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きっと、そばに  作者: ミソラ


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ディアボルス号①

 暗い闇にいるようだ。体中のあちこちが痛い。


「ジョスラン、気がついたか?」

 

 朦朧とした意識の中、聞き慣れた声が聞こえる。

「まだはっきりしないみたいだな。お前の薬、なにか間違ってないか?」

「そんなわけないだろ。まだ熱があるし、もう少し様子を見よう。」


 なのに一番聞きたい声が聞こえない。

(ラウリーヌ……。君はどこにいるんだ?)

 もう一度、意識は闇の中へ沈んでいった。


 *


「……つっ。」

「大丈夫か? ジョスラン。」

「王妹、天使(アンジュ)なんて名前だけど、えらく残酷なんだな。」


 クレマンが包帯を替えながら眉を顰める。


「……ここはどこだ? 船の上みたいだが。」

「ああ。この船はうちが新しく造ってまだ登録していなかった、いわゆる無国籍の船。今は海上だ。」


 ジョスランは狭くて殺風景な船室のベッドの上に寝かされていた。波の音に合わせてわずかに揺れている。

 

 しばらく沈黙が続き、レノーが静かに話しかけた。

「ラウリーヌさまのことはクリフがジスラールに残って探している。王宮へ向かう馬車から攫われたのだから王宮にはいないと思われるが、念のため間者を送った。」


 アンジェルは、国王がラウリーヌのことを気に入ったと言っていた。ジョスランをシリル監獄に送った直後に召喚状を出してまで囲い込もうとしていた。

「王都から出ているか、あと可能性があるのは『夜の城』だが……。」

「考えたくはないな。」

 悪名高い『夜の城』にラウリーヌがいるとは考えたくないが、可能性は排除できない。


 ジョスランは目を閉じ、ゆっくりと目を開けた。


「レノー、クレマン。私は今からベルジュラックの名前を捨て祖国への反逆者となり悪となろう。お前たちはどうする?」


 ジョスランを見た二人は一瞬目を見開いたが、明るく微笑んだ。

 

「もちろん、行動を共にする。」

「僕の薬はかなり役に立つよ。知ってるだろ?」


 *


「コームがちりぢりになった使用人たちを集めている。港の倉庫街に拠点を作っているはずだ。」

「ブノア夫人たちは?」

 レノーはふっと表情を緩めた。

「無事だよ。南部の守りは固い。メリザンドの屋敷の者たちには早馬で知らせたから対処できているだろう。そこからはみんなを信用するしかないが。……それで、領地のことなんだが。」

 

 ジョスランが頷き、次を促した。


「王家はメリザンドを含むベルジュラック領は王家の直轄地とすると通達を行った。今のところベルジュラック傘下の領主たちが抵抗し手こずっているらしい。」

「王家直轄地となれば南部は更なる増税を強いられることになるだろう。指揮を執るのはサージェスだろうから心配はないが……。」


 ベルジュラック領は豊かな土地だ。その上、ジョスランの才覚によって得た財産を投じて新たな産業を興した。ジョスランの出仕免除と引き換えに多額の税金を納めていたが、王家直轄地となれば今まで領民に還元していた利益も王家は搾り取っていくだろう。


 おそらく財政難に苦しむ王家は、それも狙いだったのだ。

 ベルジュラックの財産と豊かな土地と、わざわざ召喚状を出してまで呼び出したラウリーヌと。


 その欲望を満たすためにジョスランに無実の罪をかぶせ、処刑に追いやった。


「だが、このままでは再び内乱が起きるだろう。」

「遅かれ早かれじゃない? あの国王ではね……。」

 レノーが渋い顔をする。


「では南部に軍資金を送ろう。……サージェスならば察するはずだ。」

「それはいいね。ゴーチェ子爵殿も安心するだろう。」

「……。」


 ラウリーヌを探すクリフの元には、コームが集めた元使用人や騎士たちが集まっており、王都中をしらみつぶしに探している。

 自分が動けないのはもどかしいが、シリル監獄に収容され痛めつけられていた間に適切な処置を受けていなかった体は思うように動かなくなっている。


 その上、処刑の折ジョスランの絵姿が号外でばら撒かれているし、特徴まで事細かく広められた。ほとぼりが冷めるまでジスラールの土地を踏むことは叶わないだろう。

 

 ジョスランは船室の小さな窓の外の青い海を見た。

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