扮して潜り込むのはできる。だがそれはリオンの望むところではない。

 王族の一人として、宮殿に相応しい立場で見えたいのだ。


「正面から入るには招待されるのが早いでしょう?」

「危険だ。」

「もう遅いわ。」


 ラウリーヌはリオンが『スコルピウスの館』を離れる隙をついて何度かプレイルームに姿を現した。仮面をつけているとはいえ特徴的な黄金の髪と琥珀の瞳は目につくだろう。


「また召喚状を頂けるかしら。」


 ラウリーヌは長い睫毛を伏せてティーカップの縁を指でなぞった。その手にはサファイアとトパーズが輝いている。

 リオンはその姿を苦々しく見てラウリーヌの正面に座る。


 *


 その後、リオンはラウリーヌとともにプレイルームに姿を現すようにした。賭け事に興じ必死に金銭を取り戻そうと躍起になっている客でも思わず手を止めてしまうほどの存在感。

 

 ほんの短い時間だけでも「金と銀」は耳目を集め人の口に上るようになり、その仮面の下を見てみたいとの欲求に駆られた貴族たちは、ますます『スコルピウスの館』に足繁く通うようになった。


 噂話の伝播は早い。美しい見た目ならばなおのこと。宮廷にその噂が届くのに時間はかからなかった。


 *


「……興味深いな。」

「なりません、陛下。相手は得体の知れない店の主人です。」


 競売にかけられていたベルジュラックのタウンハウスが思いのほか早く売れたと思ったら、そこに貴族たちが足繁く通うクラブができた。


 このところの強盗騒ぎとアンジェルの癇癪でイライラしていたローランドは気晴らしを欲していた。美しい一対の男女がいるならばこの目で見てみたいと思う。

 その欲求は誰よりも強い。


「その館で身を持ち崩す者たちが多く現れ、問題となっております。」


 盗賊騒ぎはぱたりと止んだが、下っ端しか捕まえることができていない。なのに新たな問題が起きている。

 今までローランドを支えてきた貴族たちが『スコルピウスの館』で提供される賭け事と快楽に溺れて責務を果たさなくなったのだ。

 街の治安を守る憲兵たちが確認に向かったが、顧客が貴族たちということもあり強引な捜索はできないでいた。


「その『金と銀』と称される二人が館のオーナーだと言われているな。確認させてみよう。」


(多少の気晴らしにはなるだろう。……そう、新しく造る宮殿の飾りとして迎えても良いな。)

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