08話 初めての冒険へ
「・・・だからね、装備が問題なのよ!」
私は説得力を際立たせる為、立ち上がった。
ここはアムール亭の一階、厨房。定例ミーティングの最中だ。アムール亭の目的は『冒険者を支援し、魔王と戦わせる』事なので、宿泊者の問題点を洗い直し、それと無く忠告して導かねばならない。まあ今の宿泊者はヒナタ一行のみだが。
「この間の料理対決の時、迷惑かけちゃったし、伝説級の武器とまでは行かなくても、もう少し良い武器を与えても良いと思うの」
プランはこうだ。『ダンジョン序盤のモンスターを倒したら宝箱が現れる→中から素敵な剣が!→ヒナタ大喜び』完璧だ、と私は唸った。出来れば私も同行して喜ぶ様を観察したい程だ。私が手渡し、ヒナタが喜ぶ。うむ、素敵じゃないか。
「しかしヒマリ様。混乱に乗じて意中の彼にプレゼントを渡したい、と仰っているように聞こえますが」
レザン煩い、と私は思わず頬を膨らませる。
「オラは良いと思うだ。この機会に思いっきり彼にアピールすればいいだ」
だ~か~ら~!ヒナタの事、好きでも何でも無いんだから!ボルドーは普段は結構訛ってる。仕事中はがんばってレザンの真似をしているが。
「お姉さんはちょっとあざと過ぎるんじゃないかと思うわよ?そんなサプライズを用意しなくても、ヒマリちゃんは可愛いんだから、普通にプレゼントすれば良いじゃない」
最近バーテンダーとしてメンバーに加わった、悪魔族のお姉さんだ。名前はルイロデール。私の幼い頃から付き人をしてもらっているので、気心の知れた仲だ。
「と・り・あ・え・ず!この計画は実行して貰います。冒険者にこんな早々に死なれたら、私の華麗な戦闘シーンなんて、何時になるか分からないじゃない!」
夜更け過ぎまで綿密に計画を練り、悪どい笑いとともにお開きとなった。
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翌朝。早起きしてきたヒナタに声をかけた。
「ねぇヒナタ。今日はダンジョンのどの辺りまで潜るつもり?」
「う~ん、第一層は突破したいね。昨日は第一層のボス前で引き返したから。」
「そういえば、第一層のボスって、宝箱を守っているらしいわよ。狙って見たら?」
「マジか?一気に借金返済できるかな」
「いやいや、そうじゃなくて・・・。彼方にとって役立つ物が入ってるかもよ?」
思わず口走りそうになって、慌てて顔を背けた。何でヒナタは何時もそうなんだろう。剣をプレゼントしても売り払っちゃうんじゃないだろうか、と不安になってきた。これは絶対付いていかなくちゃ!
「しかし冒険者にとって、買った剣より魔獣の守る宝剣を奪取した方が誉れなのもまた事実。そんな貧相な剣では魔王に届きますまい。売り払うのも良いですが、自身で使っても良いかもしれませんよ」
「う~ん、そんなもんか?じゃあ考えとく」
レザンがフォローしてくれた。レザン、たまにはナイス!
他のパーティーメンバーが二階から降りてきて、朝食タイム。その間にボルドーにある物を用意して貰った。東方ではランチタイムは持参したご飯を食べる、と聞いた事があるので、喜んでくれる筈だ。
よし行くか!とヒナタ一行がゾロゾロと外に出て行った。その後ろから何食わぬ顔で私も外に出た。一行は特に気づかず、200m程行った処で・・・。
「え、お前なんで付いてきてんだ!?」
「ヒ、ヒマリちゃん!?」
「僕が居なくて寂しかったのかい?」
私はランチボックスを掲げて、精一杯の笑顔を見せた。
「私はお弁当係として付いて来てみました!じゃ~ん!お弁当で~す!」
「そうじゃなくて・・・。危ないだろ!」
「大丈夫!レイピアも持って来てあるし!私、結構強いのよ?攻撃魔法もちょっとなら使えるし」
レイピアを構えて見せた。物心付く前から教わっているので、構えにも隙が無い。攻撃魔法はこの体でも、ホントにちょっとだけ使える。初級の炎系が2~3回くらいで魔力切れするけど。
「今日は軽めに偵察だけするとしよう。ダンジョンのマッピングも済んでおらんし。何かあったらヒナタ、お前が守れ」
「え~?俺、人守っても悪いことしか起こった事ない」
「じゃあ今日が始めての成功の日にするんだな」
デンシュが弁当に釣られたのか、私をフォローしてくれたようだ。
冒険中は干し肉・干し魚を火で炙るか、火を熾すのが危険な状態なら、そのまま齧るしか無い。痛まないように塩漬けなので、しょっぱいのを無理やり水で流し込む。そんな冒険者に取って、お弁当は非常に魅力的だったのだろう。
その後、何度かの戦闘を見学した。前衛のヒナタ、デンシュが相手の動きを止めつつ体力を削り、キョクセンが魔法で止めを刺す、と言うオーソドックスなスタイルなのだろう。たぶん。
『たぶん』と言うのは、キョクセンは魔法を使わずぼんやり立っているだけだったのだ。敵はヒナタとデンシュだけで倒し、スイセンが回復させている。私はちょっと怒りが沸いて来た。
「ちょっとキョクセン!あなた何で魔法を使わないのよ!おかげでヒナタとデンシュが怪我してるじゃないの!」
「怪我って掠り傷じゃないか。本当に危ない時は魔法を使うよ」
ヘラヘラと笑っているのを見て、ほんっとうに腹が立った。一発殴って修正してやろうかしら。と思っていたらヒナタが笑いながら私を窘めた。
「実はな、キョクセンは上級以上の魔法しか使えないんだよ。そんなんバカスカ売ってたら、すぐ魔力切れになってしまうから、弱い相手には温存してるんだ」
「え?基礎魔法、初級魔法、中級魔法まで使えるようになってから、やっと上級じゃないの?」
「普通はな。神童スイセンの兄もやっぱり天才だったみたいで、いきなり上級魔法を習得しちゃったんだ。で、それから中級、初級と下って勉強したんだけど、魔力が強すぎて上手く行かなかった」
「兄は難しい事は出来るけど、簡単な事が出来ないバカなんです」
馬鹿だと言われ、ムッとした顔でキョクセンが言い返した。
「だって派手な魔法で敵を殲滅!これが一番女の子をグッとさせるんじゃないか。チョロチョロ燃やしたり、水かけたり、風を送って見たりって、それじゃ只の便利道具じゃないか」
「あ~、だからね。だから初級が身に付かなかったのね」
生来の女好きってのもあるだろうが、百メートルを10秒で走れるやつが、ハイハイをマスターしろって言われても全然胸がときめかないのだろう。
酒場で喋っているだけじゃ、その人達の本当の凄さは分からない物だなぁ、とぼんやり考えた。
この人達はみなそれぞれに欠点を持っている。それを別の長所で補ったり、他の人を庇ったり庇われたり。チームプレイって良いな。私は一人ですべてを殲滅するチカラを持っている。が、そこに心躍る何かがある訳じゃない。只の作業だ。ただ殲滅し、敗北すれば死ぬだけだ。
私はこの人達を、もっと知りたい。そう思えた。