19話 道中にて・・・
辺境都市ホルンブルグ。南に森、東に海、東に首都とを繋ぐ街道の交わる城砦都市である。
南の森を抜けると古代帝国アザレアが存在するが、森の中に存在する魔王城を恐れてか、この百年ほどは攻めて来る気配な無かった。
そんな訳で、規模の大きいとは言えないホルンブルクではあったが、つかの間の平和を謳歌し、それなりに繁栄していたのであった。
その様な城砦都市と南の森とを繋ぐ細い街道を、少女二人、ゴブリンの様な肌色をした男三人、ボロを纏ったゴブリン一人の奇妙なパーティーが北上していた。
「やっと見えてきたわね。なかなか立派な城壁じゃない」
「百年程前までは、南方の帝国と小競り合いが続いてたし、魔王が住み着いてからは魔物と戦う最前線になったし、争いは耐えないみたいだよ」
ヒマリが眩しそうに城壁を眺めていると、歴史に詳しいキョクセンが、嬉しそうに説明し始めた。
「もっとも、そんな魔王も十四年程前に消滅してるし、今の魔王は城に引きこもって出てこないみたい」
「消滅って、どう言う事?」
「人間の方には中々情報は流れてこないんだけど、噂では今の魔王が、先代の魔王を食い殺したらしいんだ」
「そんな事しないわよ!」
ヒマリが声を荒げて地面を蹴り付ける。近くの木々から、驚いた小鳥がバサバサと飛び立っていった。
怒りに気圧されたキョクセンが、しどろもどろに言い訳を始めた。
「いや、ホントに人間には分からないんだって、只の噂なんだから。分かってるのは、今の魔王が現れるのと同時に、先代の魔王が消えた事ぐらいさ。ていうか、何で怒ってるの?」
「怒ってないわよ!」
足音も荒々しく、ヒマリは先頭まで歩いていった。
=====(ヒマリ視点)==================================
――――――まったく腹立つんだから。私が父様と母様を食い殺す訳ないじゃない。
大体、私が物心付いた時には二人とも、もう居なかったんだから――――――――
あれ、とヒマリは腑に落ちない事に気づいた。
二人とも、何故死んだんだろう。レザン達も詳しく話してくれる事は無かったので、自分も特に疑問に持たなかったのだ。
――――――父様と母様の事を知りたい。ううん、私自身の事だもの。
食い殺している訳は絶対に無い・・・と思う。いくら魔王でも、そんな、そんな――――――
帰ったらレザンに問うて見ようと、強く心に決めたのだった。
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ヒナタはとても困っていた。
誰かが困っていたら助けたい。たとえそれが見も知らぬゴブリンでもだ。助け出す事に何の異論も無い。だが・・・。
ヒマリは『絶対助けるんだから!』と息巻いているが、正直、何の手立ても無い。
ゴブリンを助ける為に人間と戦うとなると、自分達も人間から追われる身となるかも知れない。
自分達は社会的地位も低く、裁判等で勝てる見込みは無かった。
となると忍び込んで連れ出してくるか。うん、バレたら俺達は立派なお尋ね者になるだろう。
一直線に突っ込んで行きそうなヒマリを、止める必要があるな。
「なあなあ、ヒマリさん。ここは慎重に作戦を立てようじゃないか」
「どうしてよ」
「相手が返さざるを得ない状況にするには、弱みを掴んだり、知恵を絞る必要があるんじゃないだろうか」
「作戦ならあるわよ」お世辞にも立派とは言えない、小さな胸を反らしてニヤリと笑った。「買い戻せば良いじゃない」
「は?」
「だ・か・ら、その金持ちからゴブリンの妹さんを買い戻すのよ」
「そのお金はどうするんだよ!?」
「自分で言うのも何だけど、私はちょっぴり金持ちよ。ゴブリンの一匹くらいどうにかなるでしょ」
ゴブリンの相場は分からないが、ヒマリが意外とちゃんと考えてる事に関心した。やれば出来る子だったんだ。
「もちろんゴブリン兄弟には、借金を返し終わるまで宿屋で働いて貰うわ。どう?良い考えじゃない?」
これには皆、拍手をして感心した。ゴブリン兄なんて涙を流して喜んでいる。うん、無事に解決しそうだ。良かった良かった。
俺たちは上手く行く事を確信しながら、辺境都市ホルンブルグの門を潜ったのだった。




