ルノヴァン宮殿②2
ローランドが執務室の横にある会議室の大きな机の上に設計図を広げ技師たちと話し合っている中、慌ただしく事務官が入ってきた。
「なに? 地方の領主の館も盗賊の被害に遭っただと? 手口は?」
「やはり消えるように盗まれていると……。」
「間者は?」
「いまだ見つからず……。」
*
王都の警備を担う第三騎士団の団長は焦りを露わにしていた。被害に遭った屋敷にバツ印がついた地図を眺め、先日の御前会議におけるローランド国王の顔を思い出した。
若き国王は内乱で自ら剣を握り、対抗勢力を容赦なく切って捨てた。そして後に即位すると、慈悲のかけらも見せず粛清していった。
結果を出さねば、その国王の怒りを買う。
「被害に遭った被害者の共通点を調べろ! そこから次の標的を予測しろ。」
「早急に調べます!」
*
調べさせた結果、王都で被害に遭った貴族の領地での屋敷が狙われていた。
まるで嘲笑うかのように、王都の屋敷に盗みが入った後、地方にある同じ貴族の本邸から盗まれるのだ。
被害に遭った者たちの落胆は大きく、日に日に国王への陳情が増えてきている。
被害は徐々に国中へ広がっていった。
しかし、その後ぱたりと王都の盗賊は現れなくなり、それに呼応するように地方での被害も止まった。
会議は被害に遭った者と遭わない者との間で紛糾を繰り返すようになり、まとまりを欠いていった。
被害に遭っていないヴァリエ公爵などはその筆頭で「普段から警備を怠るから隙があるのだ」と嘯いている。
ローランドは喧騒の外側で机の上の資料に目を落としていた。
(……旧ベルジュラックが統治していた南部には被害が出ておらぬな……。)
ばんっと手のひらで机を叩くと、会議場は静まり返り、視線がローランドに集中した。
「南部の貴族を締め上げろ。なにか知っているかもしれぬ。」
「……そ、それは。」
「なんだ?」
宰相が恐る恐る具申した。
「南部貴族たちは、元々ベルジュラックの家臣団です。……どうやら独立の動きが出ているようです。」
「……独立だと?」
「はい。ジスラール王国初代国王に統一されるまでは南部は公国として存在していました。その状態に戻そうとする動きがあります。」
「しかし、ベルジュラック公爵はもうおらぬぞ。」
「前公爵夫人が旗印になっており、サージェス伯爵が中心となっています。前公爵の弟であるソビシュ伯爵や旧ベルジュラック騎士団をはじめ、各家門の騎士たちも集結しています。」
「……南部に兵を送れ。反逆者には制裁を。」
「陛下! それはいけません。火に油を注ぐ結果となるでしょう。」
「南部は王家直轄地となる。反乱は許さぬ。急ぎ兵を送り、あちらが立ち上がる前に潰すのだ! 将軍! 結果を見せろっ!」
会議場は沈黙に覆われた。
*
「どういうことなの? お兄さま。」
いつものように部屋で一人ワインを飲んでいると、いらついた口調のアンジェルが入ってきた。
「うるさい。今は静かに考えごとをしているんだ。」
「わたくしの輿入れの準備が進まないのよ。式典担当の侯爵夫人とドレス担当の伯爵夫人の家に盗賊が入ったとかで出仕してこないのよ。どうなっているの?」
ローランドは苛立たしげに眉間に皺を寄せた。
「対処はしている。」
「恥ずかしい思いをするのは嫌よ。相手は格下の国なんだし。」
「わかっている。」




