20話 そろそろ慣れてきたほうが良いかも知れない、と俺は悟った
「お断りします。当家では使用人の販売はしておりません」
立派なお屋敷に立派な門、そして立派な執事さん。
それに引き換え我々は少女二人を先頭に、顔を緑に染めたゴブリン風の男が三人、本物のゴブリンが一匹。そんな怪しい風体の輩が屋敷に押し寄せて「最近買ったメスゴブリンを売ってくれ」と言ってきたのだ。誰だって警戒するだろう。ヒマリは諦めきれず食い下がっている。
「このお屋敷の人がメスゴブリンを買ったって、見た人が居るのよ」
「確かにメスゴブリンは引き取らせて頂きました・・・が、それは売り物では御座いません。当家の使用人として仕事に就く予定でございます」
「妹を・・・妹を帰して下さい」兄ゴブリンが堪らずに懇願するが「今は当家の家族で御座います。お引取りを」と相手にされなかった。
門前で揉めていたら、屈強そうなガードマンが集まって来た。此処までの経緯だと向こうの方が筋が通っているだろう。荒事になると罪に問われるのは此方かもしれない。
「ヒマリ、此処は一旦引こう。作戦を立て直すんだ」
「そんな事している間に、妹さんの貞操が危険に晒されるかも知れないのよ?」
「それは分かるが、無理に踏み込んでも、取り返すのは難しい」
俺の説得にも首を縦に振らないヒマリだったが、デンシュが襟を掴んで引き摺ると、意外と抵抗もせずについて来た。ヒマリなりにこの押し問答に意味が無いと悟っていたのだろう。
二時間程前に街に到着した俺達は、まず見世物小屋に向かった。当然、兄ゴブリンを狙って柄の悪い奴等に絡まれたが、逆に捕まえて妹ゴブリンの販売先を聞き出した。そうしてメスの獣人を買い集めていると言う好色な貴族様の屋敷に押しかけたと言う訳だった。
ホルンブルグは、地方都市としては結構大きな部類に入る。商店は活気に溢れ、旅人も多いことから、宿屋や酒場等も繁盛していた。そろそろ日は落ちて、街路にも闇が押し寄せているが、人々の熱気は納まる気配は無い。あちらこちらで、出来上がった酔っ払いが気持ちよさ気に騒いでいた。
「そろそろ宿を見つけないと、野宿になるぞ」
「午前中は雨にも降られましたし、お風呂に入りたいです」
「お腹も空いたなぁ。僕はとりあえずご飯が食べたいよ」
路銀は十分に持ってはいるが、何時まで滞在する事になるか分からない。あまり安すぎると布団に虫が湧いていたり荷物を盗まれたりと言った心配もある為、価格と居心地のバランスが取れた宿を探す必要がある。そういった店は競争率が激しく、この時間になると絶望的だったが・・・。
「お前達、先程の屋敷に何ぞ用でもあったのか?」
凛とした声で不意に呼び止められた。レイピアを腰に挿した騎士風の若い女性だ。当然、知った顔では無い。
「まあ色々と。そちらは?」
「人語を話すホブゴブリンか。これは珍しい」
「いや、もう良いや」間違いを訂正しようかとも思ったが、もう嫌になって来た。肌の色が緑になったからって、簡単に種族の壁を越えられる見た目なのか、俺は・・・。
「あははは!この人達は人間よ!ちょっと毒で緑に染まっているだけ。あ、でも此方は本物の人語を話せるゴブリンさん」
「あ、ども。ゴブリンです」
何故か兄ゴブリンは挙動がおかしい。よく見ると顔も赤みが差しているように見える。だがそんな事に気づくような繊細は者は、このパーティーには居なかった。
「これは失礼した。私の名前はローザベル・グッゲンハイム。この街の騎士団に所属している」
「グッゲンハイム・・・?何処かで聞いたような・・・」
「先程、貴公らが訪問していた屋敷がグッゲンハイム家だ。まあ私は庶子なのだがな」
「それでは貴方も変態貴族の仲間なのね!」
「変態って・・・。確かに父上は『獣人のモフモフの耳が好き』と公言しているからな。だが!私はノーマルだ!」
「ノーマルって?」
「普通の男が好きって事だ。特に筋肉がな!・・・って、何を言わせるのだ!」
顔を真っ赤にしたローザベルが、何故か俺の背中をバンバン叩いてくる。籠手を着けているので物凄く痛い。
それから俺達は簡単に経緯を説明した。ローザベルは暫く黙考していたが、こう提案して来た。
「今の話だけでは、騎士団に通報するのは難しい。済まないが力になれそうに無い・・・が、この時間から宿屋を探しても良い場所はあるまい。今日は我が家へ来ないか?」
「え?良いの?」
「勿論だ、ヒマリ殿。大勢のゴブリンを連れていては宿屋も部屋を貸してはくれまい」
「そうなのよー。それが心配だったの!」
意気投合した女性達は連れ立って歩き始めた。その後から顔を赤くした兄ゴブリンがついて行く。
「だーかーらー、俺達は人間だってば!」
俺達の主張には耳を貸してもくれず、少女達の笑い声が街路に木霊していた。
最近、更新速度が遅くてすみません。ペースを上げていきます!




