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きっと、そばに  作者: ミソラ


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夜の城②4

 ラウリーヌにとって、よってたかってジョスランを貶めて、その死を喜んだ民衆も憎悪の対象だ。

 

「ラウリーヌ、ベルジュラックが処刑されたのは生贄のためだけじゃない。王都の平民が、内乱が終わって六年も経つのに未だ貧しい理由はなんだ? あの宮殿だけが異空間のように煌めいているのはなぜだ? 王族が国民たちから搾取しているからだ。」


 ラウリーヌはリオンを見た。


「国王の狙いは南部の豊かな土地とベルジュラックの財産だ。……現に南部一帯は王家の直轄地となるよう動いており、王都のベルジュラックの屋敷は差し押さえられた。それはもう鮮やかすぎるほど迅速に。まるで前から計画されていたかのように。」

 リオンがふっと息を吐く。

「民衆が略奪に入ったのは王家が差し押さえた後。略奪は民衆の憂さ晴らしと屋敷を空っぽにするための掃除(・・)だ。」


「なん……。」

「それと君だ。君はあの時ローランドから召喚されたんだろう? 行ったところでベルジュラックには会えなかった。既に地下牢に入れられていたからな。君はそのまま王宮を飾る装飾品になっていたはずだ。」

「は?」


 リオンはラウリーヌの瞳に宿った怒りの色を見て内心ほくそ笑んだ。

(もっと、もっと怒れ。憎しめ。)

 

「それから、これは俺も知らなかったことだが、……アンジェルは知っているか?」

「……ええ、舞踏会でお会いしたわ。」

「彼女には残酷な趣味があったようでね。命が消えて行くのを見るのが好きらしい。しかも美しければ美しいほど、その思いは強まるらしい。

 ……アンジェルは、シリル監獄の地下でベルジュラックを拷問していたと聞いた。」


 ラウリーヌは喉の奥が詰まるような驚愕と、怒りのあまり手に持った扇を折りそうなほど握りしめた。

 

「子どもの頃は単なるわがままな姫だったんだけどねえ。それにしてもベルジュラックは目立ちすぎた。他の貴族たちへのいい牽制になっただろう。」


 リオンの言葉はもうラウリーヌの耳には入っていなかった。怒りで目の前が真っ赤になっていた。


「俺が復讐の手伝いをしてあげる、ラウリーヌ。俺が王となり君が王妃となった時、復讐は終わる。……ね?」


 *


 そして『夜の城』の広間で決起の宣言が行われた。


 集会ではラウリーヌの立場も説明された。南部の貴族令嬢でありリオンを精神的に支えたと言えばもろ手をあげて歓迎された。

 

 リオンが南部で潜伏する際に支援したベルジュラックに対しても同情的で、目的が合致する上にリオンから「敬うように」と言われて恭順の意を示した。


 こうして、ラウリーヌは『夜の城』における王妃となった。


「元王太子派だった貴族たち、すなわち現国王に媚びへつらっている貴族たちの弱体化と分裂を図る。……我らは盗賊だからな?」


 リオンが美しくも残酷な笑みを浮かべる。


「資金集めも兼ねる。国を乗っ取るには今あるだけでは足りない。容赦なく巻き上げろ。」


 標的には、元王太子派で現在恩恵に預かっている貴族を中心に、王家がベルジュラックから取り上げ臣下に下賜された宝物や美術品や、略奪された物を買い取った商人の屋敷が選ばれた。


「旧王太子派の筆頭である北部ヴァリエ公爵と西部ゼナイド公爵は後回しだ。狙いがあからさますぎるし、小物から崩して孤立させる方が良いだろう。」

 南部は国王に抵抗しているため、リオンは支援を考えている。ラウリーヌの故郷で、リオンにとっても思い入れのある土地だ。

 

「ジャン、お前はここの下っ端どもの教育だ。もしラウリーヌに無礼を働くような者がいれば罰として耳を切り落とせ。情報を漏らすようなことがあれば粛清して構わない。」

「御意。」


「リオン、私にも剣の鍛錬を。」

「ラウリーヌが?」

「リオンがいなくなった後、剣の鍛錬を積んでいたの。みんなの足手纏いになりたくないし、私にもできることはするわ。」

「うーん、君には手を汚すようなことはしてほしくないけど。でも自衛の手段もあった方がいいね。わかったよ、ただし相手をするのは私に限る。いいね?」


 ラウリーヌは頷いた。


 *


 数日後、王都の貴族と大商人たちは恐慌に陥っていた。

 それまでの『夜の城』とは違う手口で財産が盗まれていったからだ。

「盗まれる」というよりは「消える」と言った方が正しい。

 そして財産とともに、厳重に保管されていたはずの恥部なども盗まれた。


 例えば杜撰な帳簿であり、不正を働いている証拠であり、密やかな、貴公子や貴婦人との往復書簡であり。

 貴族たちは財産とともに弱みまで盗まれていったのだった。

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