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【登場】

 明らかに誰かにあやつられていることがわかるような無表情、動きもまるでロボットのようだった。


 やっと出会えた。ここにきてようやく紗織さんに会うことができた。思わず苦節何十年という言葉が浮かびそうになったくらいだった。


 思えば彼女を探すために、彼女の安否を確かめるために僕はこの屋敷に侵入したのだった。ところが彼女と出会うどころか途中で幼なじみのめぐみとは別れ別れになってしまうし、次に出会った麻崎未弥は大蜘蛛のクヴァブイにさらわれて行方不明になってしまうし、自称生物学者で冒険家の寿司山喜三郎はイカの化け物に水中に引きずりこまれ、おそらく命を落とした。颯爽と目の前にあらわれた侍従警団の美女連中も、結局何もいいところなく簡単に魔女に捕まってしまっている。災難ばかりが降りかかってきた。


 そんな数々の苦労を経て、ここへきてやっとのことで紗織さんの無事が確認できた。


 これでようやく目的は達成できた………わけがない。


 僕に近づいてきた紗織さんが、手にした刀をいきなり振り上げたからだ。


「あっ」


 間一髪、僕はゴロリとでんぐり返しで攻撃を避けた。


「いてててて」だからまだダメージから回復してないっていうの。


 振り下ろされた刀は壁にめり込み、紗織さんはそいつを引き抜こうとやっきになっている。体勢を整えた僕は、そんな彼女のうしろ姿をただ呆然と眺めるのみだ。


「紗織さん、いったいどうして……」


「ニコゴリ、気をつけるツル! お嬢さまはあの女の毒にやられているツル!」


 ポローニャがそういったのと、刀を抜いて振り返った紗織さんがふたたび襲いかかってきたのが同時だった。


 今度もうまくよけた、と思いきや、左腕に激痛が走った。切られたのか? やられたのか。いや、見たところなんともない。


「ああっ」


 一瞬にして服の袖から大量の鮮血がしたたり落ちてきた。マズい、マズいぞこれは。


 目から完全に光の消えた紗織さんの顔がすぐ目前にあった。


「紗織さん……」


 無表情の紗織さんはもう次の攻撃体勢に入っている。僕はあわてて踵を返すと体のあちこちの痛みに耐えながら必死に逃げ出そうとした。 


 その背中へかけてまたしても刀が振り下ろされたようだ。


 痛みが斜めに走るのがわかった。僕はつんのめってゴロゴロ転がり、地面が自分の血で染まっていくのを見た。


「どうして……」


 意識が薄れていくような気がする。遠くから魔女の声が聞こえてきた。


「アハハハ、いい見もの。これは卓也がここに来た時のおたのしみに取って置いたイベントだったのよ。父娘の血みどろの戦いだなんて想像しただけでワクワクするじゃない。でも彼は来なかった。それだけ卑怯な人間のクズに成り下がってたってことよ。でもまあ、クラスメイト対決っていうのも悪くないかもね。小僧が弱すぎて物足りないけどね」


 そういうとまた魔女は甲高い声で笑った。


 耳障りな笑いだ。勘にさわるじゃないか。おかげで意識も戻った。僕はしだいにムカムカしてきた。こっちはどれだけハンデ食らってるっていうんだよ。


 僕はほとんど最後の力を振り絞って立ち上がろうとした。

 

 見ると、紗織さんが今度は頭上高く刀を掲げるようにしている。


「……何だ?」


 そうして彼女はブンとこっちに刃を突き出すようにして刀を振り下ろした。 


 刹那、ものすごい空気の圧が僕にぶつかって来た。僕は紙くずのように空に舞い上がり、天地もわからなくなり、やがてドサリと地面に激突した。


「ぐあっ」


 またしても全身に激痛だ。これじゃ身が持たない。こんな異常なプレイはもうこりごりだ。


「ニコゴリ! 大丈夫か」ルベティカの声が上から聞こえてきた。どうやら侍従警団の近くに僕の体が落下したらしい。


「死亡一分前ってとこだよ……」そう僕は自嘲的につぶやいたが、ルベティカまで声は届いていないだろう。


「卓也ーっ! これでもまだ出てこないのかーっ! 卑怯者ーっ!」


 魔女の叫びがドーム内にこだました。


「ニコゴリ、ニコゴリ」またルベティカが頭上から僕に声をかけてきた。「おまえの近くにミルフィーナの驟斬鬼しゅうざんきが落ちているはずだ。それを拾って身を守れ。お嬢さまの持っている風切かぜきりに対抗するにはそれしかない」


 驟斬鬼……風切……? 何だそれは?


 見ると、確かにそこには刀が転がっていた。これがそうだろうか。魔女の触手を断ち切ろうとしたミルフィーナが落としたんだろう。僕はズルズルと這うようにして近づいていくと、その驟斬鬼とやらを手に取った。


「……!」


 不思議な感覚が体じゅうを貫いた。


 なんというか、躁のパワーが刀を通じて僕の中にどくどく流れ込んでくるような感じなのだ。


 そうこうしているうちに、紗織さんがゆっくりとこっちに近づいてきた。


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