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第八話 とあるネカマヒーラーのスキル上げ

 その翌日、セフィリアとレオンハルトはスキル上げに出かけていた。場所はドワーフィの里の近くで、メドウ高原というエリアである。高めの標高で涼しい気候、緑溢れる土地であった。そこは積極的にプレイヤーを襲ってこないノンアクティブのMobが多いと言われている。牛や羊などのMobが生息しており、牧畜スキルの聖地と巷で話題のようである。


 尤も、セフィリア達は牧畜スキルを育てに来たのではない。このエリアの上位牛・羊などのMobはノンアクティブでHPや防御力が多く、攻撃が単調でスキル上げに打ってつけと最近話題になっていたのだった。


「おー、人が多いけど牛も多いね」


 セフィリアが辺りを見渡しながら見たままのことを言う。プレイヤーの数が多いがオーガストブル──通称“青牛”──の数も非常に多い。そのため、Mobの取り合いのようなことは起きていなかった。戦いやすいというのは事実のようで、談笑しながら狩りをしている人が多く見受けられた。セフィリア達のそばにいた男女ペアのPTも──


「ねーお兄ちゃん。明日の晩御飯何が良い?」


「そうだな、ではお前をいただこうか」


「はいはい、ハンバーグね」


 ──などと和気藹々としながら、男性の方は短剣と拳銃を器用に乱れ斬っては撃っている。女性の方もロングロッドで青牛をひるませながら魔法を放ち、格闘ゲームのコンボのようなものを決めていた。


「うわ、レオン今の見た?ちょっと有り得ないくらいすごくない?」


「凄まじい運動神経ですね……。あれ、VRでも運動神経って言うんでしょうか」


「どうなんだろねー。思考をダイレクトに反映してるっていう話だから、想像力とか発想力になるのかなあ」


 そんなとりとめのない会話をしながらセフィリア達も手頃な青牛に殴り掛かるのであった。レオンハルトがセフィリアの後ろから青牛を斬りつけ、青牛がレオンハルトへ攻撃しようとするのをセフィリアが盾で防ぐ。これによってレオンハルトは攻撃系のスキルを、セフィリアは防御系のスキルを鍛えようという算段である。特に支障もなく順調に狩りが進んでいった。


「そういえばレオンって、MMORPGとかアクション系のVRゲームってやったことある?」


「アクションホラーのVRゲームはやったことありますけど、他はありませんね」


「え、ホラーやるんだ。意外だなあ。僕ホラーとか絶対無理だよ」


 セフィリアは苦い顔をする。そしてもう一つ、意外なことがあった。


(アクションホラーがどの程度のものかは分からないけど、あんまりバトル系のVRゲームもMMORPGもやってないのにこのタンクの腕前かあ。これってかなりすごいことなんじゃ……)


 そう、先程の二人のように人間離れした動きはしていないが、レオンハルトの動きは堅実で正確、そして何より集中力がなかなか途切れない。タンクは常に敵の攻撃に曝されるため、精神力がすり減るのも著しい。PTメンバーを守るというプレッシャーもあるため、その精神的重圧は中々のものである。没入型VRというリアルな環境でその精神を保つというのは、十分常人離れしているようにセフィリアは感じた。


「すごいなー。僕にはできそうにないよ」


 セフィリアは改めてそう言った。ホラーゲームだけではない。タンクが自分にはできそうにない、そういう意味も込めた言葉であった。


「多分セフィリアさんもやってみたら意外となんとかなりますよ。ほら、セフィリアさんってゲーム得意そうですし」


「確かに色んなゲームをやってきたけど、向き不向きは絶対あるよー」


 そんな軽い雑談を交わしながら、彼らは飽きるまで青牛と戯れるのであった。



********************************



 夜になったためセフィリア達が青牛狩りを終えてベルモンテへ戻ると、教会前広場の方から何やら心地よい音色が聞こえてきた。ちなみに彼らがいつも待ち合わせに使っている場所は噴水広場である。気になってそちらへ向かってみると、どうやら野外コンサートが開かれているようだった。


 ヴァイオリンなどの弦楽器やティンパニなどの打楽器、それにフルートなどの管楽器の奏者が指揮者の指示の元演奏していた。観客も多く、設置されている観客席に収まりきれずに立ち見客も多数いるほどであった。そして奏者をよく見ると、セフィリアは先日PTを共にした人物を見かけた。


「あ、ばら~どだ」


 大きく手を振ってみる。セフィリアの身長は150cmのため、ばら~どから見えているかは難しいところではあったが、どうやら彼は気がついたようである。ハープを奏でながらセフィリアに向かって微笑んで、軽く頭を下げてきた。


「お知り合いですか?」


 レオンハルトが尋ねてくる。その問いに、セフィリアは昨日のことを説明した。レオンハルトはなるほどと返し、私も行きたかったと残念がっていた。


「それにしても、すっごいねこれ」


 セフィリアは心からそう思った。演奏スキルによる演奏のためか、常に色とりどりのエフェクトが放たれるのである。教会前広場一帯が夜なのに明るく照らされ、しっとりとした音色が夜の街に響く。

 極めつけは、演奏スキルによる支援効果である。広域バフのため、立ち見のセフィリア達にまでその効果が及び、力が漲るような感覚や疲労回復、防御力上昇、回避力上昇など、様々な感覚が呼び覚まされる。

 特にリラックス効果や気力回復効果による恩恵は大きく、心だけでなく物理的に身体も音楽に感動させられていた。


「はい、本当に……」


 レオンハルトは演奏に聴き入り、心ここにあらずといった様子で相槌を返してきた。セフィリアもほとんど似たような気分だったので、二人は特に会話もなく演奏を聴き続けたのであった。



「ばら~どさん、凄かったよ。素晴らしい演奏をありがとう!」


 コンサートが終わった後、おひねりを入れてきたセフィリアとレオンハルトはばら~どに挨拶をしていた。


「そう言っていただけると嬉しいですね。ところでセフィリアさん、そちらの方は?」


「初めまして、セフィリアさんの友人のレオンハルトと申します。感動しました。また聴きたいです!」


 自己紹介をしたレオンハルトは未だ興奮冷めやらぬといった様子であった。そしてセフィリアはレオンハルトの口から直接友人という単語が出てきたのを聞いて、少し感慨深いものを感じていた。


(そっか、僕らって知り合いとかじゃなくてもう友人なんだなぁ……。もう1ヶ月以上一緒に戦ってきたし、戦友と言っても良いかも?)


 セフィリアがレオンハルトのことを頼れる戦友という認識で定着させている間、レオンハルトとばら~どの会話はどんどん進んでいた。


「そう言ってくださってありがとうございます。このコンサートは不定期なので、次いつ行われるかはまだ分かりませんが……。というのも演奏スキルのアシストのお陰であまり予行練習とかすることなく演奏できてしまうんですよ。なのでコンサートが開かれるときは結構突発的なものになりがちなんです」


 ですが……とばら~どは続ける。


「私個人の演奏でしたら、月森の酒場という店でよく夜に演奏していますよ。店主が知り合いで、よく頼まれるんです」


「そうなんですか!近いうちに必ず伺いますね!」


 レオンハルトは演奏がいたく気に入ったようである。ちなみに、酒場といってもこのゲームでは酒を飲んで酔うことはできない。ゲームの対象年齢が12歳以上なので、未成年に配慮したシステムになっているのであった。


 後日、彼らは月森の酒場に赴きワイン風の飲み物を飲んだのであるが、セフィリアがその匂いと味に気持ち悪くなってぐったりとしてしまった。それに対してレオンハルトがあたふたと狼狽え、とても演奏を聴ける状況ではなかったという後日談があるが、セフィリアの中で忌まわしい記憶として封印されたのであった。


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