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トカレスカ騎士団  作者: 観測者エルネード
第一章:騎士団設立篇
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超異形の魔力

 鼠衆会との戦いが終わって、一週間が過ぎた。戦いの後始末があらかた済み、鼠衆会に支配されていた人々もメドゥーエク街近辺などに移住が完了している。当面は敵の心配がない。アニールは防壁の回廊から街を見下ろし、ひとまずメドゥーエク街の地域の秩序が確保できたことに喜びの鼓動を隠さずにはいられなかった。

 だが、まだ懸念はある。バルド・ゴルディア一派の行方とルラルトが使った禍々しい魔力のことを考えれば、とても将来が明るいものだと信じることはできなかった。頬を引き締め、アニールはある人物に会いにいく。トルバとアルトだ。

 かつてエイジリアの十傑として名を知られたトルバはエイジリア王国崩壊後、戦いを放棄して隊員たちと作った村に引きこもっていた。だがトカレスカ騎士団が鼠衆会と戦うのを知り、重い腰を上げて参戦してくれた。彼ならルラルトの禍々しい魔力について何か知っているかもしれない。トルバは街の空き家を新たに住居としている。その家の中に入っていくと、温かいお茶の香りが漂った。丁度トルバとアルトが茶を飲んで盤上遊戯に興じていたところだ。

「アニールか。いや、今は貴女の方が目上だったな。……改めて、この家においでくださりありがとうございます、騎士団長」

「ありがとう。だが私は騎士団長とは言ってもまだ若輩だ。そう姿勢を低くされると困るのだがな」

「これはたとえ形式上でもしっかりせねばならないことだ、とアルトによく注意された過去があるものでな」

 トルバと卓を挟むアルトが苦笑いする。トルバがポッドに手をかけ、器に茶を注いでゆく。

「それより、ナチャ茶をお勧めする。私がまだあの村に引きこもっていた頃に作った茶の葉でな、このメドゥーエクの土でも作れるか試してみたいものだ」

 トルバが茶を勧める。湯気だつ、底に茶の葉の沈んだ茶色の液体をアニールが啜る。

「美味しい。きっとこの辺りでも栽培できたらこの街の活気の源になるだろう」

「……ところで、聞きたいことがあるのだったな」

 トルバが不意に切り出す。その眼光には警戒の色が浮かんでいた。

「ええ。ーーー超異形の魔力について」

 トルバは茶を啜り、卓にコトリと置く。アルトは瞑目して瞼の裏に超異形に関連した情報を探す。

「超異形か。俺のいたエイジリア王国のヴィリア教じゃ迷信に伝わる邪神って感じで神話について詳しい話は聞いていない。だが、俺と同じ十傑で魔術師だったジテラルから各地に遺された禍々しい魔力の塊の話は聞いたことがある」

「その話とはどんな内容でしたか?」

「ちょっと待て、いま思い出すから……ああ、あのジジイはこう言っていた。『魔力の濃い地の奥に、まるで残骸のような魔力の抜け殻があることがある』と言っていたな。……魔力に抜け殻があるって不思議だな」

「団長、澱魔地域って知っていますか?」

 アルトが何か思い出したように跳ね起き、アニールに向き直る。

「ああ、師匠から習ったことがある。ソルドラス大陸の中でも特に魔力が濃い地で、その影響を受けた強い魔獣が沢山いる。大抵その地域には、地下に魔脈が通っていて、地上に魔力が溢れているんだろう」

「そうとも、大抵はそうです。しかし澱魔地域の中には魔脈が通っていないのに魔力が濃い地があります。その場合は魔力が豊かな原因は不明とされていましたが……トルバさんは何か知っておいでですか?」

「いや、あのジテラルのジジイの言うことだから真に受けんなよ。ただ、ジテラルは趣味でとある澱魔地域のひとつに潜り込んだことがある。その時に、とても巨大で生々しい、禍々しいマナの塊が聳え立っていたと言っていたな」

 アニールがごくりと唾を飲む。先を促すような視線にやられて、トルバは再び茶を啜った後にまた口を開く。

「アニール様、騎士団長を守り育てたのがレイアスという魔術師だっただろう? 魔術師の間には、世の中にはマナが二種類あるという常識が伝えられているのは知っていましたか?」

「ああ、それは知っている。ひとつは命あるものに宿り魂を構成するアニミ・マナ。もうひとつは魂の外側にあって命なきものにも宿るユニバ・マナ。ユニバ・マナが更に分類できるとレイアスさんが言っていたのは置いといて、私たちの魔力は魂を構成するアニミ・マナを中心としてそれを外から覆う形でユニバ・マナを纏っている。そう聞いている」

「そうだよ、団長。だからジテラルの話は不自然なんだ。"膨大なアニミ・マナの塊が剥き出しで外にあった"なんてのは。伝説クラスの魔獣がそこにいたわけでも、数多の死体が積み重なっていたわけでもない。しかもそのアニミ・マナは死んでいた状態だったそうだ。余りにも不思議な話なんだ。それに、アニミ・マナの塊が禍々しい雰囲気を放っていたのは不思議な話だ」

「そうなんですね。ところで団長、こういう話は確かルダーム・シェルトの巫女の方が詳しいと聞いたことがあります。……確か、ルラルトという敵も歌巫女だったそうですね」

「ああ」

 途端に思い出す、あの憎い顔にアニールは眉を顰める。心の中にまだ戦死した団員の顔が残っている。彼らに報いるためにも、今はこの話を進めねばならなかった。

「巫女の繋がりではないが、かつて師匠に習ったことがある。ルダーム・シェルトやメルカ教など、古くからある宗教は神話に"世界を滅ぼした黒きもの"という共通点を持っているという。それを一部の地域では超異形と総称するとかしないとか……。師匠はルダーム・シェルトの巫女とは関わりの薄い人だったそうなので、詳しいことは聞いていませんが」

「ふぅむ、超異形か。その力の残骸があの禍々しい魔力だと言いたいのか?」

 話が展開していくにつれて、三人の表情が厳しくなる。話が進んでいく毎にルラルトの力の正体が恐ろしいものだということが明るみに出てくるからだ。

「……確か、歌巫女は呪術に長けていたな。それはつまり、アニミ・マナの操るすべを心得ていることだ。通常の魔術はユニバ・マナの方を使うが、呪術は扱いが難しく普及していないからな。だが、それでも、膨大な魔力の塊を自分のものにするなんて普通できるものなのか?」

 トルバが冷や汗をかきながら言う。通常マナを取り込むには食事をするか、殺した生物の魂が器たる身体を失って霧散しかけているところを吸収するしかない。自分の魔力よりも膨大な魔力を吸収することは不可能なことだった。全く吸収できずに終わるのが一般的だ。とある魔術師がユニバ・マナの塊を奇跡的に取り込むことに成功したが身体の器が膨大な魔力を制御できず、すぐに爆発四散して死亡した話もある。完全に成功した例がないので、自分よりも大きな魔力を持ったものからは魔力を吸収できないという見解が一般的になっていたのだ。

「……だが、ルラルトはやったとしか言いようがない。おそらく呪術を用いたかもしれない。でも私が相対したルラルトは苦しそうだった。たぶん身体に合っていない」

 アルトが古ぼけた地図を広げ、澱魔地域を指で指し示しながら頭を掻く。

「その話が本当ならどこかにあった魔力の塊が失われているはずだ! 騎士団長、確かメドゥーエク街解放戦で初めて会ったときは禍々しい魔力は無かったのだろう?」

「そうだ。まだその力はなかったと記憶している」

「だとすると……ここだ!」

 アルトが地図の上の一点を指し示す。壊滅した鼠衆会の本拠地があったところの北東の高原。鼠衆会の本拠地を攻めるとき、アルトの進言で進行ルートから外していた場所でもある。

「本当に吸収されて無くなっているか確かめた方がいいかもしれないが、まだ強い魔獣が残っている可能性もある。光の民の戦士のレイザでも厳しい場所だから、一旦放置にしておこう」

 アルトがフゥと息を吐き、話を止める。アニールの心の中では警鐘が鳴り響いていた。危機感が身体のそこかしこを鈍器で打ってるみたいに響く。ルラルトを放置すれば、大陸が滅ぶと心が言っている。

「ーーー超異形の力の塊は、本当にその高原にあったものだけか? かつての人類を滅ぼし神話に名を残した化物がもし実在していたとしたら、その力の塊はひとつやふたつだけで済むのか? 大陸中に散らばる力の塊を確保しておかねば、奴らが手に入れて大陸を本当に滅ぼしてしまうと考えられないか?!」

「ーーーそれは、なんと、いや、スケールがデカすぎて思い当たらなかったな……」

 アルトが頬を叩かれたかのように目を見開き、トルバは苦虫を噛み潰したような顔で茶に映える彼自身の顔に目を落とす。アニール自身も、今思い至った可能性に戦慄を覚えずにはいられなかった。

「ーーーアニミ・マナは魂に干渉する。もしルラルトがその力を完全に我が物にしたら、歯向かうことすら叶わず幾千の兵や民の魂を破壊され吸収されることになりかねない。騎士団長、すぐにメルカ教団に連絡を入れましょう。事態はこの騎士団だけにとどまりません!」

「わかっている! 仔細の手続きは任せるぞ、アルトさん! 私はティール港町のイヴイレスを呼び出す!」

「イヴイレスって奴は団長の参謀だろう? それならずっと団長のそばにいなきゃ駄目じゃないか。俺がティール港町の守りを代わりに担おう!」

「良いのか? トルバ殿、助かる! 後で正式な命を出す!」

 こうしてトカレスカ騎士団は一瞬のうちに大騒ぎになり、メルカ教団と会議を設けることになった。

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